第65話 不安な気持ち

「お待たせ致しました、フィリップ様」


チャールズさんがポットとコーヒーカップをトレーに乗せて戻ってきた。


「あ、ありがとう…」


ソファベッドに横たわっていたフィリップが起き上がろうとしたので、彼を背後から支えてあげた。


「大丈夫?フィリップ」


「エルザ…すまない…」


フィリップは青ざめた顔を見せながらも私に笑みを浮かべる。


「フィリップ様、それではお茶をお淹れしますね」


「お願い、私にやらせてくれる?」


お茶を淹れようとしたチャールズさんに声を掛けた。


「エルザ様…」


「私が…淹れてあげたいの」


「…」


フィリップは黙って私を見つめている。


「…承知致しました。ではエルザ様、お願い致します」


「ええ」


返事をすると、チャールズさんは一礼して部屋を去っていった。


「フィリップ。待っていてね、すぐにお茶を淹れるから」


「ありがとう」


苦しそうな表情を浮かべながらフィリップが返事をした。

その表情がとても痛ましかった。


コポポポポ…


カップにお茶を注ぐと湯気と共に、薬草の香りがカップから漂う。

次にトレーの上乗せられていた紙包みを開封すると、中から粉薬が現れた。


「フィリップ、上を向いて口を開けてくれる?」


「うん」


口を開けたフィリップに薬を飲ませると彼は小さなため息をついた。


「お茶も飲むでしょう?」


「うん…飲むよ…」


「熱いから気をつけてね?」


「ありがとう」


サイドテーブルの上にお茶の入ったカップを置くと、フィリップが私にお礼を述べてきた。


「いいのよ、お礼なんて」


「分かったよ…エルザ」


そしてフィリップはゆっくりとお茶を飲んでいく。そんな彼の姿を私は黙って見つめていた…。



「悪いけど…少し…また休ませてもらうよ…」


お茶を飲み終えるとフィリップは私に声を掛けてきた。


「ええ、その方がいいわ」


フィリップが横になるのを手伝ってあげると、彼が私に言った。


「エルザ…君は…」


「側にいるわ」


「え…?」


フィリップが意外そうな目で私を見つめる。


「お願い、貴方の側にいさせて欲しいの」


だって…フィリップのことが心配だったから。そして、何よりも彼のことが好きだから、ずっと一緒にいられないなら…今は一分一秒でも長く彼の側にいたかった。


「ありがとう…本当のことを言うと…ずっと1人でいることが…不安だったんだ…」


その言葉に胸が締め付けられそうになる。


「大丈夫、ずっと…貴方の側にいるから…」


「ありがとう…」


薬の効果のせいだろうか?そのままフィリップは眠りについてしまった―。




 フィリップが眠りについてしまったので、することが無くなってしまった私は少しの間何をするべきか考えあぐねていた。


そしてふと思いつき、呼び鈴を持って廊下に出ると鳴らした。


チリンチリン


すると…。


誰かが急ぎ足で近づいてくる。驚いたことにその人物はメイドのクララだった。


「お呼びでしょうか?エルザ様」


「まぁ、クララが来てくれるとは思わなかったわ」


目を見開いてクララを見た。


「はい、チャールズ様よりエルザ様がフィリップ様の執務室にいらっしゃると伺っておりましたので」


「そうだったのね。あのね、お願いがあるのだけど…私の部屋から刺繍セットを持ってきてくれるかしら?センターテーブルの上に籐の籠が乗っているの。そこに全て入っているわ」


「はい、かしこまりました。すぐにお持ちいたしますね」


クララは一礼すると、急ぎ足で荷物を取りに行った。


その後ろ姿を届けると私は眠りについているフィリップの元へ足を向けた―。



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