第60話 フィリップの告白
カチコチカチコチ…
「う…」
フィリップは苦しいのか、時々顔をしかめて目を閉じている。余程辛いのだろう…。
「フィリップ…」
私は黙ってフィリップの傍らに座り、彼の手を握りしめていた。彼の額にはうっすらと汗が浮かんでいる。
ひょっとすると暑いのだろうか…?
濡れタオルでも持ってきてあげようと思い、立ち上がろうとした時に手を引かれた。
「エルザ…何処へ行くんだい…?」
フィリップは不安なのか…私を見つめるその瞳が揺れている。
「額に汗をかいていたから…暑いのかと思って濡れタオルでも持って来ようかと思ったのだけど…」
「…もう…大丈夫だよ…大分楽になったから…」
フィリップは身体をゆっくり起こすとソファに寄りかかり、深いため息を吐いた。
「…本当に…大丈夫なの…?」
「…」
子供のように黙ってフィリップは頷くと、口を開いた。
「エルザ…。僕に…聞きたいことがあるんだろう?…もうここまできてしまったからね…。君の質問には全て答えるよ」
そして弱々しく笑みを浮かべた。
「フィリップ…」
彼に聞きたいことは山程合った。でも、私が一番聞きたいことは…。
「フィリップ、もしかして…貴方は今…重い病にかかっているの?」
「…」
フィリップは少しの間、私を見つめていたけれども頷いた。
「そうだよ…。胃癌なんだ…。半年ほど前に診断を受けたんだよ。今も徐々に悪化してきている。この間余命も告げられたよ。1年持つかどうかってね…」
「そ、そんな…!」
私はあまりの話に一瞬目の前が真っ暗になってしまった。そしてふと思った。半年前と言えば、姉が別の男性と駆け落ちした頃だ。
「フィリップ…もしかして…お姉さまが別の男性と外国へ行ってしまったのって…」
私は声を震わせてフィリップに尋ねた。
「…そうだよ。元々僕達の婚約は両親が強引に決めたことで、そこに僕とローズの意思なんか無かった。解消なんて出来なかったからね。だけど、ローズには既に好きな男性がいた。だから僕はローズに自分の病名を告げて…僕には先が無いから彼とこの国を出るように勧めたんだよ」
「そ、そうだったの…?それじゃ、お姉さまの駆け落ちは…?」
「僕が勧めて…彼女が決めた。彼と…マックスと生きる未来をね」
マックス…。
画家であり、姉の駆け落ちの相手…。そんな事情があったなんて…。でも疑問点が出来てしまった。
「ねぇ、今…フィリップとお姉さまの婚約は2人の意思が無かったと言っていたけど…フィリップとお姉さまはお互い愛し合っていたのじゃないの?」
「…それは無いよ。周りにはそう見えてたかも知れないし、たまたま年が同じということで両親からローズを婚約者にするように命じられたけど、僕とローズは単なる幼馴染でしかなかったからね」
「え…?」
その話は衝撃的だった。
「そ、そんな…私はてっきり…フィリップはお姉さまを好きだとばかり思っていたのに…?」
すると、フィリップが私の手に自分の手の甲を重ねてきた。
「それは…無いよ。だって…僕が好きだった女性は…エルザ、君だったんだから…」
「え…?」
戸惑う私にフィリップの顔が近づいてくる。
そして、気づけば私は彼にキスされていた―。
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