第57話 眠るフィリップ
「あの…チャールズさん…聞きたいことがあるのですが…」
ベッドの上で眠ってしまったフィリップを見つめながら、私は傍らに立つチャールズさんに声を掛けた。
「はい、エルザ様」
静かに返事をするチャールズさん。
「一体、フィリップは…」
言いかけて、ふと思った。
詳しい事情は…フィリップから聞いた方が良いのではないかと。
「エルザ様?何かお聞きしたいことがあったのではありませんか?」
私が途中で口を閉ざしてしまった為だろう。チャールズさんが尋ねてきた。
「いいえ…何でも無いわ。フィリップの目が覚めてから直接彼に尋ねることにしたから。本人の預かり知らぬ所で…勝手に誰かに自分のことを話されるのは…気分が悪いことかもしれないでしょう?」
チャールズさんを見ながら、口元に小さく笑みを浮かべる。
「エルザ様…。やはり貴女はフィリップ様が選ばれただけあるお方ですね…」
「え…?」
今のは一体どういう意味…?
「それでは私は退出致しますが…何かありましたら何時でもお呼び下さ
い」
「ええ。ありがとう」
お礼を述べるとチャールズさんは頭を下げ、部屋を出て行った。
パタン…
部屋の扉が閉ざされると、たちまち室内は静寂に包まれる。
フィリップの枕元に椅子を寄せると、腰かけて彼の様子をじっと伺った。
「フィリップ…」
彼の顔色は青ざめ…具合が悪そうだった。それによく見ると頬も少しコケてしまったように見える。
「どうして気付かなかったのかしら…?」
フィリップのオリーブグレーの髪の毛にそっと触れながら呟いた。
そうだ…私がフィリップの体調の変化に気付けなかったのは自分のことで精いっぱいだったからだ。
フィリップは私を迎え入れてくれる為に色々手配してくれていたのに…私は彼の上部だけの言葉や態度で傷付いて…全てのことに余裕が無くて、気づけなかったのだ。
「ごめんなさい…フィリップ…」
そっと名前を呟いた時―。
コンコン
部屋の扉がノックされた。
『エルザ、俺だ。セシルだけど』
セシル!
ベッドで眠っているフィリップを見た。その顔色はいまだに青ざめている。
フィリップが苦しみだしのでベルで人を呼ぼうとした時、セシルがここにいるからと言ってフィリップは止めた。
ひょっとすると…今の状況もあまりセシルに知られたくないのかもしれない。
私は急いで扉に向かった。
カチャ…
扉を開けると、セシルが立っていた。
「ごめんなさい、扉を開けるのが遅くなってしまって」
「いや、別にそれは構わないけど…兄さんは来ているのかな?」
「ええ。来ているのだけど…昨夜は仕事が忙しかったようで徹夜したみたいなの。だから今私のベッドで眠っているわ」
「な、何だって?!兄さんは…寝てしまったのか?!」
「しーっ。お願い、フィリップが起きてしまうわ。静かにしてもらえるかしら?」
「あ、ああ…そ、そうだな。ごめん。それじゃ…1人で仕事してくるか」
セシルは髪をかき上げるとため息をついた。
「ごめんなさいね?1人で出来そう?」
「何言ってるんだ?当たり前だろう?それじゃ俺は書斎に戻るよ。兄さんが目を覚ましても無理はしなくていいからと伝えておいてくれるか?」
「ええ。分かったわ」
「それじゃあな」
そしてセシルは部屋に入ることなく、書斎へと戻って行った。
パタン…
「ふぅ…」
扉を閉めると小さくため息をつき、改めてベッドで眠るフィリップの側にやってきた。
「フィリップ…」
キルトの上から出ているフィリップの右手に触れ…そっと手を繋いだ。今の私には眠っている時の彼にしか触れることは出来ないから。
「フィリップ…一体貴方に何があったの…?」
フィリップの手を繋ぎながら、彼の眠るベッドの上に頭を乗せて目を閉じると静かな寝息が聞こえてくる。
フィリップ…。
彼の寝息を聞いていると、私まで何だか眠くなってきた。
そしてそのまま私もフィリップの枕元で眠りについてしまった―。
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