挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売

プロローグ 薄幸の花嫁

ゴーン

ゴーン

ゴーン


 4月の美しい青空の下、教会の祝福の鐘が鳴り響く。

今日は私、エルザ・ブライトンと、子供の頃からずっと大好きだった5歳年上の幼馴染フィリップ・アンバーとの結婚式だった。


 純白の美しいウェディングドレス身を包んだ私は幸せの絶頂にいた。腕を組んでいる彼の顔をじっと見つめると、私の視線に気づいたのか、フィリップは私に優しい目を向けて微笑んでくれる。


 本当に夢の様に幸せだった。


 2人の結婚を祝う為に参列したのは私の両親とフィリップの両親と彼の弟のセシルの5人のみ。

結婚式は2人でヴァージンロードを歩き、神父さんの前で誓いの言葉に婚姻届けのサイン。そして指輪の交換。

ただそれだけの簡素な式だった。


 両親は一生に一度の結婚式なのだから、もっと盛大にするべきなのにと文句を言っていたけれども私は両親を必死で説得して納得して貰った。


我儘を言ってフィリップに嫌われたくは無かったからだ。


私がここまで彼に気を遣うのは…2つの大きな理由があった。


1つ目の理由は私とフィリップの身分の差。


元々、私と彼の家柄とでは身分が違う。

フィリップは男爵家の爵位を持つ人だったけれども、我が家は世間では名だたる名門商家であったものの、ただの平民だったので意見を言える立場では無かったからだ


そして、もう1つ…それが一番重要な理由だった―。





*****


午前11時―


 式は滞りなく終わると、両親はそのまま自宅に帰ることになっていた。

本来であれば、結婚式のお祝いパーティーが開かれるはずだったのに、フィリップはそれすら拒否をしたからだ。


なので私はウェディングドレス姿のまま、教会で両親と別れの挨拶をする事になった。


「エルザ…本当にこんな結婚式で良かったのか?」


教会から外に出ると、父は少し離れた場所で自分の家族と談笑しているフィリップを見ながら私に尋ねて来た。


「そうよ。たった…一度の2人の最初の門出の式が…こんな簡素な物なんて…」


母の目には私に対する憐みがあった。

だけど、それでも私はフィリップの隣でウェディングドレス姿で式を挙げる事が出来て幸せだった。例えそれが出席者は身内だけで、何のお祝いパーティーも開かれない結婚式だとしても…。

だって、ずっとずっと子供の頃から大好きだった彼と結婚する事が出来たのだから。


両親は私の事をとても心配してくれている。

2人を安心させてあげなくては…。


「いいのよ、お父さん、お母さん。フィリップ様はとてもシャイで恥ずかしがりやな方なの。だから本当は結婚式だって挙げたくは無かったのよ?だけど式だけはどうしても挙げさせて貰いたいと言う私の願いを受け入れてくれた優しい方なの。むしろ私は感謝しているわ。だってこんな素敵なウェディングドレスを着る機会を与えてくれたのよ?」


私は笑みを浮かべながら、両親に嘘をついた。真実を話せば、きっと両親は心配するだろうから。


「そう…か?まぁ、お前が幸せなら父さんも母さんも、何も言う事は無いが…」


「そうね。エルザがそれで納得しているのなら別に構わないわ」


両親は私の嘘に納得してくれた。


「ええ、そうよ。フィリップ様は優しいお方なの。だから何も心配しないで?」


私は笑みを浮かべて返事をした。


けれど…実際は違う。

私とフィリップの結婚式が決まった時…彼は私にこう、言ったのだ。


< 婚姻届けにサインをして指輪の交換をするだけなんだから、ウェディングドレスはわざわざ着る必要は無いんじゃないかい?結婚式なんか挙げるだけ時間の無駄だと思うんだけど? >


フィリップの言う事は尤もだと思ったけれども、それでも私はウェディングドレスを着て、結婚式を挙げたかった。だから必死になって私は彼に無理を承知で頼み込み…何とか今回このような形で結婚式を挙げる事が出来たのだ。



「それじゃ、我々はそろそろ帰ることにしよう。もうアンバー家との挨拶も済んでいることだし」


父が母に声を掛けた。


「ええ、そうね。それに…あまり長居するわけにもいかないものね…。ごめんなさいね?エルザ。本当はもう少し傍にいてあげたいけど…」


母が申し訳さなそうに言う。


「ううん、大丈夫よ。そんな心配そうな顔しないで?これから私は幸せになるんだから」


私は2人に笑顔で答えた。


「それじゃ、身体に気をつけてな」

「手紙…待ってるわ」


そして、父と母は手を振ると帰って行った―。



****


「御両親は帰ったんだね?」


2人の乗った馬車を見送っていると、不意に背後からフィリップが声を掛けて来た。


「はい。帰りました」


「そうか…それじゃ僕たちもそろそろ帰ろうか?」


「はい。あの…お義父様とお義母様、それにセシルは…?」


3人の姿が見えないことに気付いた私は彼に尋ねた。


「もう、皆帰ったよ。それじゃ、僕達の新居に行こうか?」


「は、はい」


僕達の新居…。その言葉だけで、私は自分の頬が赤くなるのを感じた。



そして、新居に辿り着いた私は…衝撃的な言葉をフィリップから聞かされる事になるのだった―。










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