最終章 6. もう油断はしない

 王国騎士団の船を既に3隻撃沈させた俺が次なる標的として狙った船には、なんと恩人であるライノ隊の乗っている船であった。


 マリスはなぜか隊長と呼ばれる真ん中の船にいる為ここにはいないが、それ以外のライノ隊メンバーが集結しているとあって、これまでに無い緊張が走っている。




「灯、最後にもう一度聞いておくが、本当に止める気は無いんだな?」




「悪いけど俺にも譲れない事情があるんだ。ここで負けるわけにはいかないですね」




「そうか……、そりゃ残念だよ!」




 ライノは最後に俺に情けをかけて救いの手を差し伸べてくれたが、俺はそれを振り払う。


 彼もその反応は予想していたようで、一瞬下を向いて小さく溜息をつくと、次の瞬間には上段から両手斧を勢い良く振り抜いてくる。




「ぬっ!」




 俺は上から振り下ろされる斧を、両腕を硬化させることで受け止める。




「へっ、出会った時はただのガキだったくせに、やる様になったじゃねぇか」




「この世界でも色々とありましたからね……、尾打!」




「うおっと!」




 俺は両手が塞がれているライノ目掛け尻尾による薙ぎ払いで攻めるが、それは読まれていたらしくすんでのところで後方に飛び退き回避される。




「灯君に何があったかは分からないけど、今の君がやってることは間違ってるよ。だから私達が止める!」




「むっ!アマネか……」




 ライノに意識を集中させ過ぎていたせいか、サイドから突っ込んでくるアマネの存在に反応が遅れたが、彼女の槍による鋭い突きは身を捻ることでどうにか回避する。




 しかし、攻撃は回避出来ても彼女の放った言葉は俺の胸に深く刺さった。




「さぁ、観念しなさい灯君!」




「……確かに俺のやってることは間違ってるだろうさ。でもな、それでも俺は戦わなくちゃいけないんだ!」




 俺との間合いを急速に詰めてきたアマネは、そこから連続の突きを放ってくる。


 だが俺はそれを回避せず体を硬化させて全て受けきり、そのまま槍を掴むと海の方へと放り投げた。


 傷つけずにリタイアさせるのが、せめてもの俺の優しさである。




「きゃっ!」




「今だロイネー!」




「了解……!ブリザードフレイムショット!」




 アマネを海へ放った瞬間、この時を待っていたかのようにライノの声が響くと同時に、炎と氷の無数の弾丸が俺目掛け襲いかかって来た。


 王国では珍しい魔法使いのロイネーさんによる、魔弾攻撃である。




「やはりそうきたか……、豪炎!」




 だが、長い間一緒に旅を続けていた俺はその攻めを俺は予想していた。


 だからマイラやその他炎系の魔獣と融合した火炎放射を右腕から放ち、ロイネーの魔法を迎え撃つ。




「嘘……、私の魔法が……!」




 魔弾と俺の放った豪炎は、衝突すると一瞬競り合ったように見えたが、すぐに豪炎が全てを消滅させた。




「俺の豪炎は、氷だろうが炎だろうが関係なく全て飲み込む。魔法は通用しないぜ」




「そうかよ、ならこいつはどうだ!?必殺技起動『拡大兜割り』」




 いつの間にか俺の頭上に飛び上がっていたライノは、そこから大きく斧を振りかぶり必殺技を発動させてきた。


 そして拡大された斧の魔力刃が、俺を狙って振り下ろされる。




「ちっ、行動が読めるのはお互い様か。なら正面から迎撃ってやるよ、獣脚!」




 俺は左足を軸にして左回転しつつ、ユドラやテュポン等の頑強な足を持つ魔獣と融合した獣脚による右の蹴り上げで対抗する。




 俺の獣脚とライノの大斧は、衝突した瞬間爆音と共に周囲に強い衝撃波を放った。


 その影響で、隙をみて攻撃しようと距離を詰めていた騎士達は見事に吹き飛ぶ。




「ぐっ、上から振り下ろしてんのに押されるのかよ……!」




「魔獣の力を甘く見るな――がふっ……、な、何だ……!?」




 ライノとの競り合いは、位置的には不利であったがそれでも俺が押していた。


 が、その直後俺は突然腹に強い衝撃を受け、口から大量の血を吐いたのだ。




 下に視線を落としてみると、なんと青白い光を放つ魔力の槍が俺の腹を貫通していたのだった。




「これ、は、アマネのか……!」




「ごめんね灯君……」




 後ろを振り返ると、そこには船の縁にしがみつきながら槍を突き出しているアマネの姿があった。


 彼女の槍も伸びており、そのことから必殺技を使ったことが伺える。


 アマネの目は悲しみに溢れ、俺を哀れんでいるように見えた。




「力が弱くなったな、このまま押し切るぜ!」




「んぐっ、イビル……!」




 痛みで俺の力が落ちた隙を狙い、ライノは斧に全体重を乗せてきた。


 それに耐えきれなくなった俺は、イビルと融合し速さを得つつ無理やり横に回転することで、辛うじて回避に成功する。


 だがそれでも、ライノの攻撃を完全には避けきれず足に少し掠ってしまった。




「だいぶ怪我したな。もう諦めたらどうだ?」




「灯君!これ以上の戦いは意味無いよ!」




 腹と片足からダラダラと血を流しふらつく俺に、ライノとアマネは投降するよう呼び掛けてくる。




「はっ、冗談じゃねぇ、誰がこんな程度の傷で諦めっかよ……」




「こんな程度って、だいぶ重症だぞ?」




「いや、俺にとって「死」以外は致命傷になり得ない……、癒葉!」




 ライノとアマネの説得を跳ね除け、俺は負傷した箇所に植物を生やす。


 その瞬間草葉が黄金の輝きを放ちだし、枯れ落ちた時には傷は完全に癒えていた。




「なっ、あの傷をこんな一瞬で治したってのかよ……!」




「どうなってるのよ……?」




 癒葉は、迷いの森で仲間にした植物系魔獣の治癒能力を掛け合わせた治療技だ。


 複数の魔獣と同時融合出来る俺は、今やシンリー並の治癒能力を持っている。


 それ故に回復時間を与えないか、即死レベルの攻撃でなければ俺に致命傷は与えられないのだ。




「元仲間だからか心のどこかで手加減してたけど、ここからは本気でいく……、加速!」




 そう宣言すると俺はライチやイビル等の足の速い魔獣と融合し、急速にライノ達との距離を詰める。




「なっ、速――」




「連打」




 一瞬にしてライノの目の前まで間合いを詰めた俺は、腕を分裂させてタコ足の様に増やすと、それらを全て剛腕で強化させて連続で殴る連打で攻撃する。


 ライノは喋る隙も与えることなく、完膚無きまでに叩きのめして海へとぶっ飛ばした。




「た、隊長!」




 無慈悲な程の力技に、アマネはただライノが海へ落下するのを見送ることしか出来なかった。




 容赦の欠けらも無い攻撃ではあるが、油断すればこっちがやられると学んだ以上、もう手加減は出来ない。


 だから友だろうが恩人だろうが関係無く、ここからはただ全力で相手をする。




「次はお前だアマネ……、捕縛」




 俺は呆然と立ち尽くしているアマネを魔獣の糸で拘束する。


 たとえ今は無抵抗でも、また攻撃されるのは明白だからな。


 もう油断はしない。




「あ、灯君!これ以上は本当に戻って来れなくなるよ!?」




「別にいいよ、俺は大切なものを守るために自分を犠牲にするって決めたんだ。……うぉらぁ!」




 俺はアマネの体を糸で縛ったまま、フルスイングで海へと放り投げる。


 これで今度こそ、彼女は這い上がってくることは出来ないだろう。




「よくも隊長とアマネを!灯、あなたよくも……!」




「ロイネーさん、悪いがあんたの文句を聞いている暇わない。旋風!」




「くうぅ……!」




「た、竜巻だぁぁぁ!」




「うわあぁぁ!」




 風を操る魔獣と、翼を持つ魔獣の力を掛け合わせた即席の竜巻で、ロイネーを周りにいる騎士諸共吹き飛ばした。




「ああ、しんどいな……」




 俺はやがて誰も居なくなった船内を眺めそうぽつりと言葉を漏らすと、イビルと融合し鎌で粉々に斬り刻み次の目標へと飛翔した。


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