7章 エピローグ

 帝国の魔獣を仲間にし終わりメルフィナと共に帝国へ帰還した俺は、出た時とあまりに違う光景に己の目を疑っていた。


 だが、残念ながら運んでもらっていたリツもモンスターガントレットを装備し視力を強化させたメルフィナも同じ光景を目にしているようなので、疑いの余地はないらしい。




 俺達が戻ってきた時、港は戦火に包まれ赤く染まっていたのだ。




「これ、どういうことなのですか……?」




「まさか、もう王国が攻めてきたのか!?」




「王国が?」




「エミヨンは王国に戦争を仕掛けようとしてたからな。もしかしたら戦うことになるかもとは思っていたが、まさかこのタイミングとは……」




 帝国は以前王国に対し宣戦布告をしていた。


 だからいずれ両国は戦争になることが分かりきっていたことではある。


 だが俺はてっきり王国は帝国が攻めてくることを警戒して守りを重視するものだと思っていたのだ。


 それがまさか向こうから攻めてくるとは予想外であった。




「とにかく急いで下に降りるぞ!」




「了解です!」




「は、はい!」




 いつまでも上空でながめていても埒が明かないので、俺はリツに指示を飛ばし地上へと向かう。


 そして海が近づくにつれ、燃えている炎がガンマのものであることが確認出来てきた。


 どうやらガンマが横長に溶岩を展開して、王国軍の進行を防いでいるらしい。




「皆、遅れてすまん!状況は!?」




「あっ、ダーリンやっと帰ってきたー!もー、行くんなら私も誘いなさいよねー」




「ご主人様、私もご飯一緒に行きたかった」




「おう大将、そんな慌ててどうしたんだよ?」




「……あれ?皆テンションおかしくね?」




 俺はだいぶ切羽詰まった状況なのかと思って血相変えて戻ってきたというのに、どうにも魔人達の言動が予想とだいぶ違った。


 なんで皆この状況の中平常心でいられるんだ?


 てかドロシーよ、確かに俺はセーナから貰った飯を持ってはいたが、飯を食いに行った訳では無いぞ。




「貴方様こそどうしたのですか?顔色が悪いですわよ」




「いや、だってこんな炎展開させてるってこは、攻められてるんじゃないのか?」




「ああ、これはちげーよ。さっきまで空の野郎が偵察に行ってたんだけど、まだかなり遠くの方ではあるが、船が武装して接近してるのを発見したんだ。だから防衛の為に俺が壁を展開しておいたんだよ」




「うむ、敵はまだまだ遠いので安心ぜよ!」




「なんだ、まだ遠くにいるのか。よかった〜……」




 どうやら王国に攻められているというのは俺の早とちりで、この炎の壁は防衛の為に展開させたものらしい。


 俺は安堵感からどっと腰を落として尻もちをつく。




「もー、ダーリンったら慌てん坊さんねっ」




「よかったですね灯様」




「ああ、無駄に焦って悪かったよ」




 安堵する俺の膝上にちょこんと座ってきたシンリーは、慰めるように頭を撫でてくる。


 その後ろでメルフィナも少し安心したような表情をしていた。


 ともかく俺の勘違いで、戦いはまだ始まっていなかったので一安心である。




「それにしても、獣人族はもう全員船に乗ったみたいだな」




「うん、もういつでも出航出来る」




「よし、それじゃあ交戦になる前にとっととずらかるぞ!」




 武装した船が近づいてきているとはいえ、わざわざそれと戦う必要などどこにもない。


 逃げ切れるならそれに超したことはないのだから。




「では、灯様方とはもうお別れなのですか?」




「そうなるな。まっ、別にこれが一生の別れって訳じゃないんだから、そんな悲しそうな顔するなよ」




「でも……」




 とうとう別れの時がやって来てしまい、メルフィナは寂しそうに肩を落とす。


 すぐにとは言えないが、もう二度と会えなくなるという訳では無い。しかしそれでも、別れというのは寂しいものなのだろう。


 俺もマイラとの別れの時を思い出して、悲しみが押し寄せてくる。




「約束するよメルフィナ、皆を新世界へ送り届けたら必ず会いに来るって」




 だからこそ俺は決意を込めてそう告げる。


 マイラの時だってまた会えたのだから、不可能なことなどないんだ。




「本当ですか?」




「ああ、絶対だ」




 不安げな声を漏らすメルフィナに対し、俺は今一度強くそう誓った。




「……分かりました。それなら次に会った時には、私からもお話したいことがあります」




「話?なんだよ、気になるな」




「ふふっ、それはまた会った時にお話しますよ」




 メルフィナはいたずらっぽい笑みを浮かべながら、そんなことを言ってくる。


 これはなんとしても、再び戻っ来る理由が出来てしまった。




 が、しかしこの後待ち受ける展開を俺達は、一切予知することも出来ずにいた。


 俺達をの運命を巡る歯車は、すでに大きく動きだしていたのだ。


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