5章 8. 第1試験
魔法師団入団試験の受付を済ませてから3日が経過し、あっという間に試験当日はやって来た。
俺達は現在、帝都の城下町にある修練所へと来ている。
「しっかし、よく間に合ったよなー」
「もう少し余裕があるかと思ってたけど、ぎりぎりだったな……」
俺達は受付の最終日に帝都へ到着したので、間に合ってよかった。これがダメだったら、また情報を集めるための別の手立てを考える必要があったからな。
「随分と行き当たりばったりですわね」
「まぁ間に合ったんだからいいじゃない。ここまで来たら後はサクッと合格するだけよ!」
「そうだな。あっ、皆詠唱だけは忘れるなよ?」
俺達は魔法など一切使えないが、それでもここには魔法使いとして参加しているので、嘘でも詠唱は必須である。
この話をしたのはまだ船に乗ってすぐのことだったので、もう一度皆と再確認しておいた。
「受験者は全員集まっているようだな!」
と、そんなことをしているうちに、どうやら試験官殿がやって来たらしい。
張りのある女性の声が、修練場全体に響き渡った。
「今年の受験者は総勢500名を超えているが、1人も受からない可能性は十分にありえる!全員気合を入れて試験に望むように!」
「へぇー、500人もいるのか。通りで多いと思ったよ」
あまり気にしていなかったが、改めて周囲を見渡してみると確かに凄い量の人が集まっている。
だがこの中から合格をかち取れるのはほんのひと握りなのだから、恐ろしく狭き門だ。
「ふん、まぁ今年はこの僕がいるのだから合格者は0はありえないがな」
俺が人の多さに驚いていると、隣からそんな変な声が聞こえてきた。
そちらを見てみると、金髪のキザったらしい男が髪を弄りながら偉そうに佇んでいるではないか。
こういう奴は関わると面倒だから無視しておくのが1番だな。
「それでは早速第1試験を始める!」
女性試験官は挨拶も程々に、試験の内容を説明し始めた。
第1試験の内容をまとめると、今から1時間後にこの修練場内全域で受験票の争奪戦を行うというものだ。
制限時間は30分で、それまでに受験者から受験票を奪い、5枚以上集めた者だけが第2試験へとコマを進めることが出来る。
恐らくは500人もいたら面倒だから、口減らしが目的だろう。
「俺達は5人いるから、誰か1人を確実に合格させられるな」
「ははっ!確かにな!」
現在俺達は1時間が経過するのを待っている最中だ。
他の受験者は建物の中に入ったり修練場を見て回ったりとたりと忙しそうにしているが、俺達にはそんなもの必要ないのでただただ暇でしかない。
あまりに暇過ぎて、必要な受験票の枚数は5枚なので、俺達なら誰か1人を代表にして確実に合格されられる、なんてアホな作戦まで思いついてしまった。
「何馬鹿なこと言ってるのよ。そんなのする意味ないでしょ?」
なんてアホなことを言っていたらシンリーに釘を刺されたので、真面目に話をすることにする。
「冗談だよ、それじゃあここからは別行動にするか。全員落ちるなよ」
「へっ、誰が1番受験票を多く集められるか競走ってわけだな。腕がなるぜ!」
集める受験票は5枚でいいというのに、ガンマはなぜか勝手に競走だと解釈してしまった。
だが、挑まれたからには引き下がる訳にはいかないな。
「受けて立――」
「めんどくさい」
「ほんとバカね……、そんなの1人でやってなさいよ」
「お子様ですこと、わたくしは5枚で十分ですわ」
「「……」」
勝負に乗ろうとした瞬間、女性陣から大ブーイングを浴びてしまい、俺達は何も言い返せなかった。
ただ、幸い俺の発言は途中で遮られたので、文句を言われたのはガンマだけである。
ここは申し訳ないが、彼に犠牲になってもらおう。
「1時間が経過した!これより第1試験を開始する!」
「おっ、始まったみたいだな。それじゃあ皆、健闘を祈る!」
女性試験官による試験開始の合図が聞こえてきたので、俺は一目散にその場を立ち去った。さすがにこの空気には耐えられないからな。
ある程度走ったので後ろを振り返ると、散り散りに移動しだす女性陣の後ろをガンマがとぼとぼと歩いていた。
(頑張れガンマ!)
俺は心の中でそう叫びながら、再び走り出す。時間は30分しかないから、たらたらしている暇はないのだ。
――
試験が始まり、俺は建物の前に立つとライチと融合した。
この帝国にいる間、俺は雷の魔法使いとしてやっていく予定なので、融合出来るのはライチのみである。
と言ってもそのライチの能力はかなり高いので、何も心配はいらないのだが。
「よし、行くぞライチ」
『ピイッ!(はい!)』
ライチと融合した俺は右肩甲骨から黒い翼が生え、右腕も真っ黒な毛に覆われ、指先は鋭い爪が伸びている。その融合した体がマントと袖に隠れていることを確認すると、建物の中へと侵入した。
「ふむ、意外と襲ってこないな。もっと待ち伏せでもしてるのかと思ったが……」
建物内へ侵入しても、すぐに誰かが襲い掛かってくるという訳ではなかった。
500人もいるのだから、もっと派手に責められることを想定して身構えていたので拍子抜けである。
しかしこのまま誰とも遭遇しないのでは埒が明かないので、適当に目に付いた部屋の戸を開けてみた。
「今だ!撃て!」
「「「アイスショット!」」」
部屋の戸を開けた瞬間、複数人の声と共に氷のつぶてが襲い掛かってきた。
「ヴァジュラ!」
しかし、その氷は俺の腕から放たれた雷によって全て粉砕される。どれだけ不意をつこうとも、雷の速度を超えることは不可能なのだ。
ちなみにヴァジュラは俺が考えた詠唱で、前の世界では雷撃という意味がある。俺達の攻撃にはちょうどいいだろう。
「なるほど、複数で待ち伏せって訳か」
俺は1対1での戦闘を想定してドロシー達と別行動にしたが、複数人で待ち伏せという作戦もあるようだ。
得られる受験票は1枚だから、その分多くの受験者を倒さなければならないが、それでも複数人なら負ける確率は低い。
この方が勝ち上がるのは容易かもしれないな。
「な、なんだ今の魔法は……!?」
「お、俺達の攻撃が一撃でやられただと!?」
「くくっ、次はこっちの番だな。人数もちょうど4人だしこれで終わりだ。ヴァジュラ!」
魔法が防がれたことに慌てふためく連中に、俺は右腕を掲げる。
長すぎて手の見えない袖の中から眩い閃光が放たれたかと思うと、次の瞬間には床に4人の魔法使いが転がっていた。
「っし、これで第1試験突破だな。案外楽勝だぜ」
もちろん手加減はしているので死んではいないが、当分目を覚ますことは無いだろう魔法使い達から受験票をいただき、俺は無事受験票を5枚手に入れた。
だが残念ながらこの試験は、受験票を揃えたただけでは終わらなかったのだ。
「フレイムランス!」
「アクアショット!」
「アースハンマー!」
受験票を集め終えた瞬間、俺の背後から魔法が放たれたのだ。
「ぐっ、ヴァジュラ!」
俺はすぐさま雷撃を放つことでこれを防いだが、彼らの攻撃は止まらない。
そう、この試験は30分後に受験票を5枚以上集めたものだけが次の試験に進めることが出来る。
それはつまり、30分間獲得した受験票を守り抜かなければならないのだ。
しかも戦う度に戦闘音は鳴り響くものだから、次から次へと漁夫の利を狙った連中が襲い掛かってくる。
「この、クソったれぇ!」
結局俺は、試験が終了するまでの30分間雷を放ち続けることとなった。
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