1章 20.スライムの名前は「プルム」だ!

「灯君、アマネ先輩!大丈夫ですか!?」


「マリス君……」


 


 クウを失い、全てが終わった所でマリスが到着した。そして次いでラインさん、ローネイさんも遅れてやってきた。




「酷い惨状だな。灯、大丈夫か?」


「……クウが攫われました」


「な、なんだと!?」


 


 ラインさんは信じられないという様子で辺りを見回したが、この惨状では疑いようはない。




「モンスターボックスにも入れられなかったのか?」


 


 ラインさんの質問に対し、俺は答えず首にかかったモンスターボックスを持ち上げた。




「泥……、これで蓋をされクウを入れられなかったのか、くそっ!」


 


 苛立ちで壁に拳を叩きつけ放物線のようにひびが広がる。




「隊長、こうなってしまっては1度本部に戻って仕切り直すしかないですよ」


 


 この場で立ち尽くす俺達4人を見兼ねたのか、ローネイさんが提案した。




「そんだな、まだ全てが終わったわけじゃねぇ。援軍部隊にはこの周囲一帯を探索させろ。俺達は一旦本部に戻って仕切り直しだ」


 


 ラインさんの命令にアマネ、マリス、ローネイさんは従ったが俺は納得がいかない。




「何で戻るんだ!?今全員で探せばすぐ見つかるかもしれないじゃないか!本部に戻ってる間にクウが売られたらどうするんだ!」


「落ち着け灯、闇雲に探してもただ体力を失うだけだ。それにクウはそうすぐに売られはしない。オークションは今日から数日間続く。恐らくクウは目玉商品として最終日に出品されるはずだ」


「じゃあそれまでまで待てって言うのか!?」


「いや、最終日のオークションまで奴らは自分らのアジトにクウを匿うはずだ。ならそこを狙った方が確実に奴らを潰せる」


 


 これまでクウは追われる側の存在だったが、今その立場は逆転している。つまり今度は俺達が反撃に出る番ということか。




「そ、そういう事でしたか。すみません……、早とちりしてました」


「気にすんな。今はクウを攫われた直後なんだ、キレるのは当たり前だ。俺だって頭にきてるしな。いいか、クウは俺達で絶対に助ける。これは俺の命にかけて誓う」


 


 ラインさんの怒りと覚悟は充分に伝わってきた。他の騎士団の顔付きも一気に変わっており、これが隊長の器なのかと実感する。




「私も、必ずクウちゃんは救い出すわ!」


「ああ、僕も今回ばかりは心の底から怒りが溢れてくるよ。絶対に許せない!」


「騎士団としてもこんな悪事は許せません。「竜の蹄」は全員牢屋送りにしてやりましょう」


 


 もう体の痛みもかなり引いてきた。俺は立ち上がり拳を突き上げる。




「クウは必ず救い出す!あいつは俺の相棒だからな。目に物見せてやるよ、俺の相棒に手を出したらどうなるかをな!」


 


 各々の誓いを胸に俺達は1度本部へ帰還した。










 ――












 本部に帰ってきた俺は、ライノさんに医務室に連れて行かれていた。




「灯、その傷なら魔法で簡単に治るだろうが、しっかり休めよ」


「そうも言ってられませんよ。クウを取り戻すまではどんな無茶でもやってのけないと」


「……はぁ、お前には何を言ってもダメそうだな。まあいい、ここが医務室だ。ちゃんと治療して貰っとけよ」


「はい、ありがとうございます」


 


 ライノさんにお礼をいい医務室で回復魔法による治療を受けた。




「凄い、傷があっという間に治っていく」


「なあに、回復魔法ならこの程度の傷は一瞬で治せるのさ。だからこそ騎士達も無茶な戦いに挑める」


 


 医務室のお兄さんは俺の受けた傷をあっという間に治療してしまった。




「よし!これで治療は終了だ。ただ体力ばかりは回復しきれないからね。ちゃんと飯食って寝て休むんだぞ」


「はい、ありがとうございました」


 


 傷はすぐに治ったので、医務員さんにお礼を言い食堂へ向かうことにした。




「クウを助ける為にも、まずは「竜の蹄」のアジトを見つけないと話にならないな。飯食ったらマイラとスライム達と作戦会議だ」


 


 俺は食事の為、モンスターボックスからマイラとスライム達を出した。


 しかし、なぜかスライムは1匹しか出てこなかった。




「あれ、スライム1匹しか居ないぞ?でもモンスターボックスからは全員出した筈なんだがな」


 


 モンスターボックスにまだ残っていないか確認していると、スライムがぷるぷると震え出した。




「!」


「な、なんだ?どうしたんだよ?」


 


 ぷるぷると震えたスライムは次第に体が引き伸ばされ、18匹の個体に分裂した。




「まじか、スライムってくっついたり分裂したり出来るのかよ」


「ガウ!」


 


 マイラは頭を縦に降っていた。




「なんだよマイラ、お前は知ってたのかよ。あ、そっか今日1日モンスターボックスにいたから、色々遊んでたんだな」


 


 モンスターボックスの中は異空間になっており、その中で遊んだり出来る構造だとグフタスさんから説明を受けていた。


 彼は実際に見た訳ではなく、鑑定用の魔法をかけたらそういう構造だと分かったらしい。


 ともかくスライムの疑問も解消したので、食堂へ向かうことにした。




「スライム、悪いんだけど食堂は人が多いから不審がられるといけないし、また1匹になっていてくれないか?」


「!」




 18匹のスライムはぷるぷると震え先程とは逆の手順で繋がり次第に1匹となった。




「それじゃ行こうか」


 


 俺はマイラを頭の上に乗せ、スライムを抱きかかえて食堂へ向かった。




「ガウガウ!」


「!」


 


 マイラは久しぶりに俺に会えたのが嬉しいのか、頭を甘噛みしている。


 スライムも手の中でぷるぷると震えて嬉しさを表現しているのだろうか。


 食堂につき、配膳員さんから3人分の食事を貰い、目立たないよう隅の方の席に着いた。


 今日はパンに焼き魚、スープ、野菜の和え物といった和と洋をごちゃ混ぜにした感じのご飯だった。もしかしたらこちらの世界では、米は無いのかもしれない。


 マイラとスライムを床に下ろし、食事を小皿に分けて食べやすいように崩してあげた。


 昨日スライムが何を食べて生活しているのか調べたところ、基本的に水だけでも生きていけるらしいことが分かった。ただ少しでも強くなる為に食事は大切で、その食べ物は全て溶かして消化するので、何を食べても問題は無い。




「そういえば、まだスライムに名前を付けてなかったよな。18匹分付けた方がいいのか?いや、でも元は1匹で、その場に応じて18匹に分裂するという線もあるか」


「そんなに悩みこんでどうしたの?」


 


 スライムの名前付けに悩んでいると、いつの間にか目の前にマリスが来ていた。


 マリスは俺の向かいの席に座り食事を始めた。




「この前森に行った時にスライムを仲間にしたんだけどさ、最初は18匹だったのに今はくっついて1匹になったから名前をどう付ければいいのか分からなくて……」


 


 俺の話を聞いたマリスはクスクスと笑い出した。




「灯君はいつも面白いことで悩んでるよね」


「な、面白いってなんだよ!」




「ごめんごめん……、それでスライムのことだったね。スライムの名前は1つで大丈夫だよ。スライムは分裂と結合という性質があるから、いくら数が増えても、どれも同じ1匹の個体だから」


 


 なるほど、分身体の様なものだったのか。プラナリアみたいだな。あれはくっつかないで数が増えるだけだけど。




「数のことは分かったけど、じゃあスライムはやろうと思えば100匹にもなれるのか?」


「うーん、出来ない事も無いけど、スライムは成長度合いによって分裂する個体に限界があるからね。100匹となるともっと成長させないとかな」


 


 成長度合いによって分裂する数が変わるなら、大量に増やして物量で攻めたらめちゃくちゃ強いんじゃないだろうか。


 まぁ犠牲を出すのは好ましくないからやる気は無いけど。




「ありがとうマリス、これでやっとスライムの名前を決められそうだ」


「力になれたようで良かったよ。それでなんて名前にするの?」


「そうだなー……」


 


 ぷるぷる震えるから「ぷるぷる」か?いやそれだと安直過ぎる。


 ぷるぷるとスライムを合わせて「プライム」は?いや、なんかこれだと凄い珍しいスライムって感じになったな。


 名前負けしたら可愛そうだから辞めとこう。となると……。




「よし決めた!スライムの名前は「プルム」だ!」


「!」


「そうかそうか、ぷるぷる震えてお前も嬉しいのか!」


 


 ぷるぷる震えるプルムをぐにぐにと撫でた。




「うん、やっぱ灯君は面白いや」


「どういう意味だよ!」


 


 そしてこの後もマリスと他愛ない話で笑いあって食堂を後にした。


 恐らくマリスはクウの事で落ち込んでるんじゃないかと、俺に気を遣ってくれたんだろうな。


 それにしても、俺ってネーミングセンス無いのか?

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