1章 18.騎士団の精鋭達

「わざわざこんな所まで迷い込んでくるなんて、ラッキーだぜ!」




 黄ラインの男は陽気に歩きながら近付いてきた。




「おい、油断はするなよ。この前はあのドラゴンにやられたんだ。今度は確実に捕らえるぞ」




 青ラインの男は真面目で几帳面といった感じか。


 そして赤が、ボスなんだろうな。あの時見た感じと同じだ。




「小僧、また会ったな。今ドラゴンを渡せば大人しく生かしてやるが、どうする?」


「誰が易々と渡すかよ。お前らこそまた飛ばされないうちにとっとと失せるんだな」


「そうか、ならば殺すまでだ。やるぞ」


 


 赤ラインがそう告げた瞬間、3方向から同時に雷、水、炎の魔法が放たれた。避けられない用に上手く包囲するように放たれている。


 だが、この程度の攻撃なら今のクウには効かない。




「クウ、頼むぞ!」


「クァッ!」


 


 クウは吠えると同時に肩から飛び降り、ワープホールを出現させた。3方向の攻撃は寸分違わず術者に跳ね返し、土煙を巻き上げた。




「いいぞ、クウ!」


「クウ!」


 


 クウも自身に満ちた顔をしている。これはやったか?




「おいおい、完璧に跳ね返されてるじゃねーかよ」


「こいつらも少しは成長しているということか、油断はするなよ」




 土煙の中から黄ラインの男と青ラインの男の余裕げな声が聞こえてくる。




「な、なぜまだ無事なんだ!?」


 


 クウのカウンターは相手の隙を完全に突いたはず。それを完全に防ぐだなんて、一体どうやって防いだのか。


 巻き上げられた土煙が収まってきた時、クウのカウンターを防いだ正体がその姿を現した。




「な、何だそいつは?」


 


 赤ラインの男の前には泥で出来た、マネキンのようなものがあった。


 その人形の手から伸びた泥がまた、2人のローブ男の前で壁になって攻撃を防いだようだ。


 泥の壁はズルズルと収縮し、人形に戻っていき次第に腕の形へと変化していく。


 人形自体も攻撃ではねた泥が、戻ってきており、最後には髪の長い女性の姿へと変化した。その首には拘束されているかの様な首輪というおまけ付きで。




「こいつは『泥の魔人』と言ってな。膨大な魔力をその身に宿した化け物さ。帝国で戦闘用奴隷として捕まえたんだよ」


「ううっ……」


 


 泥の魔人は疲労感のある声で呻き、膝から崩れていった。


 彼女は立っているのもやっとな程、フラフラな状態のようだ。




「なんて非人道的な……!」


 


 俺は怒りで何も考えることが出来ず、気づけば赤ライノの男に殴りかかっていた。




「単細胞が、やれ泥の魔人」


「う、うああ」


 


 赤ラインの男の命令に従った泥の魔人は頭を抱えて呻きながらも、右手を前に突き出しそこから泥を噴射してくる。




「ぐふっ!!」


 


 無鉄砲に突撃したせいで、泥の魔人の反撃をもろに受け、後ろの壁に叩きつけられる。


 背中を強く打ち付けられたせいか、体の中の空気が一気に吐き出され噎せ返る。意識までもが朦朧としてきた。




「ク、クウ、お前だけでも、にげ、ろ……」


 


 掠れていく意識の中、咄嗟に指示を出すがクウは逃げようとしない。俺の前に立ち塞がって、守ろうとしてくれてる。




「そろそろドラゴンの方も頂いちゃいますか!」


「そうだな、長居して騎士団が来ても厄介だ」


「やるぞお前ら」


 


 3人は同時に呪文を発動させた。先程の攻撃とは違い自身に魔法をかけているみたいだ。


 恐らく身体強化系の魔法だろう。ワープホール対策の為に素手でクウを捕らえるつもりなのか。




「やめ、ろ……」




 薄れていく意識の中で、俺は声を絞り出した。




「そこまでだ!!」


 


 クウを捕えようとローブ男達が動き出す直前、3人に目掛けて同時に爆発魔法が襲う。




「ちぃ!」


 


 土煙の舞う中俺とクウの前に姿を現したのは、騎士団の精鋭達だった。




「マリス君、私達でこいつらを足止めするわよ」


「ローネイさん、了解です!」


 


 マリスは鞘から柄を抜くと同時に魔剣を起動し、居合の型で黄ラインの男に斬りかかった。




「はあああ!!」


「くらいなさい」


 


 ローネイさんは、ステンレスの杖から炎と雷の玉を出現させると、赤と青のラインの男に同時に牽制していく。




「悪い灯、遅くなった!」


 


 そして前衛で体を張る2人を背に、ライノさんとアマネと偵察をしていたザックさんが俺達の元へとやって来た。




「皆さん……、助かりました……」


「灯君ボロボロじゃない!」


 


 アマネに肩を貸してもらい、なんとか立ち上がることが出来た。




「灯はもう限界だ。アマネ、灯とクウを連れて離脱しろ!」


「はい!さあ、灯君行くわよ!クウちゃんもおいで」


 


 あんなにアマネに懐いていなかったクウも俺を心配してか迷うことなく駆けつけて来てくれた。可愛いやつだな全く。


 アマネは俺とクウを担いだ状態で、壁を駆け上がり屋根を伝いに一直線に騎士団の本部に向かう。







――







「よし、無事離脱できたな。ザック、お前は援軍を呼んでこい!ローネイ、赤は俺がやる!青は任せたぞ!」


「「了解!」」


「くそ!騎士団か、キマイラだけでなくドラゴンまで……!邪魔をしやがって」


「すまんな、悪事は見過ごせなくてよ!」


 


 ライノは背中に背負っていた棍棒を振り上げた。するとその先端を中心に魔力の光が溢れ、青白い斧と化す。




「うおおおお!」


 


 ライノの振り下ろした一撃は轟音と共に大地を割り、赤ラインの男を直撃した。




「どうした騎士団のガキ?動きが鈍って来たぞ!」


 


 マリスは黄ラインの男が行使した身体強化の魔法を相手に、左手の小手に仕込んであるシールドを展開して防ぐので精一杯だ。


 と、そう思わせていた。




「トドメだオラァ!」


「今だ!」


 


 黄ラインの男が不用意に近づいてきた一瞬の隙をつき、マリスは鎧に魔力を注いだ。




「アーマー起動!」


 


 魔力を取り込んだ鎧はシルバーから薄い青へと変色し、微かに光り輝き出した。


 騎士団の鎧は魔力を注ぐことで、注いでいる間高速移動を可能にするのだ。




「くらえ!」




 黄ラインの男が油断したところを狙い、急激な加速で惑わし裏に回って決める、マリスの必殺の型だ。


 一方、炎と雷の玉、ローネイの魔法の量に青ラインの男は攻撃を防ぐので手一杯だった。




「くそっ、なんて魔法の量だ。抑えきれない!だが、これだけの量なら……」


 


 青ラインの男は、先程の身体強化の魔法の効果を生かし、無数の魔法の合間を見切りローネイの背後に回り込んだ。




「背中がガラ空きだ!」


 


 魔法を放つことに意識を注いでいる今なら、背後に隙があると判断した。


 青ラインの男は、背後から渾身の魔法を発動しようとした。だが、ローネイの魔法はその上をいっている。




「おバカさんね、後ろに来るって分かっているのだから、罠を仕掛けておくのは当然でしょ」


「なっ!」


 


 青ラインの男の頭上から雷が一直線に轟く。ローネイは、元々敵を背後におびき寄せて、この罠で決めるつもりだったのだ。




「ようお前ら、片付いたみたいだな」


「はい!」


「大したこと無かったわ。拍子抜けよ」


 


 ライノは、地面に倒れている赤ラインの男を持ち上げ、地面に倒れている、泥で汚れた女性を指さして問いただした。




「おいお前、この娘は一体なんだ?明らかに普通の人間じゃねえな」


「ふっ、相変わらずの単細胞だなお前達は。だからドラゴンを奪われるんだよ」


「何ぃ?おい、それは一体どういう意味……!」




 ライノが問い詰めようとさらに赤ラインの男を持ち上げた所で、男の下半身がこぼれ落ちていった。




「なっ!どうなってやがる!?」


 


 赤ラインの男は次第に全身が泥と化し、ボトボトと手からこぼれ落ちた。




「隊長、私の倒した敵も泥人形でした。どうやら囮に嵌められたようですね」


「嵌められたんだ、灯君達が危ない!」


 


 マリスは灯達の後を追い、アーマーを起動させて走り出した。




「おい待て!勝手に動きやがって。不味いな、隊をバラバラにされてる。敵に振り回されすぎだな」


「はい、ここは援軍を待って集団で動くべきです」


「ああ、俺も普段ならそうしてるだろうが今回はダメだ。民間人を巻き込んじまってるんだからな。こっちのリスクを捨ててでも灯達を追うべきだ!」


 


 民間人を守る立場であるはずの騎士団が民間人を犠牲にするなどあってはならない。


 それがたとえ異世界の人間だろうと、1度守ると決めたら守り通すのが、ライノ達の騎士道であった。




「確かに、民間人を犠牲にするなど騎士の名折れ。急いで向かうべきですか……」


「灯達を追うぞ!」


「はい!」

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