はるかぜコオリヲトク
酒井小言
第1話
早朝から広告紙面は雑然とした仕事場へと頭を働かせる。
果物をモチーフにしたロゴの十六ギガの携帯音楽プレーヤーは七千八百円(電源ガ入リ、外観ニ目立ッタ傷ガナケレバりさいくるしょっぷヘ、動カナケレバ雑品ニ)、アメリカ製の三枚刃の電気剃刀は千九百八十円(コレモホボ同様ニ、定価ガ安イカラ、ヨホドキレイナ外観ジャナケレバ雑品ヘ)、日本製の男性用腕時計は五万九千八百円(コンナノハ滅多ニ出ナイダロウ……、箪笥ノ引キ出シニ偶偶隠レテイルグライカ)、九州の酒造会社の七百五十ミリリットル金箔入り梅酒は四千百円(賞味期限ト状態ニヨッテハ皆デジャンケンダロウナ、ソレカいべんと用ダ)、足のつぼに効く健康サンダルは六百円(コレハ混載ごみダ)、韓国製ワンセグチューナー付き携帯電話は三万八千円(ヨホド外観ガ悪クナケレバ売レルダロウ)。
新聞と同量の折込チラシには膨大な数の商品が刷られており、赤いフォントの数字が点数として、青いのは絞り出した白白しい褒め言葉を、黒いのは影をつけずに控えめに、どれも通信簿を飾るためにうるさく彩られている。日常生活を華やかに守るための平凡な産物として無駄のない洗練された形で、かつ歪にも生まれた数数は、生産活動を維持するための厚かましい狂気が滲み出ており、平板な顔に修復できない脆さや、着飾られた機能に広告のわかりやすい縮図が表れていて、無駄こそサイクルの根底として真理がどこもかしこも通底している。これら人間の英知が凝縮された品品には世間知らずの古さがなく、線や色はどれも流行が取り入れられており、西欧の有名企業の影響を受けたであろう製造会社の鍋セットには多くの人にとって可愛らしいと思われる優しい緑色が使われていて、これに明るさを強めて化学的な色彩を加味すると、一昔前の日本製の二輪車のガソリンタンクに見られるような色調になるだろう。ギラギラした色の鋭さは今はほとんど見当たらない。
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