14話 硬式野球部の部室
カレー事件から一色達は教室に戻ってきた。
ここで1つ疑問が残る。
カレー事件を撮影して、それをネットに上げたらカレー事件を起こした人達、詰みじゃない?
って思う人、かなりいると思う。
俺もそう思っていた。
しかし、この学校で撮影したものをネットに上げようとするも、エラーが発生して上げることができない仕様になっている。
この学校とは全く関係ない動画の中に、この学校の動画を1秒でも差し込んでも
ネットに上げることは不可能だった。
また、LINEといったメッセンジャーアプリを使って、学校外の人に、学校内で撮影した映像、画像、メッセージを送ることもできない。
さらに、この学校の生徒、もしくはこの学校の退学者、卒業生が、この学校に関する情報をネットに書き込もうとすると、これまたエラーが発生する。
縦読み、横読み、当て字で対応にも不可能だった。
口頭も不可能だ。俺がクラブカーストバトルシステムのことを、電話で凪や風花に話したら、
「何何?よう実の軽井沢恵が可愛いって話?」
と全く違う話をしたことになっていた。
紙類を使って、この学校の情報を書き込んで、外部に送ろうにも、これまた不可能だった。
完全にこの学校の情報が外部にシャットダウンされてる。
一色はスマートフォンを眺めながら思っていた。
……あれ?でもパンフレット(紙類)にはこの学校の情報が記載されているし(クラブカーストバトルシステムを除く)、この学校に入学する前の俺が読んだよな。
どういうことだろう……
それより、今日は始業式だけの午前授業。
午後からは硬式野球部の練習だ。
一色は、練習着に着替えるため、硬式野球部の部室に行くことにした。
2年G組の教室から歩いて3分。
部室棟に到着した。そして、部室棟の部屋割り表をみる。
硬式野球部の部室は403号室のようだ。
で、右隣は陸上競技部の部室なのね……一色は部室棟の部屋割り表をみて思っていた。
って、いかんいかん……俺は陸上競技部じゃないだろ。硬式野球部だろ。
一色はすぐさま硬式野球部の部室がある4階へと向かった。
あとさ、部室棟にエレベーターがあるとか、ほんと便利だなこの学校。
そして、一色は深呼吸して心を落ち着かせてから、硬式野球部の部室のドアを開けた。鍵は開いているようだ。
梶谷以外の部員についてよく知らない。どんな人達なんだろう。一色は期待と不安で
半々だった。
開けて早々、何人かの部員が練習着に着替えていた。その中に、梶谷がいない。
まだ来ていないのか。
すると、練習着姿のまま、部室内にある椅子に座っている1人の部員が、
「あ、とうとうきたか。」
彼はそう呟くと、椅子から立ち上がり、ひと呼吸おいてから、
一色の方へとやってきて、
「俺は硬式野球部の部長、浜崎蓮だ。よろしくな」
と自己紹介してきた。部長さんだったか……
「俺は一色颯佑です。今日から硬式野球部のお世話になります……」
「ははは!! 固くなってるよ。一色!!」
と固くなっている一色を、浜崎が笑う。
「で、これ。硬式野球部の練習着。これに着替えてね」
と浜崎は笑うのをやめ、一色に練習着を渡す。
一色が着替えている最中、浜崎が話しかけてくる。
「そういえばさ、一色って、明乃森高等学校の硬式野球部の『元』部員なんだよね。」
あ、知ってたか。俺の前いた学校。
「そして、1年生ながら、秋の宮城県大会、東北大会の優勝に貢献。神宮大会で完全試合未遂をした明乃森高等学校のエース投手……だよね」
浜崎はにっこりと笑みをみせる。
知っていたのか……俺の経歴を……
「ストレートを主体とし、スライダー、フォーク、カーブを使い分ける投手。
ちなみに、ストレートの回転数はプロ顔負けの2400回転。
完成形としては、楽天イーグルスの則本投手が1番近いかな。」
まぁ……大体は合っているな……楽天イーグルスの則本投手が完成形なのかは
俺にはよくわからんが……
「趣味は、アニメを観たり、漫画、ライトノベル小説を読むこと。
ちなみに、好きな作品は『ようこそ実力至上主義の教室へ』とのこと」
「え??なんで……俺の好きな作品知ってるんですか?」
「なんでって……この雑誌読んだからな」
と困惑した一色に浜崎は、とある雑誌をみせる。
「『Vやねん高校野球!!選抜甲子園出場校の1年生特集!!』……って……この雑誌……」
思い出したわ……俺、取材受けていたわ……
選抜甲子園に出場するからと……東北大会を制した時に、
すぐさま取材受けたんだよなぁ……
東北大会を制したら、99.9999%甲子園出れるからな。
出場校が発表される前に、前もって取材受けてたんですよ……
なお、不祥事。出場辞退……
「よくありましたね。その本。」
「まぁ、太田先生が買ってきてくれたからな。その本」
「太田先生?」
「あれ?知らなかったの?一色の担任の太田先生って硬式野球部の顧問の先生だぞ」
そうだったのか……知らなかった……
「この学校の硬式野球部って珍しくてな。顧問の太田先生と、監督の山口先生。
女性教師2人体制なんだ」
「そ、そうなんですね……」
「まぁ、女神の太田先生、悪魔の山口先生だな」
と浜崎は笑いながら言う。
「間違いですよ。浜崎さん。女神の太田お姉さん、女神の山口お姉さんですから」
と、とある少年が真顔で言う。続けて、
「言い忘れていたね。俺の名前は内島勝一。よろしくな」
と内島が自己紹介をする。そして、一色は頷ぎ、よろしくと小さく会釈して言う。
「じゃあ、俺はこれで」
内島は部室を去っていった。内島が去って行った後、
「そういや、梶谷来てませんね」
「来てないってか……梶谷はもうグラウンドに行ったぞ」
「そうなんですね……」
「新入生も3年生も全員来たし……残りは……」
と浜崎が言いかけた途端、部室のドアが開く。
やってきたのは、一色よりも……部員一デカいんじゃないって少年。黒髪だ。
「お疲れっす、浜崎さん」
「やっときたか。荒松」
「いや~遅れたんですよね。HRが長引きまして……」
と笑顔で言う、ガタイのいい少年は一体……一色をみた少年は、
「浜崎さん。彼って一色颯佑という、新しく転校してきた人ですよね?」
「そうだ」
浜崎はその少年の発言に対して頷くと
「というわけで、俺の名前は荒松豪。よろしくな!」
「よろしく。俺の名前……知っていたのね」
「ああ、梶谷から聞いてな」
と荒松は頷きながら言う。
「彼は、高校から野球始めたんだよ」
「そうなんですか?」
「ああ、中学校は陸上部だったよ」
一色は、浜崎と荒松の発言に驚いていた。
高校から野球とな……荒松選手……どんな選手なのだろうか。
「ってなわけで、新入生と、一色が来たのを確認したし、俺は先言ってるからな」
と言い、浜崎は部室を出ていった。
一色と荒松……2人きりになる。
いそいそと着替える荒松に対して、
浜崎が置いていった『Vやねん高校野球!!選抜甲子園出場校の1年生特集!!』の
表紙を手に取り、眺める一色。
少し沈黙するが、荒松が沈黙を破るように言う。
「なぁ……一色って……なんでこの学校に来たんだ?」
荒松が聞く。
「俺が前いた学校の硬式野球部が、ある事件を起こして無期限の活動停止処分になってな……」
「え? それってマジ?」
「あれ? 知らなかった? ニュースでやってたんだけど……」
一色に言われ、荒松は少し考えた後
「ああ! あの事件か。女子高生を盗撮した事件ね。硬式野球部ぐるみの!
明乃森高等学校だよなそれ……そうだそうだ思い出したわ……」
と荒松は頭を掻きながら言った。そして、
「そうか……一色は明乃森高等学校の野球部員だったのか……」
と荒松は続けていった。
「で、途方に暮れていたところ、俺は山口先生の誘いもあって、この学校に来たってわけ」
と一色は荒松に言う。荒松は少し考えてから、
「でもよ……たしか高校野球ってさ、転校した場合、1年間、高野連が主催する試合への出場が禁止されるんだよな」
「まぁ、そうだな」
「……大丈夫なのかよ」
「……最後の夏の大会には間に合うからね。そして、俺は最後の夏の大会にすべてをかける……」
一色はそう決意していた。
「そうか……わかった。これからよろしくな!」
「ああ、よろしく」
こうして、荒松と一色は部室の部屋を出た。
一色は、ふと、陸上競技部の方の部室をみる。
すると、一色には信じられない光景が目に入ったのであった。
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