恋のPARANOIA
平 遊
第1話 3週間前
(もう、何やってんだよ・・・・)
【おはよう】
【どうした?】
【おーい!】
エリカに送ったメッセージ。
1週間前に送ったものに、まだ【既読】が付いていないことを確認し、僕はため息を吐いた。
もちろん、彼女からの連絡も無い。
たまに、
「スマホ失くしちゃって」
とか。
「仕事が忙しかったんだよ~」
とか。
そんな理由で2日くらいは連絡が無いこともあるけれど。
(もしかして・・・・何かの事故に巻き込まれてるとか?!)
エリカは僕の彼女だ。
一応。
多分。
・・・・恐らく。
いや、絶対!
だって、エリカの方から僕に告白をしてきてくれたのだから。
あの日は、エリカの最終出社日だった。
***************
「小田さん」
「あれ?川本さん、送別会行ったんじゃ・・・・」
溜まった仕事を片付けて会社を出たのは、もう20時をだいぶ過ぎた頃。
このままどこかで夕飯でも食べて帰ろうと、1人ビルを出たところで、僕を呼び止めたのはエリカだった。
「送別会は、昨日ですよ。小田さんは、来て下さらなかったですけど」
拗ねた様に口をとがらせる彼女の艶やかな唇に、僕は持っていかれる心をどうすることもできなかった。
要は、惚れていたのだ、僕は。
この、川本エリカに。
エリカは新入社員としてこの会社に入ってからずっと、老若男女を問わず、周りの人から好かれ、可愛がられていた。
なにしろ、彼女は社交的でとても明るい。そして少しばかり、天然。
小柄ながらもメリハリのあるボディラインは、それほど体形を強調しない服の上からでも分かるほどにスタイル抜群。
童顔で可愛らしい外見ながら時に見せる妖艶な微笑みで、僕を含めていったい何人がノックアウトされただろうか。
ところが。
ハートの嵐をあたりに振りまいている超本人は、てんで無自覚とくる。
勇敢にもエリカに告白して玉砕した社員が何人もいることを、僕は知っていた。
一方、自分でも超がつくほど真面目を自覚している僕は、人づきあいがあまり得意ではない。
おまけに、ネガティブに考えがちだ。
彼女とは、まるで正反対。
どんなに彼女に惹かれたところで、釣り合う訳がない。
それに、僕には玉砕覚悟でエリカに告白するほどの勇気の持ち合わせも無い。
だから、ずっと片想い。
運よく、新入社員の彼女の先輩指導者に指名され、他の人よりは彼女と接する機会は多かったものの、彼女がこの会社を去る事が決まってもなお、告白しようなどという考えは、頭の片隅にも思い浮かばなかった。
「ごめんね、仕事が終わらなくて。それに、僕なんかが行ったって、盛り上がる訳でも無い・・・・」
「私は来て欲しかったです、小田さんに!」
珍しく不機嫌そうに強い口調でそんな事を言うエリカに驚きながらも、僕は尋ねた。
僕に来て欲しいなんて、理由が全く分からなかったから。
「え?なんで?」
「決まってるじゃないですか」
言いながら、徐々に赤みを増すエリカの頬。
ほんのりと上気したその顔がまた、堪らなく可愛らしくて。
見惚れる僕に、エリカが言った。
「私、小田さんの事が好きなんです!私を小田さんの彼女にしてください!」
***************
(どこにいるんだよ、なにしてるんだよ・・・・)
反応の無いスマホを眺めていると、僕の悪いクセ、ネガティブ思考が頭をもたげる。
やばい、マジやばい!
と、押しとどめる自分も簡単に押し流されて、悪い想像ばかりが頭の中に浮かんでくる。
ねぇ、エリカ。
君もしかして今、誰かと一緒にいるの?
だから、僕のメッセージも見てくれないの?僕に連絡もしてくれないの?
ねぇ、もしかして。
・・・・誰かと一緒の夜なんて、過ごしてないよね?
「あーっ!」
膨らみ始めた悪い想像を止めることができず、僕は思わずスマホを放り投げて頭を抱えた。
誘うように薄く開かれたエリカの唇に、無遠慮に覆い被さる僕の知らない男の姿。
やがて男の手は、器用にエリカのブラウスを脱がせて、ブラジャーのホックにまでそっと忍び寄る。
ダメだ、やめろ、やめてくれっ!
そんなこと、絶対ダメだっ!
頼む、エリカ・・・・
僕の頭の中のエリカは、可愛らしくも艶やかな笑みを浮かべて僕の知らない男を受け入れ、抱かれながら恍惚の表情を浮かべている。
「ちがうっ、そんなことある訳ないっ!」
頭をブンブンと思い切り振っても、エリカと知らない男の情事の光景はなかなか僕の頭の中から出ていってくれず。
「・・・・勘弁してくれ」
精神的に疲れ果てた僕は、そのまま床に体を投げ出した。
「キミの成分、チャージしたいんだ。頼むよ、エリカ・・・・」
こんな僕、
まるでこれじゃ、『恋のパラノイア』だ・・・・
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