雑用係 クソガキのこれからを考える


 さて。昼食休憩を終えたネル達だったが、いつアンドリュー達が終わるか分からないため先に森林エリアのチェックポイントに向かうことにした。


 そしてどうにか辿り着き、早速課題に挑んだのだが、



『オ~ッホッホッホっ! 楽勝ですわっ!』

『珍しく意見が一致したねガーベラ。こんなのちょろいちょろい!』

『いや、それお二人だからこそ言える事ですからねっ!? 普通はそう簡単じゃないですからっ!?』



 




 二つ目の課題は


 これは事前に用意された邪因子を動力とする五体の人形兵士を操り、同じく係員が操る人形の妨害を乗り越え重要物資という設定のボールを特設ステージのスタートからゴールまで持って行くというもの。いわば候補生達がやっている試験の縮小版だ。


 ちなみにこの人形、以前兵器課の一件で暴走した自動人形オートマタをモデルにした小型量産機。ロマン機能を減らし、単純な動きしかできない代わりに僅かな邪因子でも起動可能となったとか。それに起動が僅かな量でも可能なだけで、流す邪因子量に応じて出力は変わる。


 参加できるのはチームリーダーを含めた最大五名。そしてそれぞれが指揮官役、人形達に邪因子を流す役、人形を操作する役など分担して行動する。


 単純な邪因子量に、それぞれ別の人形を操作する制御技術。モニター越しに全体を俯瞰して的確に行動を決める判断力。


 様々な能力を試される割と難易度の高い課題なのだが、


『右前方から少し邪因子の反応あり。多分罠ですね。左から行きましょう』

『了解しましたわリーダーさん。ほら我がライバル。ボールを持っている2番と3番にもっと邪因子を流してくださいませ。多少量が多くてもこっちで調整しますから』

『む~。良いけど、量が多すぎて泣き言言わないでよねっ!』


 本来一人につき一体か二体操るのが限度の人形らしいが、そういう物の同時制御ならガーベラ嬢の得意分野。一人で隊長機以外の全てを制御し、ピーターは隊長機の制御及び全体の指揮に専念。


 そして高い邪因子量を誇るネルが全機体を動かす邪因子を負担し、人形全体の出力がかなり上昇。妨害を普通に潜り抜け、無事課題をクリアしたという訳だ。





「これに関しては普段よりも更にハニーの活躍が光っていたね! 見ただろ係員の操る人形との戦いを! 順番待ちをしていた他のチームも驚く一戦だった」


 うんうんと頷きながら、レイはドヤ顔でそう語る。相変わらずガーベラ嬢がらみになるとコイツは。


「ああ。あれは文句なく見事だった。ただ一応補足しておくが、上手くタイミングを見極めて指示を出したピーター君。それと邪因子の出力を常に高水準に保ち続けたネルも評価すべきだろ?」

「それはそうさ! 特にネル嬢は、あれだけの邪因子を流し込んでおきながらほとんど疲労が見られない。まさしく逸材と言えるね」


 そう。あのクソガキは間違いなく逸材だ。


 類まれなる圧倒的な邪因子の質と量。少し戦っただけで相手の技を感覚的に理解し身につける戦闘センス。多少歪んではいるが、誰かの為に自分を高めようという強い意志。


 そして、どこか首領様を思わせる特徴的かつ強烈なプレッシャー。何故か変身できないという点を補って余りある力だ。


 このまま成長すれば幹部……いや、きちんとした教育役がつけばいつかはにも手が届くかもしれない。


 性格面や家庭の事情的な事で少し……と言うよりかなり問題があるが、最近は友人と言える者も出来始めた。改善の余地は十分にある。


 しかし俺の仕事はあくまでもこの試験が終わるまで。結果が出るまでとしても数日程度。それ以上ネルに付きっきりでは第9支部の仕事が疎かになる。


 名残惜しくなどない。ネルのあれこれにこれ以上首を突っ込む気もないしな。クソガキの面倒を見なくてすんでありがたいくらいだ。


 だがまあ……うん。時々飯をたかりに来るぐらいなら許してやるとするか。食材が余ってたらだが。


「……ふむ」


 そこでふと気づくと、首領様がなにやらネルを見て考え込むような仕草をしていた。


「首領様? 何か気になることでも?」

「少しな。……まあ良い。この調子ならおそらく幹部昇進は成ろう。その時に直接見定めれば良いか」


 おいおい。何やらかしたあのクソガキ!? パッと見で俺には気になる所はなかったが、首領様式典でお目通りする時に直で話す気だぞ!?


 流石に首領様にまで無礼な態度は取らないだろうが、それはそれとして下手すると俺の頭と胃が痛くなりかねない。


 そう戦々恐々としていると、


「おや? 見てみなよケン君。首領様も。ネル達が向かう先は……」


 レイの言葉に画面を見ると、ネル達は草原エリアではなくさっきの黒い扉に向かっていた。どうやら課題をクリアした勢いそのままにこちらに挑むらしい。


 実際今のネル達の流れはすこぶる良い。残る草原エリアの課題は既に内容が割れている以上、ここで追加評価を得るため余裕がある内にチャレンジ要素に挑むのは選択肢としてアリだ。


 それに中で戦うのはエキスパート級の敵が多くても三体程。そして何かの間違いで五体位出てきたとしても、今のあのチームならきちんと連携が取れれば勝機はある。


「さあ。ここが正念場だぞ。気合を入れろよ」





 ◇◆◇◆◇◆


「さあ! 戻ってきたよ黒い扉っ!」

「二度目はまっすぐ来れましたわね。また迷うようなことがあったらどうしようかと思いましたわ」

「そんなことある訳ないじゃない」


 ガーベラの揶揄うような言葉を、あたしはばっさりと切り捨てる。


 まあ確かに百歩……一万歩位譲ってさっきはちょっとだけ道に迷うようなことがあったかもしれない。


 だけどあたしはそんな失敗を繰り返さないレディ。ちゃ~んとタメールの地図機能にこの場所をマーキングしておいたのよ!


「それはそうと、本当にこの扉に挑むんですか? さっきはしっかり休んでからこっちは挑戦できるなんてカッコつけて言っちゃいましたけど、わざわざやらなくても良いんですよ?」

「ふふん! な~に言ってんのよピーター」


 あたしは心配性なピーターに胸を張って言ってやる。


「次の課題の内容も分かったし、あとはどれだけ評価を伸ばせるかでしょ! それに、アンドリュー達にやられっぱなしっていうのもシャクじゃない」

「ボクは別にやられっぱなしでも良いんですけど」

「私はこういうのはきちっとお返しして差し上げる派ですわ!」


 ほら二対一でこっちの勝ちと言うと、ピーターは「もっとリーダーの威厳が欲しいなぁ」とぼやいていた。……まあ威厳はないけど少しは役に立ってるし、一時的にリーダー扱いするくらいはしても良いんだけどね。


「うぅ~。よっし! こうなったらもう腹を括っていきますよボク!」

「その意気ですわリーダーさん! さあ。どうぞ」


 ガーベラに背を押され、ピーターはゆっくりと扉に手を伸ばす。本来ならあたしが一番に開けたい所だけど、どうやらリーダーが中に入ることで周囲のチームメイトごと転移されるらしいから仕方ない。


 さあ。扉の先に居るのは一体どんな相手かな? 仮にもチャレンジ要素っていうくらいだから、それなりに歯応えのある相手だと良いな。


 ゆっくりとピーターが扉を開けて中に入ると、ちょっとした浮遊感と共にあたし達の身体は森の中から姿を消す。


 そして、着いた瞬間あたしは急に襲われる可能性も考えて構えを取り、



「…………どこ? ここ?」



 目の前の光景に目を丸くした。


 そこは元居た場所のような森の中でも、訓練用シミュレーションでよく使われるようなどこかの市街地でもない。


 目の前に広がるのは見渡す限りの水平線と砂浜。


 空は青く、白い雲が所々に浮かび、太陽が眩いばかりに燦々と光っている。


 砂浜にはぽつぽつとヤシの木が生え、穏やかに寄せては退く波がザザ~ンと音を立てる。





 




 ◇◆◇◆◇◆


 はい。明らかにアンドリューとは違う場所に跳びました。当然中に居る相手も別です。一体どうなることやら。

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