藤乃の意見 その四

「為末雄大さん亡くなっていましたか……。しかし録音用レコードなんて良く残っていましたね。それほど録音用レコードなんて一般的なものじゃないでしょうに」

「そう、私もそこに不自然さを感じていたわ。為末雄大はなぜこんなものを残していたかがわからないわ。彼は誰に向けてこんな情報を残したのかしら」

「それは判らないですけど、私は宮姉さまみたいに、今度の事件を調べる人のために残したのではないかと思います」

「どういうこと」

「彼は近々、自分が殺されると思っていたのではないでしょうか。そしてそれは詳しく調べられないで病死として処理される事を恐れて、自分の事を調べる人間に情報を残したのではないでしょうか。実際、宮姉さまは見つけ出しています」

「それはそうだけど、だったらもっと具体的な話を残しておくべきじゃないかな。為末雄大の超能力というのは『人間を脚気にかける』ものではなかったけど、軍、それも恐らくは陸軍が関与していることがはっきりしたのは収穫ね」

「為末雄大さんが死んだのは何時ごろでしょうか」

「朝、何時も6時くらいに起きているらしいのだけど、時間になっても起きてこないので不審に思った奥さんが寝室に入ったら昏睡状態になっているのを見つけたそうよ。病院に運び込まれたのが8時ごろ。応急処置がなされたけど、その甲斐もなく10時に死亡という事らしいわ」

「千家昭三さんはその時点で死亡していたわけですから、もし『脚気で人を殺す能力』を持つ人がいれば、その力で為末雄大さんを殺したことになると思いますが、動機が分かりませんね。私は雄大さんが千家男爵家の為に殺されたのではないと思います」

「どういうこと」

「忍さんが指摘している通り千家男爵家に為末雄大さんを殺す動機がある人はいないと思います。という事であれば動機は千家男爵家とは関係ない理由という事になるのではないかなと思ったのですが」

「それはそうだけど、その理屈だと『脚気による殺人』は千家男爵家以外の人間が使えるという事になるわね。それが誰だという話になってお手上げになってしまうわ」

「そうですね。能力自体の検証が必要になると思いますね。千家家の事をもっと調べないといけないのではないでしょうか。あと気になったのですが為末雄大さんは何故、福来諭吉博士に会いに行ったのかも気になります。彼の超能力はもうないのなら、今更博士に何の用があって会いに行ったのでしょうか」

「うん、そう。奥さんの話で亡くなる4か月位前から何か思いつめたような表情をすることがあったそうよ。そのあたりで何かあったと考えるべきでしょうね」

結局二人で考えてみても結局これという答えは出なかった。

「夜も遅いし、今夜はこれで失礼します、宮お姉さま」

「そう、お休み、藤乃ちゃん」

「あ、そうそう、これを宮お姉さまにお渡し致します」

といって懐からお守りを取り出した。

「お守りです」

「どうしたの、急に」

「厄除けのお守りだそうです、困ったことがあったら中を見ると良いことがあるそうですよ。宮姉さまも何時脚気にかかってしまうかもしれないから」

「そう、ありがとう。気を付けるわ」

それを受け取ると藤乃ちゃんは自室に帰っていった。そして藤乃ちゃんを見たのはこれが最後になってしまった。

 私は寝付けなくて、布団に包まったまま、事件の事を考えていた。ふと気になってお守りの中身を見たくなってしまった。お守りの由来は聞かなかったが厄除けのお守りとは何か気になったのだ。お守りの中身を空けると中には小さな紙が入っていた。和紙などではなくただの書付に使うような何の変哲もない半紙だった。紙を開いてみると「この次はバステト様の御許、猫の国の猫の寺院でお会いしましょう」と書いてあった。意味が解らなかった。

「藤乃ちゃんはいるかしら、まだ学校に入ってないでしょう」

朝起きると杉中を捕まえた。藤乃ちゃんにお守りの事を聞こうと思ったのだ。

「あの、お嬢様、藤乃ちゃんとは誰でしょうか」

「藤乃ちゃんって、藤乃ちゃんよ。うちにいるでしょう」

「あの、藤乃という子供はいませんよ。この間もそうですが、藤乃ちゃんというのは誰の事でしょうか。」

「え、藤乃ちゃんってうちの住み込みの使用人の子供で、私の部屋によく来ていた」

「当家の住み込みの使用人で子供がいる者はいませんよ。どうしたのですか、お嬢様」

その後も私は藤乃ちゃんを探し回ったが、結局、藤乃ちゃんを知るものは誰もいなかった。

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