蒼き魔装《ティタニス》の侍女騎士 〜メイドですがお嬢様を守るためにロボに乗ります〜

阿澄飛鳥

第0話 プロローグ

 ――痛い。


 ウィナフレッド・ディカーニカ――ウィナは己の体が発する警告を、冷静に受け止める。


 普段であれば転げ回って泣き散らすような激痛ではあるが、今はこの痛みこそ愛おしかった。

 直前まで死の淵にあったこの体は、痛みすら感じることができていなかったのだから。


 ウィナの【眼】が敵の尾を強調し、脅威を知らせる。物心ついたときからあったこの能力は、どうやら魔装ティタニスの視界と同調するようだった。


『ウィナフレッド』


 黒い髪に赤い瞳を持った少女が、焦燥と憂いを帯びた表情で覗き込んでくる。


「大丈夫。いけるよ」


 装従席に腰掛けたウィナは、手足からの感覚に身を委ねる。稈と鐙、両方から伝わるのは、自分を包む巨人――魔装ティタニスの存在だ。



 眼前に映る巨大な化け物の姿を睨む。



 鈍色の甲殻に覆われ、口と思われる器官をギチギチと鳴らし、鋏に似た両腕を構える異形の存在。

 しかし、そんな化け物を前に、ウィナはくびきから解き放たれたかのように恐れも、嫌悪感すらも抱いていなかった。


 魔装ティタニスに乗れるはずのない――魔法を使えないただの侍女である自分が、まさかこんなことになるなんて。


 この敵を倒せと本能の叫ぶまま、ウィナは鐙を踏み込んだ。

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