第16話 人馬一体の有効的使い道
俺は屋敷の執務室で政務を行っていた。
「へっへっへ。ライジュール様、これは他街から都市アルダに戻りたい者のリストね」
「助かる」
先日御用商人に任命したオバンドーから数枚の紙を受け取る。
そこにはかつて都市アルダから逃げ出したが、また戻って来たいと希望した者の名簿がつくられていた。
彼らは元々はうちの住人だ。死の港が復活したならば戻って来たいと思う者もいるわけだ。
「なら俺達でここに帰るための船を出そう。ここの名簿の者はだいたいが他の港街に住んでるんだろ? 漁師などの経験を生かしてさ」
「そうだね。でも大抵の人が借金持ちで街から離れられないね。この街出ていく時の旅費などの返済に苦しんでるね」
……他の港街に出て行ったということは、都市アルダにあった家を捨てたということだ。
しかも船も使えずに陸路で他の港に向かうのだから、旅費もかなり高くついたろう。
借金は厄介だな……うちもペガサス行商で儲けているが、彼らの肩代わりできるほどの余裕はない。
「ほならね。ここはまず都市アルダからあまり離れていない場所在住の、陸地の人間を帰らせるべきね。百人ほどいるからね」
そう告げてまた名簿の書かれた紙を渡してくるオバンドー。
俺は港街の人間で帰りたい者の調査しか依頼してなかったのだが、いつの間にか周辺の民も調べていたのか。
「陸地か……船で大勢運ぶのは無理だな」
「そうね。でも彼らは無茶な旅費払ってないから借金ナイナイ。馬車用意すればすぐリターンね」
「ふーむ……馬車か」
かつては都市アルダの近くでは馬車が大量に走っていた。
だが今はこの街に馬なんて残ってない。レーム村にいる二頭ほど老馬はいるが……馬車ひけるかは怪しい。
ペガサスに馬車をひかせることはできる。だが前にも考えたがもったいないのだ。
馬車を運行したらしばらくの間、ペガサスの行商がストップするわけで……うちの唯一の収入源がとまるのは痛すぎる。
「わかった。ちょっとドワーフの工房へ行ってくる」
「行ってらっしゃいね。いっぱい書類仕事こしらえてお出迎えするね」
「……やめてくれ」
そう告げてドワーフの工房へと走って中に入ると……ドワーフたちは真昼間から酒を飲んでいた。
「ん? おお、ライジュールではないか。何か用か?」
俺に気づいたブロックが、酒の入った木のグラス片手に挨拶してくる。
「馬車の進捗を聞きに来たんだが……昼間から酒飲むなよ」
「ぶわっはっはっは! もう馬車なんぞ完成しとるわい! 神牛のパワーにすら耐えられる馬車をな!」
「それどれくらいの速度まで耐えられる馬車なんだ?」
「ただ走るだけならどんな速度でも壊れはせんわい!」
ブロックはドヤ顔で豪語してくる。
つまりどんなに雑に扱っても壊れないということか!
それならペガサスなどの人外……いや馬外の全速力にも余裕で耐えられるだろう。
「それであれか? ペガサスにひかせて走らせるのか?」
「いやペガサスは飛行能力が使えなくてもったいない。他の魔物にひかせるから馬車に案内してくれ」
そうしてブロックに案内されて、工房の外にある馬車の元にやってきた。
馬車は木でつくられていて見た目は普通の物と変わらない。
しかし車輪部分に何か呪文のようなものが彫ってあった。
「車輪あたりに書いてある呪文みたいなのはなんだ?」
「
なるほど、ようは魔法みたいなもので壊れないようにしてるんだな。
いくらドワーフの技術が凄いと言っても、そういった不思議なパワーも合わせないと神の武具なんてとても造れないだろう。
この馬車ならば力のある魔物が引いても、全く問題なく運用できそうだ。
「ありがとう。じゃあさっそく……古の契約を遵守せよ。我が血と言葉を以て応ぜよ。求めるは草原の狩人、地を駆ける人馬一体……」
俺の召喚魔法に応じて、上半身は筋肉粒々の肌を見せびらかす人間で下半身が馬の魔物――ケンタウロスが召喚された。
彼は腕を組んで俺を睨んでくる。
「私はケンタウロス。人よ、私に何を求める? 我が弓は一撃必中、我が足は大陸を横断する」
「馬車ひいて欲しい」
ケンタウロスの馬車、それはペガサスよりもだいぶ扱いやすい。
普通の馬はもちろんペガサスよりも馬力があるし、両手があるので神輿のように馬車を支えることが可能。
それに盗賊などが現れても、戦士としても優秀な彼らならば戦うことができる。
もちろんそこらの冒険者より強いので、本来なら馬車に必須の護衛が不要なのだ。
ペガサスは単体だとそこまで戦闘能力ないからな……あいつはあくまで移動用ユニットなんだよ。
だがケンタウロスは眉をぴくぴくさせて不快そうな顔をする。
「私は人馬一体であることに誇りを持っている。その私に馬ができる程度のことをさせると?」
「いや違う。最初のうちはともかくとして、後々は御者なしでの取引や商売……つまり人馬一体として、馬のパワーと人の知能を合わせた活躍をして欲しい」
ケンタウロスは人間と同じ知能を持つし喋れる。
つまり馬車の御者なしでもいけるんじゃね? と考えている。
商売までできるかは今後次第だが、物の納品で相手先とやり取りや荷物運びくらいなら余裕でこなせる。
ペガサスは頭はかなりよいが、やはり人型ではないので御者が必要だ。なのでこれは人馬一体のケンタウロスだからこそだ。
するとケンタウロスの尻尾がブンブンを激しく振られ、彼はニッコリと笑みを浮かべる。
「よいだろう! 我は人馬一体のケンタウロス! 魔物にも人にもできぬ、だが我ならば単騎でこなす!」
大きな叫びと共に前脚をあげて、後ろの二足だけで立つケンタウロス。
発声器官は人間なためやはりいなないたりはしないようだ。
「ところでケンタウロスって何を食べるんじゃ? 干し草か?」
ブロックがケンタウロスを観察しながら告げる。
ケンタウロスは人と馬のよい点を兼ね揃えている。ならば食費は安い草でよい……なんてウマい話はない。
「ふっ。私たちの顔は人間だ。なので歯も人仕様、干し草をすりつぶせないので無理だ!」
「なんじゃい、人馬一体じゃないじゃろそれ」
「あくまで能力が人と馬のよい部分を持つ人馬一体なのだ! 食べる物まで一緒は流石に無理だろう!」
ケンタウロスの叫びはもっともである。
仮に馬と人の両方の食べ物でOKとするなら、頭も人と馬の二頭必要になってしまう。
いやそれだけではすまないだろう。草食動物と肉食動物では身体内部の消化器官とかも全然違うからなぁ。
……もし馬と人の顔があったらあれだな。ゴミ箱のペットボトルと缶の分類みたいな感じになりそう。
人の顔から食べたものは左消化器官、馬の顔から食べたものは右消化器官みたいに綺麗に分かれる感じで。
そんなわけでケンタウロスの馬車で、都市アルダの近くの人間を回収していくのだった。
ドワーフの造った馬車は見事なもので、ケンタウロスが全力で走ってもまったく壊れない。
街の入り口にまたケンタウロスの馬車が戻ってきて、乗って来た人々が青い顔をして降りてきた。
そうして彼らは草の茂み辺りまで必死に走ると。
「「「おええええぇぇぇぇ!」」」
ケンタウロスの全力疾走パワーでも馬車はもつ。だが乗員のほうがダメみたいだ。
まあとりあえずは都市アルダに戻って来る一回こっきりだし、我慢してもらえばいいだろ。
今後はケンタウロスに算術とか教えないとな、商人もやってもらいたいし。
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