第10話 人類蔑みの令を発布する!


 死の海が蘇った祭が終わった翌日、広場に領民たちを全員集めた。


 ちなみに都市アルダの住人だけでなくて、レーム村の者たちも残っている。


 俺は広場にある寂れたお立ち台に登って、そんな彼らに視線を向けた。


「さて、俺は海を蘇らせた。なのでお前たちはこれから俺の指示に絶対服従だ。ちゃんと言ったことは守れよ?」

「え、あ、いや……あれはその……」

「安心しろ。俺に従っていれば間違いはない。俺にはあのアダムス教に伝わるペガサス様もいるんだぞ」


 俺は広場のわきで寝ているペガサスを指さす。


 いやぁアダムス教本当に便利だなぁ! ペガサスが神獣として扱われてるおかげで、何を言っても説得力が出てしまう!


 宗教の力って強いな! 王が宗教を利用しようとする気持ちわかるわぁ!


「た、確かにそうだな……」

「死の海も蘇らせてくれたし……」


 領民たちも自分たちで何でも従うと吐いた手前、あまり俺に堂々と逆らえない。


 この機を待っていたのだ! 俺がどんなことを言っても受け入れさせられるこのチャンスを!


「ではこれよりアダム家の領地に発令を行う。今後お前たちは、この令に従って生活をすること」

「どんな令でさ?」

「人類蔑みの令」

「……すまんです。もう一度言ってくれねべか」

「人類蔑みの令」


 領民たちは目をぱちくりしている。


 人類蔑みの令……それは言葉の通り人類をさげすむ令だ。


「わ、わけわかんねえ!? どういうことですかい!?」

「これからこの領地は魔物様によって発展する。なのでお前たち領民は魔物様に尽くせということだ。魔物様はお前たちより上の位……まあお貴族様として扱えばいい」

「はぁ!?」


 領民たちは困惑の声をあげる。


 だがこの人類蔑みの令の発布は今後に必要不可欠なのだ。


 これから都市アルダは魔物の街となる。


 ペガサスを使っての行商、ユニコーンによる医療院の設立、ゴーレムによる重作業……それに海に漁に出るには、俺の呼ぶ魔物の護衛が必要だろう。


 その時にここの人間たちに魔物に不敬なことをさせてはならない。


 魔物に畏敬の念を持ってもらわねば困るのだ。


 俺と魔物たちの関係は雇用契約で、魔物たちが気分を害すれば破棄もできてしまう。


 そのための人類蔑みの令。魔物様には敬意をもって接しろというお告げだ。


 ちなみに大抵の人は知ってそうだが生類憐みの令の改良である。


「そもそもお前たち、あの海に漁に出れないだろ? だが俺の召喚した魔物が護衛すればいけるぞ。それにうまい酒飲みたいだろ? ペガサス様がいれば買ってきてくださるぞ?」

「そ、それは……」

「難しく考えるな。お前たちは貴族に敬意を払うのは、統治してもらってるからだろ? 魔物たちもお前たちのために頑張ってくださるので、貴族と同じように尊敬すればいい」

「た、確かに……そう言われると同じかも……」


 よし、これで人類蔑みの令は受け入れられた!


 なおこの令の元案である生類憐みの令は、日本史上かなりの愚政策との評判だ。


 しかしそれは何も恩恵を与えない犬に対して、お犬様などとさせたからである。


 もし犬が民たちに米や金を与える存在であったなら、そこまで不満も出なかっただろう。


 優れた能力を持った金持ちが優遇されるのは普通のことだからだ。


「詳細は後で貼りだすことにするから安心してくれ」

「それは助かるべ……」

「ここで全部言われても、頭のお前じゃ覚えられねぇからな!」

「……貴様! そこになおれ!」


 俺は鳥頭とほざいた男に対して即座に叫ぶ。


 対象となった男はポカンとした顔だがそれでは困るのだ!


「……はい? 何か?」

「鳥頭などとほざいたな!? 鳥の魔物様が不快に思われるだろうが!」

「ええっ!?」

「じゃあ何か!? お前は人間のような愚かな生物が! などと例えられて気分がよいのか!?」


 そう、今後は言論を統制せねばならない!


 負け犬とか泥棒猫とか猿真似とか、そういった悪口を許してはならないのだ!


 それで魔物が不快になってサボタージュされては困る。


 犬の魔物も猫の魔物も、鳥の魔物も存在するのだから!


 この街において人間は生態ピラミッドの下層に位置する!


 俺は足元に用意していた木の罰金箱を男に押し付ける!


「罰金として銀貨一枚没収だ! さあこの罰金箱にいれろ! 回収した金は魔物様がご自由におとりできるように広場に置く!」

「そ、そんな無茶だべ!?」

「なにを言うかこの鹿者が! さっさとはら……あ」

「「「あ」」」


 俺は罰金箱に銀貨一枚をチャリンといれた。


 男にも同じく罰金をいれさせた。


「……ね、ねえライ。ほんと、にこれやるの? みんな……おかねなくなるよ?」

「……やるっ! 止めるなサーニャ!」

「こんなの無茶苦茶だべ! 油断したら出ちまうべ!?」

「五月い! 頑張って気を付けて喋ればいいんだよ!」


 そうして言葉狩りが始まった。


 だがこれは必要なことだったのだ。阿鼻叫喚の悲鳴と共に、一週間で大量の銀貨が集まった……主に俺の財布から。


 畜生! 俺が一番言葉のボキャブラリーがあって、つい口にでてしまう!?


「おかしい……俺の財布がどんどん軽く……誰かにババされてるみたいだ……」

「ライ、ぎんかいちまい」

「ああああああああぁぁぁぁぁぁ!?」


 俺の財布がどんどん軽くなっていく……俺だけ法の適用外にするか……。


 しかも魔物はみんな回収した銀貨を不要と申したのだ。


 人間の通貨なんていらないそうだ……回収した銀貨は魔物のための福利厚生に使う条件で、俺が扱うことになるのだった。


 ゴリ押しだが人類蔑みの令を発布できたので、今後は領民たちに守らせていかなければならない。


 ただ生類憐みの令と違って、魔物を殺してはならぬなど言うつもりはない。


 尊敬すべき対象である魔物とは、あくまで都市アルダに住む魔物に対してのみ適用される。


 ちなみにこの令はこの都市アルダに、今後引っ越してきた者にも当然適用される。


 たぶん新たにやって来た商人などは驚くだろうが予想の範囲である。


 むしろ人が増えてからこの令出すと、バッシング酷そうだから今の内に発布したんでな……!


 先に決めておけば郷に入っては郷に従え! と命令できるからな!

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