第2話 株式会社ジャングルジム
業務を行うスペースは、ちょっとした会議室ほどの広さで、社員の人たちが仕事をしている場所とパーテーションで仕切られている。パーテーションの入り口から向かって右側と左側にデスクが3つずつ並べられており、それぞれのデスクにパソコンが一台ずつ置かれている。左側の入り口に1番近い席が勇樹のデスクだった。
にこやかに対応する社員が退室し、1人でそわそわ待っていると、一緒に働く同僚であろう女性が案内されて入ってきた。
中年の女性で、緊張のせいか表情が硬かった。俺の2つ隣のデスクに案内され、腰を掛けたおばさんは目が合うと、会釈をして
「はじめまして。松本邦恵といいます。よろしくお願いします」
と挨拶した。物腰が柔らかい優しそうな雰囲気だった。少し白髪混じりのショートカットで、小柄で痩せ方のどこにでもいそうなおばちゃんといった雰囲気だ。
「中山勇樹といいます。これからよろしくお願いします」
挨拶をし、少しお互いの緊張がほぐれた。
「中山くんは若そうよね。何歳なの?」
「僕は26歳です」
「あら、やっぱり若いわね。うちの息子と同じぐらいだわ」
「松本さんは息子さんがいらっしゃるんですね」
「まあねぇ……うちの子は中山くんとは全然違うタイプだけど……」
そう言った松本さんの表情は、どことなく暗さを感じた。
松本さんと話していると、また別の2人が部屋に案内されて入ってきた。
1人は俺より少し年上ぐらいの男の人。もう1人は大人しそうな若い女の子だ。2人も案内されたデスクに座り、それぞれがスマホをいじったりボーッと下を向いたりしていると、また別の2人が案内されて入ってきた。
20代ぐらいの派手な見た目のギャルと、50代ぐらいの中年男性だ。この事務の契約社員はこの6人で全員のようだ。間もなく、面接のときの採用担当の男性社員が入ってきた。
「皆さんおはようございます。皆さんには今日からこちらでデスクワークのお仕事をしていただきます。僕はこの案件の担当をしています、安田朋輝といいます」
相変わらず爽やかな好青年といった雰囲気の男性が挨拶した。
「今日から皆さんは一緒に働くチームになるので、まずは簡単な自己紹介からしていきましょう」
安田はそう言うとニコッと笑い、入り口に近い席に座っている勇樹から自己紹介をする流れになった。人見知りな勇樹は少し緊張しつつも、
「中山勇樹といいます。26歳で今までデスクワークの仕事をしていました。よろしくお願いします」
続けて他の人達も順番に自己紹介をしていく。
「目黒奏太です。33歳です。調理師で飲食店をやってたんですが、閉店させてこちらに来ました。デスクワークの経験がなくて、わからないこともあると思いますので、色々教えてください。よろしくお願いします」
奏太さんは痩せ型で身長が180近くはあるのではないかという長身だ。少し茶髪で服装などからお洒落な雰囲気が漂っている。
「松本邦恵と申します。年齢はお恥ずかしいですが…51歳で主婦をしています。皆様みたいなお若い方と違ってパソコンには慣れていないですが一生懸命頑張ります。皆さんとの距離を縮めたいので、松本さんなんて呼ばずに邦恵って呼んでくださいね」
「川口さくらです。年は21です。よろしくお願いします」
さくらはすごく大人しそうな女の子で、黒髪で肩ぐらいまでの髪型で、地味な色味の服装。笑顔もなくかなり緊張しているのが伝わってくる。
「平井綾菜です。25でパソコンは得意な方です。よろしくお願いしまーす」
綾菜はさくらとは対照的で明るめの茶髪に派手な服装、ネイルもしている。いわゆるギャルだ。ピアスも両耳合わせて何個も付いている。あまり関わったことのないタイプの人間だ。
「相川和良です。57歳です。よろしくお願いします」
相川はメタボ体型で白髪混じりの天然パーマ、白のカッターシャツにベージュのスラックスを履いている。強面で声も怖そうな威圧感がある。
「皆さん、なんとなくどんなメンバーで仕事をするのか、わかりましたかね……では、今度はどんな仕事でどう進めていくのか、説明していきますね」
全員の挨拶が終わり、安田がこの仕事の詳細を説明し始めた。
「今回の仕事の依頼主は、このジャングルジムがあるB市の隣、A市です。昔は紙の台帳で色々な記録を保管していましたが、紙だと劣化したり汚れで見えなくなったりするので、オンライン上でデータ化して保管していくことになったんですね。そのため、昔の紙データからオンラインへのデータ移行をするのが今回の仕事の内容になります」
仕事内容は割と簡単な事務作業、雇用期間は半年間だ。この仕事の名前は"A市案件"と呼ぶそうだ。
段ボール箱が何箱も積まれ、その中に紙の台帳が入っている。早速それらをオンラインへと移行する仕事が始まった。
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