第2話

   

「宝石とは上手いこと言うね。じゃあ1匹つかまえて、君にプレゼントしようか?」

「本当!? 嬉しいわ!」

 男の発言に興奮して、女性は声を弾ませている。

「1匹と言わず、2匹も3匹も捕獲しましょう! それで指輪だけじゃなく、ネックレスやブレスレットにも加工して……」

「待て待て、プレゼントは冗談だよ。宇宙船の外に出られないんだから、つかまえるのも無理に決まってるだろ?」

「あら、それは残念。だったら最初から、期待を持たせるようなこと言わないでよ」

「ごめん、ごめん。僕が『上手いこと言う』と思ったのはさ、木星の蛍が鉱物に近い生き物だからなんだ。ほら、宝石も鉱物だろ?」

「生き物なのに鉱物なの?」

「うん、地球の生き物じゃないからね。ここの蛍たちは……」

 なんだか面白い話を始めた。

 窓の外の蛍たちは全体として、もやに包まれた状態なのでボンヤリしているものの、窓の近くまで来た個体ならば、かなり細部まで観察できる。男の『鉱物に近い生き物』という言葉の通り、確かに硬質な金属製、ある意味メカのような印象も与える蛍だった。

 私は窓の外を眺めながら、後ろの座席で披露される蘊蓄に耳を傾ける。


 彼の説明によると。

 動物や植物など、地球の生き物を構成しているのは有機物だ。生物の基本パーツであるタンパク質は、炭素を中心としてそこに水素や酸素が結合して出来た有機化合物。だから我々は炭素生物とも呼ばれている。

 人類が宇宙に出られるようになって、宇宙生物を探し始めた当初は、地球と同じタイプの生き物が想定されていた。例えば木星の衛星エウロパには、地球の海みたいに塩水が存在したり、海底には生命誕生に必要なエネルギーがあったりすると考えられ、だから地球型の生命がいることも期待されていた。

 しかし、いざ蓋を開けてみれば、生き物がいたのは衛星エウロパではなく、木星そのものの方だった。それが木星蛍だ。

「もちろん木星は、僕たちのような炭素生物が存在できる環境ではない。結果的に見つかったのは、木星の中心核と同じく、ケイ素を主成分とする生き物。つまりケイ素生物だ。だから有機物ではなく、むしろ鉱物に近いわけで……」

   

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