『初めからこうなるのは分かってた』
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楽曲制作 コツ
バンド はじめて 何から
歌詞 作り方 解説
学生 文化祭 バンド オリジナル曲
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「……まずは曲のテーマを定めることが大切です。 テーマを軸に言葉選びを行ない、メロディに詩を乗せていくのがベーシックな歌詞作りの進め方です……」
ネットから歌詞作りのガイドになりそうなページをいくつかタブ分けして表示し、両耳のイヤホンからはアリサの譲ってくれたメロディを流しながら、鉛筆でノートのページをコツコツと叩き続ける。
「テーマ……、テーマ……。 やっぱ学生らしさはあった方がいいよな。 ゼロとどうやって勝敗つけるか分かんねえけど、審査する人からウケやすい方がいいはずだ。 ってなると…………、」
「なにを書かれているんですか?」
「ドラアッ!?」
視界の端からひょっこりと顔を覗き込んできた妹に、椅子ごと飛び上がってしまうほどよビックリをかます。
耳と脳内のグルグルに集中していたから、理紗が部屋に侵入してきたことに気が付かなかった。
「ふふ……! なんですかその反応! もしかしてえっちなことでもしてたんですか」
「してねえよ!? 勘違いをするんじゃあねえッ!」
「分かってますよ、すごく真剣そうにノートに向き合ってましたもんね」
「…………いつから、いた?」
「今来たばかりですよぉ、ずっとお兄ちゃんのベッドに座って横顔に見蕩れてたりするわけないじゃないですかっ!」
こいつ、こっそり部屋に入ってきてずっと見ててやがったな……! なんて悪趣味な……!
「さきほど、曲がなんとかって呟いてましたけど……」
「ああ、実は……。 部活でバンドやることになってな」
「バンドぉ!? お兄ちゃんがぁ!?」
「おい、失礼すぎる反応やめろ! 明日は雪も降らねえし隕石も落ちてこねえよ。 確かにオレには音楽の才能はねえがな、曲を作るのはオレのワンマンじゃねえんだ。 皆で協力して作る。 オレはその中でもメロディへの歌詞付け担当でな」
「なるほど! それなら日頃からご本を沢山読まれているお兄ちゃんの活躍どころかもしれませんね! どれどれ、ちょっと進捗を見せてくださいな」
「いやっ、見せんのはちょっと……!」
どうしてだろう。
別に見られて困るもんじゃねえし、理紗に勘ぐられたようなR18な品を隠しているワケでもねえのに。
なぜか……、いざ見せるとなると恥ずかしくなっちまうのは、なぜなんだ?
「……まだ、途中だぞ?」
「いいんですいいんです!」
「言葉選びは変更予定だ! メロディに合わせて調整予定で……、それと、サビの部分は――――、」
「めっちゃ予防線張るじゃないですか。 大丈夫ですから、まずは見せてみてください」
髪を耳にかけた理紗にイヤホンを付けさせ、メロディを初めから再生する。
首を小さくコクコクと振って、音楽にのりながらノートに書き込まれた歌詞を読み上げているようだ。
「……どうだ?」
「お兄ちゃん、まだ途中です」
「…………ふむふむ」
溢れた髪を耳にかける動作を、イヤホンを取る動きと勘違いして声をかけそうになった。
少しして、今度こそ本当に理紗が耳からイヤホンを抜き取る。
「お兄ちゃん! 思ってた五倍は良かったです!」
「そうか! 良かった。 結構悩んでたんだ、韻を踏まなきゃとか、聞こえのいい語感とか。 あと、学生っぽさみたいなのを醸し出すためにそれっぽい単語を散りばめたりしてさ」
「……お兄ちゃん。 逆に言うならば、五倍くらいしか良くないです」
味にうるさい三ツ星シェフがスタッフに解雇を宣言するみたいに机をパンッと叩いて立ち上がり、
「お兄ちゃん! お兄ちゃんならもっとずっと良い歌詞がつけられます! 確かに今のままでも中々の上出来です! 普通に曲として成り立つと思います。 でも! でもですよ! この曲は普通すぎます!!」
他人から評価を得るため。
失敗から間逃れるため。
そんなことばかりを目標に歌詞をつけてきた。
「合格点が70点なら、これは75点です! 初めての作詞にしては充分すぎます。 ですけどお兄ちゃん! これではあまりに無個性すぎます! 平凡で誰の記憶にも留まらない仕上がりで良いのですか!?」
万人受けする内容。
定義の曖昧なエモい単語。
そんなものばかりを並べ立てて歌詞を作ってきた。
「お兄ちゃん! 詩というものはですねっ! その人その人が持つ思想の言語化! 自己表現なんです! 未成年の主張とか!
「に、濁り」
「そうです! それは歪んだ性癖でも、整った悪癖でも何でも良いのです! 『心』のありったけをぶつけるんです!」
どうしてか急に、理紗の方が急に燃え上がり始めた。
まだこっちの事情もほとんど話してないのに……。
「理紗はその……、詩に興味があるのか?」
「わたし、元引きこもりですから。 ポエムなら無限に書いてきました。 完成する度に小説投稿サイトに投下し続け、今や73万文字に到達する超大作ポエム集なんですよ?」
「73万文字……? 400字詰めの原稿用紙何枚分だそりゃあ。 概算で180枚くらいか? とんでもねえな……」
「改行などが入っているので正確な可読文字数ではないですけどね」
参考までにそれを読ませてもらうことはできないかと聞くと、理紗はこれを快諾し、該当ページと思われる小説のサイトをスマホで開いて手渡しをしてきた。
『夢色誇大妄想の砂糖漬け』。
著者:
第一話のタイトルは『窓の開け放たれるその日まで』。
それを見て、ああなるほどと。
マリアが『窓』を開いたあの異世界で、願うままの姿とポジションになったと言われていた理紗がなぜ『
☆――❁⃘――❁⃘――❁⃘――❁⃘――❁⃘――☆
欲張りさんのお星様
今度は私から何を
籠の中はもう 私の心と同じ
すっかり乾ききった
笑うくらいなら
呼吸をするのもやっとなの
だから次に手放すものは
この手で選ばせて頂戴
『
そうね これなら持っていっていいわ
どうせ役に立たないものだもの
だからいつか この窓を開いて
貴方と同じ星空に その夜空に
私も連れていってね 約束よ
私は夜に揺蕩う人魚姫
消えて星屑になる運命なの ❁⃘*.゚
☆――❁⃘――❁⃘――❁⃘――❁⃘――❁⃘――☆
人類は80億人ほどいるらしい。
そんな、80億の皆様に問いたい。
自分の妹のガチすぎる夢ポエムを当人の前で読んでしまった時、どんな反応を示すのが正解なんだ?
理紗はオレの書いた、お約束なんてまるで通じないガタガタの歌詞を笑わずに読んでくれた。
それはすごく嬉しかったし、理紗の優しさに応えてオレも同様の反応を示すべきだと頭では分かっている。分かっているの、だが……。
「……………………、」
あまりに気まづい。
これは中二病というか、電波というか、夢すぎるというか、その……、理紗の言葉を借りるのであれば性癖も悪癖も歪みも濁りも、筆者の『心』が何のフィルターにもかけられず原液のままに投下されている。
可読性を保って仕上げられている分、まだ優しい。だがそれでも、このガチポエムは作詩初心者のオレには猛毒すぎるッ!
「……理紗の言いたいことがよく伝わってきたぜ。 確かにこれは個性的だ。 平凡じゃない。 必ず記憶に残る。 そんな仕上がりだな……」
「お兄ちゃん。 考えていることが顔に出ています。 コメントし辛いのならそう仰ってください」
「いや……、そんなことは……」
そんなの、なんとも不義理ではないか。
妹の優しさを踏み躙るような真似は出来ない。
だが……、反応に困っているのは実際そうだ。
手放しに褒めるわけにもいかないが、内容を細かく詳らかにして評価しようにも難解で、触れたら傷つけてしまいそうな繊細な部分が多すぎる。
「お兄ちゃん。 私がこのポエムを書いた時、読者に感じてもらいたかったのはそれなんですよ」
理紗はスマホの画面をスクロールし、レビューやコメントの集うスレッドを見せる。
そこには「独特なセンスに引き込まれます」だとか、「自分だけの世界観が広がっているのですね」とか、深く考察するでもない当たり障りのない書き込みばかりが寄せられていた。
「この通り、私の本当に伝えたいことがしっかり伝わっている方はどこにもいません。 でも、それで狙い通りなんです。 私は理解されよう、共感されよう、信仰されようなんて思っていません。 これはポエムという手法を利用した一方的な自己表現です。 誰かに刺さること自体には興味がなく、他人の目がある場所に自分を純色のまま示し出すその体験、経験に価値があると考えているのです。 他人からの評価、点数、合格不合格ばかりを見てつまらないものとして仕上がるくらいなら、もっと自分自身の根っこをバチーンと示し出すべきではないですか!? そうでなくては、勿体ないと思いませんか!?」
……理紗の言い分は分かる。
正直、平凡な歌詞だというのも否定は出来ない。
だが今回はゼロに勝つための曲作りで、自我を出して個性的に作るっていうのは
評価を得るため、失敗しないためにはこのまま万人受けしやすい路線を進んだ方がいいとは思うが…………、
「……自分の根っこを出す、か」
オレはもっと好き勝手でもいいのか?
以前、御山弟にも言われたことがある。
"自分の欲望のためなら手段を選ばない、
向こう見ずで利己的なエゴエゴしー奴ら。
それが、僕たちなの。
君も権能持ってるってことは、
だから今更普通ぶったって遅い。
衝動を隠す必要はないんだよ"
自由。
衝動。
それらを存分に振るって好きに歌詞が書けたら、確かに気持ちいいだろうな。
当たり障りのないものを出して普通の合格点を出すより、ずっと自分がやりたいことをやって満点か落点の方が気が晴れるだろうな。
……きっとその方が、青春できるだろうな。
「よし、もうちっと頑張ってみる。 周りのヤツらにウケるか分かんねーけど、オレなりに本当に書きてえ歌詞ってやつを考えてみるよ。 もう今日は遅いから明日だけどな」
「うんうん! それでこそ私の愛するお兄ちゃんです! それでは……、おやすみなさい」
オレの吹っ切れた様子を見て安心した理紗が部屋を出ていく。
薄暗い廊下を進んで自分の部屋のドアノブに手をかけたところで振り向くと、兄の部屋から漏れ出ている光に気が付き、感傷的な想いが頭を
「……お兄ちゃんの本音とか、本当のこと……、その調子でいつか、私にも隠さず教えてほしいな」
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