『破滅願望』



 野崎の槍斧ハルバードが叩き伏せようと飛びかかる。

 それを紙一重で避け、疾風を連れて瞬間移動するネオンマスクの男。


 介入するタイミングを探っていると、突如として黄色の直線が飛んできた。

 すんでの所で盾の位置を上げてそれを弾く。

 ドウン、と鈍い音が打盾バックラーに響く。


 飛んできたあれは……、スーパーボールだ。

 前に殺された時、オレは奴のボールに穴だらけにされて殺された。

 そう、奴はボールをどうやってか、超高速で撃ち出している。

 恐らくそれが、奴の権能だ。




「へー、今の耐えれるんだ。 その盾、血でできてるっぽかったから柔らかいと思ったんだけどなー」


「感心どうも、パッツン男!」




 斧の持ち柄を槍のように突き出す野崎だったが、これもスルリと避けられてしまう。しかも今度は瞬間移動なし、普通に半身を切ってステップを踏んで距離を取られた。




「チッ、にょろにょろと避けやがるね、猫みたいだ」


「あー、猫は液体っていうもんね。 言い得て妙だぁ」


「評価してもらう為に言ってる訳ではないんだがねッ!」




 野崎が仮面を掻いて左手で描きだしたのは、血のクロスボウだった。




「『爆弾作りベータテスト』、弩弓ガストラフェテスッ! 白を白に、黒を黒と断別せよッ!」




 その叫びで、レールから血の矢が発射される。

 矢は目にも止まらぬ速度で一直線に飛んでいき……、そのまま疾風を貫いて奥の立木に突き刺さった。




「くッ……、これでも捉えられないのか……!」


「野崎っ、後ろだッ!」




 血の矢を瞬間移動で避けたネオンマスクは、野崎の後ろで片手を振り上げていた。

 野崎が振り返るが、対応は間に合わない。




「『そして誰もいなくなったグリッチ・ノイジー・モーションブラー』……」




 直後、十数のカラフルな直線が野崎の包帯だらけの体躯に突き刺さった。

 その衝撃に身体が大きく吹き飛び、持っていた槍斧ハルバードを手放してタイル上をゴロゴロと転がる。


 あの野崎が、手も足も出ない……!

 そこら中に転がるのは色々のスーパーボール。

 こんなボール程度に、斧も弩も太刀打ち叶わず、迎撃されてしまうなんて。




「…………ぐ、ぎッ! お前ェ……!」


「野崎ッ、気をつけろ! 奴の権能はッ!」


「そんなことはとっくに分かっている……! 彼の能力は恐らく……、『物質を高速射出する力』。 瞬間移動はその応用、自分自身を射出することで実現させているのだろうよ……!」


「おー、すごいや。 ちょっと見しただけでそんなに分かるんだあ、ほぼ正解。 厳密には違うけどさ」




 野崎の権能の弱点、それは超戦闘的な能力である『爆弾作りベータテスト』を扱う張本人が、余りにも病弱な肉体の持ち主であることだ。

 血で作られた長身の槍斧ハルバードを振り回せる程度のパワーはあるものの、その挙動は素人そのもの。バッティングセンターに初挑戦する運動音痴の如き大振りでは、ネオン男のようなスピードタイプの相手には簡単に避けられてしまう。

 変化球の弩弓もかわされてしまった今、野崎は手詰まりに等しいはずだ。

 なら……、奴を倒せるとしたらそれは、の介入しかない。




「――――ッ!!」




 野崎に注目しているネオンマスクに、側面から一気に走り寄る。

 狙うは、奴の腕や脚。それを掴むことだ。


 奴の権能『そして誰もいなくなったグリッチ・ノイジー・モーションブラー』は物質を高速射出する能力。奴はそれを使って瞬間移動を実現している。

 つまり……、本当にその場から消えているわけではない。どこかを掴めばそれは失敗する。

 更に言えば、奴の攻撃手段はあのスーパーボールだけだ。あれを押さえられれば無力化することもできるはずだ。




「そんなものひとつで突っ込んでくるって……、煌クンってけっこー破滅タイプ?」


「うっせえよッ!」




 渾身の突進を打ち止めようと、ネオン男からボールが射出される。

 盾にぶつけて身を守るつもりだったが、緑の直線が左膝に突き刺さってしまった。

 骨伝導の鈍痛が頭の先まで響く。

 衝撃に膝をついてしまったが、すぐに立ち直って突進を再開する。




「覚悟はヨシ。 でも捨て身になったくらいじゃ、凡人は天才に勝てないのがリアルなんだよねー」




 その言葉で、男は疾風と共に視界から消失した。

 背後と決め打ち振り向くが、男は見当たらない。




「煌ッ、ッ!!」




 見上げる間もなく、肩が突然叩き落とされた。

 圧倒的な衝撃に盾ごと地に伏せる。

 横になった視界に、軽々しく前転で着地する男がスライドインしてくる。


 奴は平面ではなく、立体に自身を射出したのだ。

 空に向かって飛び出し、空中で真下にボールを放つ。

 そんなのはかなり権能の戦闘に慣れているか、恐ろしく身体能力が高いかのどちらかでしか不可能な動きのはずだ。




「……これが僕の才能ギフト。 君たちじゃ追いつかないよ、僕の背中にはね」




 オレは痛みの中で、その澄ました横顔にどこか既視感を感じていた。

 ただ、重なった記憶は三周目の死の直前ではない。

 それよりずっと前。

 どこかであいつの横顔を見たことが――――、




「煌っ、起きろ! 本当に死んでしまうぞ!」


「くっ……、お前、こそっ……! あんなにやられてたのに大丈夫なのかよ?」


「痛いのには慣れてるんでね。 それより……、本気を出さないとかなり不味マズそうだ」




 ネオンマスクは噛夢ガムを膨らませて、横目でこちらを伺っている。




「使いたくはなかったが、奥の手を使う。 煌は離れててくれ……。 可能なら目を伏せていてほしい。 これは、あまり見られたくないんだ」




 野崎はそう言って、片手で血の医療刃メスを創り、手首に押し当てた。




「……私の『爆弾作り《ベータテスト》』は、。 手首には流れの強い動脈が通っている。 その血で奴を圧倒する」


「馬鹿野郎ッ、そんなことさせられるか!! 爪なんかとじゃワケが違えんだぞ!」


「あんな厄介者を押し付けてきたお前がよく言うよ……! こうでもしなくては、この状況をひっくり返せないのだから仕方がッ――――」




 野崎の医療刃メスに黄色の直線がめり込み、そのまま後ろへ吹き飛ばした。

 ネオンマスクのスーパーボールだ。




「やめてよー、見苦しいな。 そんなのこっちが見たくないって」


「おッ、お前はああああッ!」


「おっとー、君もそこの包帯オバケとセットで寝転んでてよ?」




 男から射出された二球を、盾で打ち弾く。

 衝撃が強すぎるため、跳ね返すのではなく、軌道をずらすことしかできない。

 あんなのを何発も食らい続けていたらすぐに動けなくなっちまう。鳩尾みぞおちにでも一撃もらえば、あとは蜂の巣にされてしまうだろう。

 だから頭、胸、腹にかけた正中線だけは守らなければならない。


 続けて飛んできた数発が、頭を狙って盾の上部に連続で衝突する。

 ドン、ドン、ドンと鈍い音が響くにつれて、端が湾曲していくのが、盾の裏から見て分かった。

 二対一で防戦一方、どころか、追い込まれてしまっている。




「くっそ……!」




 穴があきそうな盾の取っ手から左手を引き抜いて、タイルを蹴り並木に逃げ込む。

 そのまま姿勢を低く保ち、木々を抜けて男を視線を引っ張る。

 奥で横たわる野崎が追撃を受けないようにするには、オレがおとりになるしかない。無力なオレなりの、精一杯の誘導だ。




「盾捨てちゃって良かったの? そろそろ君も才能ギフト使わないと負けちゃうよー?」




 血を吐きながら腕立てで起き上がる野崎の鉄仮面に、ネオンマスクが後ろ手で投げ捨てた紫の直線が刺さる。

 鉄の破片が血塗れで弾け飛ぶのが見てとれた。




「僕、天才だからさー。 空間把握?っていうのかな、そーゆーの得意なんだよね。 そこの包帯オバケくらいの距離だったら、後ろ投げでも百発百中で当てられるよ。 お仲間を殺されたくなかったら、潔くここまで出てきた方がいいと思うけどな〜」


「キ、ラ…………、来るな……!」




 仮面を破壊したあの後ろ投げは、男の脅しが本当に可能であると証明するためのデモンストレーション。

 まぐれなんかであんな芸当が出来るとは思えない。


 このまま木陰を乗り継いで奴からの射線を切り続けていてもジリ貧だ、いつかは挑むためにも逃げるためにも、ここから出ていく必要がある。

 なにより……、野崎を見捨てる訳にはいかねえ。




「……へー、今の台詞セリフって効果あるんだ。 映画とかでよく聞くやつやってみたかっただけなのに、効くもんだね〜。 仲間思いなテロリストさんだ」


「……テロリスト? オレのこと言ってんのか?」


「も〜、面倒臭いな」




 髪をイジりながら放たれたボールを、構えを上げた左腕でなんとか受け流す。

 直線は肩から後方へ飛び去ったが、その威力を受けて身体が半回転し、腕からアスファルトに倒れた。


 痛みと砂埃の中で、ネオンマスクの言葉が引っかかる。

 奴はオレ達に追われていると思っていたようだし……、今の発言からも、何らかの認識のズレがあるのは明らかのようだ。


 しかしながら、紐解く前にこれだ。

 突き放すようにボールを飛ばしてくる。

 まるで、お前とは話す気にすらならないと言いたげな、冷たい断絶。

 この断絶を攻略しない限りは、奴に勝つなんてことは叶わない。

 その差を埋めるために必要なものは……、




「権能、か……」


「ちっちゃい声じゃ聞こえないよ〜? ま、これで終わりだから関係ないけどね」




 放ってはキャッチしてを繰り返された赤のボールが、軽い腕振りでひょいと投げられる。

 指先から離れる瞬間、ボールは急に勢いを増して直線と化し、膝を立てて立ち上がるオレの顔へ向けて飛び込んでくる。


 この一球は、直撃すれば致命傷になりうる。

 腕で頭を守る姿勢を取ったはいいものの、あれほどの威力を何度も受け続けることはできない。

 だがこの体勢からでは、緊急回避することも不可能。


 かつてロビンソン、ディオと対峙した際の記憶が浮上する。

 もし……、もしあの時の斧や弾丸みたいに、




 











『それでいい。

 それこそが、貴様の王の力だ。

 望めば如何なるものだろうと打ち壊れる。

 運命は途端に塗り変わる』











 時が、止まった。


 身体が動かない。

 ネオンの男も指先ひとつ微動だにせず、立ち尽くしている。

 右手首に接触した状態で、空中に停止したボール。

 全てが白黒に減色して停止し、静寂が支配した。




『それは大いなる力だ。

 常人には理解すら出来まい。

 だが、理解される必要はない。

 王は孤高こそが正位置なのだ』




 モノクロームの景色に夢の中の男が踏み入った。

 白黒の仮面に、黒のロングコート。

 最早もはや見慣れた風貌だが……、彼はいつだってであったはずだ。


 オレの目が正しければ、

 彼は現実の世界に立っている。


 お前は、と声を出そうとしたが、喉が動かない。

 声帯が時間と共に凍ってしまっている。




『臆するな。 怯えるな。

 譲るな。 託すな。

 貴様は何者にも敗さぬ、

 大いなる力を持っている』




 彼は眼前に立ち、黒い手を伸ばした。

 黒手袋がオレの手首にめり込まんとするボールをすっぽりと包み込み、そして――――






『絶対的な破壊だ。

 一木一草ことごく、全て壊してしまえ。

 貴様の気に入らぬ物も、

 貴様の様ならぬ者も。

 何もかも、そう、何もかも――――』






 直後、世界が壊れた。

 ボールを握りこんだ彼の拳を中心に、白黒の景色にヒビが走り、硝子ガラスが割れるように勢いよく砕け散った。

 裂けた白黒の断片がひょうのように落下してきて、そこら中のアスファルトに突き刺さる。

 それらが雪解けし、空に溶ける。

 色の戻った世界は時の流れを取り戻した。




「……僕のボールを、受け止めた?」




 足元に、赤いゴムボールの破片が転がった。

 あの現象が、また起きた。

 こうなってしまっては、もう偶然やまぐれだなんて言うことはできない。

 あの夢の中の男の言っていた通り……、どうやらオレは、らしい。


 信じられない話だが……、ネオンマスク達が実際に不思議を操っているところを見聞きしている限り……、これは権能と言えるもののように思えてしまう。




「それが君の才能ギフト? 身体を硬くしてボールの衝撃を防いだ? 同じ威力の衝撃をぶつけて相殺させた? でもおかしいなあ〜、あの人には仮面をつけてなきゃ力は使えないって聞いてたのに。 煌クン、仮面つけてないじゃん?」




 ネオンマスクの男が、パーカーから片手いっぱいのボールを取り出す。




「じゃあこれはどう?」




 投げ放たれるは、四球のカラフルなボール達。

 一直線に放たれたそれに、反射的に腕を構える。


 そしてまた、願ってしまう。

 と。


 願いは、異常にも当然のように叶った。

 飛んできた四本の直線は、オレの腕なんかにぶつかるやいなや、派手な破裂音と共にその威力を失い、破片となって辺りに散らかった。

 奴のスーパーボールの攻撃を、無力化したのだ。


 夢の中の男が言っていたのは、きっとこのことだ。

 どうしてオレがこんな現象を――――、いや、認めよう。どうしてオレがこんかを起こせるのか、それは分からない。

 あの男がそれを伝えたがっていた理由も、夢のみならず現実にまで現れた理由も分からない。


 だが、こいつは使える。

 この権能ちからをつかえば、

 ネオンマスクに太刀打ちできる……!




「…………今のボール、僕の準お気に入りだったのに。 何なの、その才能ギフト。 それにその『引力』……。 他の仮面の人達から感じたことないよ、そんなドス黒いの」


「知らねえよ、才能ギフトだの『引力』だの。 まずオレにはこれが権能なのかどうかってことすら――――、」




 オレが回答しているところを不意打つように、ネオンマスクの男がほぼ無挙動からボールを射出してきた。

 何とか反射でそれを腕で受け止める。

 壊れろ、と願ってみたが、反応が遅れたからか、破壊には失敗してしまった。

 弱い衝撃だったからか、そこまで酷い痛みには苛まれずに済み、すぐに立ち上がる。




「今のは避けられないんだ。 ふーん、じゃあ僕のボールが効かなくなったワケじゃないみたいだ」


「テメェ、さっきから上に飛んだり不意打ちばっかしやがって……!」


「え、相手の意表を突くのは基本でしょ。 煌クン達だってやってたじゃん、予告もなく学校占拠してさ」


「学校を占拠……?」




 今の話……、恐らくディオの一件のことを言っているに違いない。

 まさかこいつ……、オレ達をあの事件を起こしたテロリストだと勘違いしているのか?




「折角だし、僕のとっておきを見したげるよ。 おりゃ!」




 とっておきとまで言うので、ボールが顔面に飛んでくると思い、破壊するつもりで身構えたが、ネオンマスクの男が射出した直線はオレからずっと横、見当違いの方向に飛んでいってしまった。




「と、見せかけてー」




 ネオンの男は隠し持っていたボールを撃ち出してきた。

 先の射出はおとりで、オレの集中を削ぐためのものだった。


 ボールが胴に直撃する前に、なんとか壊れろ、と願うことに成功し、ダメージなくボールを打ち砕き、無力化することができた。

 矢張やはり、この権能があればなんとかなる、と思った矢先のことだった。


 唐突な衝撃が後頭部を襲い、オレは額からアスファルトに叩きつけられた。




「僕がただ好き好んでスーパーボールを使っているとでも思った? 命のやり取りの最中に? スーパーボールは安価で数を揃えやすいし、何より隠し持つのにコンパクト。 でもねー、最大の理由はそこじゃないんだー。 超のつくほどの弾性。 これが良いんだよ〜。 『そして誰もいなくなったグリッチ・ノイジー・モーションブラー』でボールを射出する速度と角度を調整すれば、今みたいに木々や床を反射させて後ろから攻撃できるのさ」




 脳が揺れる。

 じわじわと広がる温みが、頭いっぱいに広がる。




「煌クンの才能ギフト、僕のボールが効かなくなる能力みたいだけど、思った通り不意打ちまでは無効化できないみたいだねー。 残念、僕には一歩、届かなかったね?」




 夢の男は、望めば如何なるものだろうと打ち壊れると言っていた。

 それを逆に捉えれば……、ということだ。


 つまりオレが扱える権能は、破壊したいと望んだものを破壊する能力。その弱点は、今のような不意打ちや、意識外からの強襲。

 破壊を望む前に襲われてしまえば、それで終わりだ。




「煌クン、君、すっごく面白かったよ。 僕の兄貴を殺しただけのことはある。 僕には敵わなかったみたいだけど」


「……お、前の…………、兄貴……?」


「人殺しすぎてもう忘れちゃった? 最近よく聞くもんね、君たちのニュース。 事実確認中でまだ詳しく報道されてないけど、君たちは知ってるでしょ。 失踪したはずだった僕の兄貴……、御山翔太郎を。 体育館であんだけバチバチやってたんだし。 仮面の名前は確か、英雄ディオ、だったっけな?」




 ネオンマスクが寄ってきて、スニーカーで後頭部を踏みつけられる。

 脚を掴んでどかそうにも、手が動かない。




「僕のランニングコースに現れなければ、こんなことにならなかったのに、不運だったね。 『そして誰もいなくなったグリッチ・ノイジー・モーションブラー』……。 じゃ、さようなら。 神無月、煌クン」




 こいつが……、あのディオの弟?

 それに体育館の件を見ていたってことは……、あの場所にいたってことだ。

 つまり、こいつは御山翔太郎の弟であり、オレ達と同じ学校に通っている生徒だということになる。


 待て……、御山……?

 今までどうして気が付かなかったんだ?

 奴の横顔に既視感を覚えた時に、思い出すべきだったんだ。




 以前、勝人が五連勝伝説に挑戦していた時。

 あの時に競争していた陸上部のエース。

 野崎はあのエースに『引力』を感じたと言っていた。




 実況の放送部が呼んでいた名前は確か――――、


 御山ミヤマ 秀次郎シュウジロウ




 直後、何十もの抉るような衝撃と痛みに襲われた。ボコボコと、体に何かがぶつけられているのが分かった。

 目で見えない位置からの無数の攻撃。

 破壊を望もうにも……、正確にいつ、どこへ受けるかわからない攻撃を無力化できるわけがなかった。

 それらは肉を千切ちぎり、皮を裂き、臓腑の中で破壊を乱反射し、余りのことに一瞬で意識が遠のいた。


 充満する痛みと真っ赤な暗黒に、為す術なく沈んだ。





















   「『椅子取り遊戯ワールドデバッグ』」





















「――――っ!」




 深い痛みの底から、急に意識が浮上した。

 息切れのまま目が覚めると、再び既視感のある朝が待っていた。

 携帯画面には、8月1日 7時13分の表示。


 夏は既に、五周目に突入していた。






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