死者からのコンタクト

連喜

第1話 発症

 これは俺の大学の同級生、A君夫妻の話。

 もう、20年以上前の出来事だ。


 二人は、同じ私立大学付属校に小学校から通っていた幼馴染。高校から付き合い始めて結婚は23くらいと随分早かった。早く結婚した理由は、奥さんが若年性乳がんになってしまったからだった。


 奥さんはB子さん。美人で性格が良くて、笑顔が素敵だった。俺も会ったことがあるけど、女優みたいに華があって、ありきたりな美人の上をいく人だった。幼い頃からヴァイオリンを習ってたお嬢様で、コンクールに出て、よく賞をもらったりしていた。大学は音大に進学。将来はオーケストラの団員を目指していた。オーケストラの団員は倍率100倍以上で、しかも、受け持ちの楽器の空きがないと採用自体がないという超難関。B子さんは新卒ではオーディションに受からず、大学院に進学した。


 A君は大企業のサラリーマン。

 どちらの実家も会社経営で裕福。お似合いのカップルだった。


 B子さんの乳がんを見つけたのはA君で「胸になんかしこりみたいなのがない?」と言ったのがきっかけだった。


 まだ若いし、B子さんは『まさか』と思ったが、母親に話すと検査を勧められた。

 それで、1ケ月くらい経ってから知り合いの病院で精密検査を受けたが、結果は若年性乳がんだった。この年齢で乳がんになる確率は10万人中10人もいないくらい、超レアケースだ。


 B子さんはすぐに大学院を休学。治療に専念することにした。

 A君は乳がんの告知があってすぐに、役所に結婚届をもらいに行って、Bさんに入籍を勧めた。


「でも、私、死んじゃうかもしれないよ」

 B子さんはA君の将来のために断ろうとした。

「まさか。大丈夫だよ。でも、一緒にいられるように早く席を入れよう。そしたら、俺も親族として医者の説明も聞けるし」


 A君の両親は事情が事情だけに反対しなかった。20年以上前の話だし、若いから進行が速いだろうと思われていた・・・『助からないかもしれない・・・』A君の家族は最悪の事態を予見していたが、息子は言ってもきかないとわかっていたから、2人を祝福することにした。


 そして、A君はすぐ職場に「妻が病気だから」と伝えて、あっさりと仕事をやめた。いつも帰りが遅かったから、もっと一緒にいられるようにと、残業のない会社に転職したんだ。


 新居は、B子さんの実家の近くの古いマンション。A君は大企業を1年くらいでやめていたから、第二新卒みたいな感じだったし、奥さんの病気もあって就職できたのは小さな会社だった。


 新居は1LDKで築30年超。

 でも、渋谷区だったから家賃が高かった。古いのに月15万もした。

 A君の年収は350万くらいしかなかったから、ちょっと家賃が高すぎる。

 もともと華やかだった二人にしては、ずいぶん寂しい門出だった。

 しかも、お互い初めての一人暮らし。


 普段Bさんは家にいるんだけど、実家からお母さんとお手伝いさんが毎日来て、夕飯を作ってくれて、掃除もやってくれる。A君が帰る前にお母さんとお手伝いさんは実家に戻ってる。そんな新婚生活だった。

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