13.僕は小さな傷も負ったことはない
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兄に送った魔物のうち返送された魔物は解体されて素材や塊肉になっていた。
「必要なものだけ頂いたよ。その代金代わりに宝石を追加しておいたから」
「オークションの落札でもらったお金、さっき送ったよ」
「ああ、もらったけど…………ケタ、あってる?」
「あってるよ。それに今もまだ出品中だから、まだまだ増えていくよ」
僕の稼いだお金は兄たちの研究資金に使われる。
大金貨で1,052枚(1,052億ジレット)、小金貨9,049枚(90億4,900万ジレット)、白銀貨11,826枚(5億9,130万ジレット)。
合計で1,148億4,030万ジレット。
オークションの落札で硬貨が増えていた。
普段は使っても白銀貨までで、それ以上の硬貨はほとんど使わない。
コテージを手に入れてから、町で家を買うこともなくなったことも理由に挙げられる。
僕が使っているコテージは、ある町で手に入れた貴族の家だったもの。
そのままでは貴族に目をつけられて因縁をつけられるため、魔導具の研究や開発している兄姉に外観だけコテージに変えてもらった。
そして今回手に入れた統括ギルドは母国で研究施設として使われるそうだ。
「裏でいくつも建物が繋がっていてね。いくつかに分割できたからみんなで分けたよ」
「よかった、有効利用してもらえて」
兄の話だと、何
今までは体力の限界まで研究を続けては、そのまま作業机の下で転がっている日々だった。
それが研究施設の隣に寮ができたことで、『帰って寝る』という行動がとれるようになったらしい。
「仕方がないさ。王城に居住している僕たちと違って、研究員のほとんどはいちいち研究施設を出入りするのに正門で身分証のチェックを受ける。そして時間的に辻馬車が営業を終えた時間帯を歩いて帰るんだ。それなら研究施設に泊まったほうがいいからね」
「それでも週末など休みの日には家族の待つ家に帰るんでしょう?」
「それ、みんなの前で言うと……泣くぞ」
研究員は同じ研究員と結婚するか独身者がほとんどだそうだ。
不定期な休日に、研究に情熱と生命を捧げている研究員ばかり。
「デートをしていても、何か思いつくと持ち歩いているノートにメモをする。そのまま研究に没頭して、中にはデートをしていたことも忘れて恋人を置いて研究施設に出勤する者もいるくらいだよ」
ある種の病気である。
でも僕たちの国では家庭を持つことは義務ではない。
貴族や王族でスキル持ち、もしくは研究職に就いている場合は特に家族をもたない。
神や精霊の血を引く子供は人数が決まっている。
永遠の生命を持つ存在は、遺伝子を次の世代に残す必要はない。
しかし人間たちは自分の遺伝子を残すために子を宿す。
そんな2人が結ばれて、低い確率で生まれたのが僕たちだ。
人間だった親の遺伝子の影響を受けて寿命がある僕たちは、人間より少しだけ長い時間を生きる。
そんな僕たちでも罪を犯した場合、
いわゆる国外追放だけど、本人は何も覚えていないため問題はないらしい。
「ただねぇ……ステータスに入っていた所持品も所持金も没収されるのよ」
そう教えてくれたのは、神殿で働く姉のベルン。
聖女や聖人などではなく、世界を癒やす浄化
「風に癒やしの
そのため、自然の浄化に働きかけるスキルを持っているそうだ。
「姉様は聖女じゃないのですか?」
そう尋ねた僕を膝に乗せていた姉は「うーん」と唸りながら天井を見上げた。
姉の説明では、人間たちと神や精霊とでは聖女の立ち位置が違うそうだ。
「私たちは神に仕える者すべてが聖女であり聖人なの。でもね、人間は自分たちの欲で神の名を騙るのよ」
「……罰当たりだね」
「それもね、お金を積まれた神職が加担するのよ」
ふぅぅぅっと大きく息を吐き出した姉は眉間に皺を寄せていた。
神殿は徳を積む修行の場だ。
その場を使ってお金を積まれた神官や聖女が神の名を騙る。
「一般人ならまだ許されるわ。でも、神に仕える者はアウトなのよ。神が許すはずがないわ」
今生の欲を優先して神の存在を蔑ろにした彼らは、次の世で神から祝福を受けられない。
「人間は5歳から7歳の間に神殿で神の祝福を頂くわ。でも前世に神の
祝福を得られなかった者はすべての身分を剥奪されて賎民に落とされる。
「今生で罪を償え」という意味だそうだ。
「でも、それは意味がないのよ。本当に神が罰を与える気があるなら、人間界ではなく畜生界に落とすもの」
神が望まない罰を、神に仕える者が神の代わりに与える。
「『人間の分際で神の代行者にでもなったつもりか!』。それが四神の総意よ。それでも人間は罪を犯した者に罰を与えたいの。神もそれを理解しているから黙認しているわ」
人間は神のことを理解していない。
魔物の凶化や凶禍は神による罰。
それは知られているから、神の
「いい? 人間は私欲のためなら他人の生命も簡単に奪うわ。だから外にいるときは結界を外してはダメよ、いいわね?」
姉は僕が国を出る日まで何度も言い聞かせた。
おかげで僕は小さな傷も負ったことはない。
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