9.馬鹿げたことはしない……と思いたい


オークションは週に1回開催されていて、どこからでも出品が出来るし入札も可能。

出品者の名前は公表されないし、落札者もどこの誰なのか分からない。

すべてステータス画面で完結できるのも魅力的だ。

アイテムを選択して最低金額を設定するだけ。

内容は公開されず、気になる人は落札するしか知る方法がない。

持ち物を簡単に出品できる便利さと、商人ギルドより高値で売却ができるお得さが魅力的なため、利用者はあまりにも多い。


僕も統括ギルドの建物の中に残されていた机や椅子を半分くらいは出品した。

もし1週目で落札者がいなかったとしても、2週目に統括ギルドが入札する場合がある。

まとめて出品したものを1セットずつに分けて国内のギルドに売却するからだ。

酒場を併設している冒険者ギルド、個人経営の宿泊施設や飲食店。

中古といっても未使用なら少し安い新品と変わりないため、新規で店を開けようという人からの需要があるようだ。


そんなオークションに、交渉予定だった書類から小分けにした99編から10編だけ所有権を放棄して金額を設定すると出品完了。

職員カードもまとめて出品。

持っていても邪魔になると判断したものは何でも出品している。

議事会室の円卓や、神殿の3メートルはある四神像(創造神・天地神あめつちのかみ天命神てんめいのかみ明暗神みょうあんのかみ)や、1メートルの高さの使徒の像など。

僕が持っていても邪魔になるだけ。

別に信仰心がない訳ではないよ。

ただ、冒険者をはじめとした一処ひとところに定住しない僕たちが、定住者の集会所に設置されるような大きな神像を必要としないだけ。

高さ15センチに満たない四神像ならコテージの寝室に置いている。


じゃあ、そんな大きな神像を誰が買い求めるか。

それは開拓されて数年の町や村の教会、王都並みに発展した大きな都市でも貴族が繁栄の象徴として神殿に寄進したりする。

神像を手彫りの小さな木像から大きな神像に換えようと思っても、本来は高価なものなので1柱ずつ発注する。

それが四神像がセットで新造で注文する三神分の代金、神の使徒は全40体存在するが1体も欠けずに使徒30体分の代金。

結構高額にはなるが、定額で購入するよりは安くなる。

新造で神像を注文した場合、1柱大金貨5枚(5億ジレット)から。

一番高価なのが創造神、大金貨15枚(15億ジレット)。

主神だから少し大きくて、そして値段が高い。

三神が同額なのは三神は同位で差はないという理由から。

神の使徒は1体小金貨1枚(100万ジレット)。

1体ずつ『誰の何の(役割を持つ)使徒』という呼び名があり、四神は1柱に10体の使徒を従えていると言われている。

だから全使徒が揃っている僕の出品に集中した。

最終的に大金貨15枚で出品した四神像は大金貨27枚と小金貨71枚(27億7100万ジレット)に。

40体の使徒は小金貨30枚が大金貨79枚(79億ジレット)になった。

使徒は大金貨と小金貨を間違えて入札したのだろう。

しかし、その金額で時間がきて落札が確定してしまった。


オークション開催者から落札金額の変更伺いの連絡はなかった。

開催者とついているけど実際には商人ギルドを上回る組織で、仲介という立場で入札や落札後のトラブルを解決する。

今回はどう考えても誰が見ても、大金貨と小金貨を間違えた入札だと分かる。

にも関わらず金額の交渉は来ず、大金貨79枚が振り込まれていた。

もしかして……神像の落札者と同じなのかも知れない。

寄進や喜捨を目的とした裕福な貴族だったら支払えてもおかしくはない。

……オークションの規定により、落札者の特定はできず。

想像で、モヤモヤした気持ちに決着をつけるしか方法はなかった。



「一度つけた神の値段を『間違えた』のひと言でなかったことにするのか」


以前、やはり神像を落札した人がそんな風に責められたという。

あのときは吊り上げ師という集団がいて、彼らが入札を操作していた。

……そして失敗した。

吊り上げ師が落札したのだ。

入札金額が暴騰したことで一般の入札者が脱落し、残っていたのは吊り上げ師の5人だけだった。

その一件から、最高入札者が提示した金額の変更は認められなくなった。

オークションの入札金額はイコール落札額。

「ここまでなら出せる」という上限設定額ではないため、入札額を決定するとそれが現在の最高入札額として表示される。

欲しい物をどうしても手に入れたいと思う気持ちはわかるけど……価値に見合った金額で落札してほしい。



開催時刻になるとオークション開催者が締め切りまでに出品された商品をいっせいに公開する。

締め切られた後に出品したものは次回に持ち越される。

それが分かっているから、締め切られた直後に次のオークション用の出品を始める。

締め切りは必ず前の週の5の曜日。

期間は公開時刻から12時間。

ただ公開日も時間も非公開なため、気付いたら終わっていたということもある。

何か欲しい物がある人は何度も何度も、それこそ1時間おきに繰り返しオークションが開催されていないかをチェックする。

早くて1の曜日0時、遅くて7の曜日12時。

一度、前の週7の曜日12時から始まり翌週1の曜日0時ちょうどに終了。

その直後の1の曜日0時から次のオークションが始まったという日があった。

冒険者の中にはオークションで欲しいものを確実に手に入れるために稼いでいる人もいる。

…………大人になると、我慢ができなくなるのかな?



交渉が決裂した書類には、わざと出品名に『名簿』とした。

その後ろに(○/99)と数字を入れて、出品は今回だけではすまないと暗に仄めかした。

名簿だけで99編あるのは、国内のギルドに登録された冒険者や商人、職人など依頼を受ける側から、貴族や一般の購入者や依頼者という顧客名簿が含まれているから。

ランダムに10編を出品しているため番号はバラバラだけど、分かりやすく(99/99)も含めている。

次回は名簿ではなく契約書20枚を出品する予定。

内容はチェックしていないけど、契約書1枚でも流出させたことが分かれば問題になる。

毎回同じものを出品しないのは、ほかにも書類があると気付かせるため。

職員カードはいつまでも逃走のままだと捜索隊が出るからまとめて出品にした。

死んでいると分かれば、冒険者ギルドにある『捜索依頼書』から枚数が減る。

そのためタイトルに『捜索依頼書に掲載されている職員カード』とした。

ギルドに渡さないのは、捜索依頼書に関する情報には報酬が出ないから。

だったら職員カードをオークションで換金すれば高値がつく。

初回で落札者がいなかったら、タイトルを『統括ギルドから流出した契約書』に変更すればいい。

すでに話を聞いているギルドか統括ギルドが入札するか、商人が取り引きを優位にするためのネタに入札する。

中には王族の名前があったから、どの契約書よりも高値にしている。

入札者はそれで価値を判断する。

そうやって毎週出品していくことで、全世界の統括ギルドが協力して落札し合えばいいだろう。

ただ、互いに気付かないで競り合って落札金額を吊り上げていくなんて馬鹿げたことはしない……と思いたい。

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