第17話 ぼくらの航空機製造
株主総会翌日の株式市場でYRグループの株価は大きく下げる結果となった。
今までYRの主力事業である新聞、週刊紙事業の人員は削減され再配置される。市場の反応は冷ややかで、他社の新聞には『YRグループ、出版部門の事業縮小』『YR出版の将来的な売却の見通し』等の無責任な見出しが踊る。
銀行事業で伸び続けていたグループの時価総額もガクンと下がり、村上グループをはじめとするライバルのグループ企業はおろか、他クラスの大手銀行系グループに水をあけられることになった。
教室に座っていても周囲からコソコソと噂話が聞こえる。そこには妬み、僻みからくる反動の一種の爽快感のようなものが感じ取れた。
僕は黙って席を立つと航空機の研究を行っている理研と重工が使用している理科クラブの部屋を訪れた。そこでは機体重量やら何やらを考慮した中庭に張るワイヤーの素材の検討が理研で行われ、重工ではワイヤーを動かす滑車部分の設計が行われていた。
「あっ、勇太社長来てたんだ。」
塀くんが製図用紙を置いて話しかけてくる。
「ああ、ちょっとこれを見てもらおうと思ってね。」
そう言って僕は一枚の紙を机の上に滑らす。理研の向井さんもそれを覗き込む。
「木下エアラインが開発している新型機の仕様だ。彼女らの下請け企業にYR銀行が融資していてね。融資の条件として入手することに成功した。」
「プリント40枚搭載可能、右旋回をしつつ降下できるような翼形状・・・ね」
向井さんがじーっと紙を覗き込みながらつぶやく。
「塀くんはこれを見てどう思う?」
「私としてはこれは余裕で勝てる性能かと。彼女らの頭には紙飛行機しかない。」
「私も同意見ね。」
向井さんも塀くんの意見に賛成する。部屋で作業していた理研や重工の社員たちも同意見のようだ。
「試作機はいつぐらいに完成する?」
僕の問に塀くんがしばらく考えて口を開く
「うーん、そうですね。試作機自体は明日にでも完成しますが、ワイヤーの敷設方法を検討するほうが難易度は高いかと。中庭もそこそこの広さと高度差はありますし。」
「理研はどう思ってる?」
「私達はワイヤーの敷設方法も研究しているけどなかなかいいアイデアは思いつくものではないわね。でも3日以内になんとか形にするつもりよ。」
「わかった。ならそろそろ新しいエアライン企業の広報についてYRグループ本社のほうで需要の調査と売り込みを開始しよう。1週間以内にスタートさせたい。」
「「了解!!」」
僕はその足で蓮や戦略企画部が根城にしているベランダに足を運ぶと航空機完成の目処がたった旨を伝える。彼らは自分の持つ情報網を駆使して新規事業の需要や、ステルスマーケティングを実施する。
すべてが順調に思えた。しかし僕らはある大問題にぶつかり計画の延期にぶつかることとなった。
あまり気乗りはしないが大蔵委員会改め準備委員会の部屋に向かう。理由は例の計画遅延の原因となっている問題を解決するためだ。
準備委員会の部屋には大量の現金が保管されていることもあって警備は厳重であった。風紀委員会が設置している水の入った2Lペットボトルとすずらんテープで作られたゲートの前で来訪目的を尋ねられたが、事前にアポは取っていたので一言二言風紀委員と話すと通してもらえた。
「YRグループの勇太です。」
「やあ、君の噂はかねがね聞いているよ。準備委員会委員長兼、準備銀行初代総裁の金鶴だ。よろしく。」
彼は1つ上の6年生ということもあり、体格が大きくそれだけでも威厳を感じる。
「そもそも僕ら6年生と5年生はその能力差から格差が生まれることを恐れて先生たちは学年間での取引を禁止して、それ以降経済的な交流はなかったね。」
「ええ、そうですね。委員会以外で6年生との関わりはなかったかと。」
「ぼくら6年生でも色々な事業をやっているわけだが・・・君等もなかなかおもしろいね。これは案外いい勝負になるかもしれない。将来的な相互の市場開放も今度の職員会議に図ってみよう。」
柔和な笑みを浮かべた金鶴委員長は手元の資料を見ながら楽しそうに頷いてくれる。
「ありがとうございます。ところで本題のほうに・・・・」
「ああ、失敬。で現金・・・っていうと紛らわしいね。日本円と学校内通貨のGDの為替についてだったね。」
「はい。我々の新規事業でも学校外からの材料調達の量が大きく増え日本円の需要が増しているところであります。そこでぜひ準備委員会には日本円とGDの交換を各銀行に認めていただきたく、また日本円の準備銀行からの供給をお願いしに参りました。」
僕が準備委員会(銀行)を訪れたのはほかでもなくこのためである。航空機の製造に必要なワイヤーその他パーツは少なからぬ日本円での出費が必要になるがそれを小遣いの範囲から出すというのは難しい。
そもそも今まで日本円とGDの交換がどのようにおこなわれていたかといえば闇レートでの交換である。
闇レートは学校内でGDを尽く失った間抜けが自分のお小遣いとGDの交換を申し出たことに始まる。もちろん公式には認められてはいないがその取引が繰り返された結果なんとなく交換レートが決まっておりそれを使って大企業は資産のうち一部を日本円として保有している。もちろんYRもその例外に当てはまらない。だがこれも限度がある。さすがに航空機事業分の日本円は確保できなかったので苦渋の決断ではあるが準備委員会(銀行)に相談に来たのである。
「なるほど、そんなことが・・・・」
闇レートに始まり日本円を各企業は欲していることを金鶴委員長に話すと彼はしばらく考え込み口を開いた。
「これは委員会の幹部しかしらないことであるが、実は委員会にはその委員会活動のために日本円が学校から毎週支給されている。いままではこれを使って委員会に必要な物品を購入していたのだが・・・これがその内訳だ。」
そう言って彼は分厚いファイルをパラパラとめくりその使途を見せてくれた。
「この通り壊れた体育物品の補充や、委員会で使用するチョーク、図書室の予算外での書籍の購入、画材、運動会や集会で使用する音声データの編集外注費などが多い。これをきみら企業がGDで行うことができればその分浮いた日本円は準備銀行内で日本円準備として保有することができる。」
「それについては我々で代替可能だと思います。自分のYRだけでは無理でしょうが他の企業も含めれば可能です。」
「よしわかった。GDとの交換レートだが私達準備銀行は無制限の交換を受け付けることはできないことから各銀行にGDと日本円の交換枠を割り当てる。そのあとは君等で好きに交換してレートを決定してくれ。日本円との交換業務については一定の基準をクリアした銀行のみが実施できる免許制にしよう。まあ君等のところは大丈夫だろう。」
「ありがとうございます!!」
「色々と大変だろうががんばりたまえ。」
翌週には準備委員会から各銀行に通達があり日本円との交換枠が設定された。
加部くんたちの株式市場の横では日本円とGD間の交換レートが毎時間大企業向けに公開され、各銀行はそれに手数料を乗せて交換を行う。だがこの動きについては当然先生に見つかれば多大なる叱責を食らうこと間違いなしなので秘密厳守を誓い合うことになった。
「勇太社長、部品も買えて明日にも試作機は完成するよ。」
塀くんから業間休みに声をかけられたのは日本円との交換が始まった翌々日のことであった。
「そうか、それでワイヤー敷設のほうは?」
「それは向井さんのチームが昨日公園で敷設の実験に成功してた。来週には運航開始できるよ。」
日本円とGDの交換問題で遅れていた計画の終わりもついに見えてきた。
中庭では木下エアラインの新型機のお披露目式典が行われている。音楽クラブによる楽器の演奏のもとでにこやかに手を振る木下さんの鼻っ柱をへし折るのももうすぐというわけである。
その日の放課後ぼくはYRグループの幹部会議を招集、YRグループ内で航空機運航を行う新企業YRエアラインの設立を形式上ではあるが臨時の株主総会を開催し新会社設立を決定した。初代社長には理研の向井さんが兼任する形で就任することになったのである。
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