2 同期と共に集会所に呼ばれる
俺とランダースは平民対象の騎士養成所の同期以来の友人だ。
お互い成績優秀だったため、しばらくの一般任務の後、下級指揮官養成所に推挙されたのも一緒だった。
この国の騎士養成機関には幾つか種類がある。
貴族対象の指揮官等養成をするもの。
平民対象の平時には警備、有事には兵士として戦うための一般兵の養成をするもの。
俺達はそこで常に力を尽くし競い合ってきた。
それは恋愛や結婚についても同じだった。
先に彼女ができたのは奴だ。
負けるものかと何かと女の子の集まる場所に出かけていっては自分をアピールした。
……大抵撃沈したが。
とは言え、奴も彼女ができても別れ、できても別れ、とやっているのだから、結局俺達は同時に真面目な縁談が来た時点では彼女の存在は無かった。
まあだからこそ、縁談が同時に来たのだろうが……
俺達はこの時下級指揮官補になっていた。
この地位で配属が辺境警備の場合、上司は既に騎士団長正副レベルになってくる。
嬉しそうに「お前等に合うと思ってな」と団長が夫人と共に連れてきたのが、ネスリーとエイムだった。
ちなみに当初、団長夫妻が考えていたのは現在と逆の組み合わせだったらしい。
だがすぐにぎゃんぎゃんと言い合いを始めた俺とネスリー、それを微笑ましく見ている後の二人、という構図から今の組み合わせに至る。
まあ実際それで三年、俺達はぎゃんぎゃんとあれこれ言いつつも楽しくやってきているのだ。
お付き合いに一年半、そして結婚して一年半。
そろそろ子供が…… と俺もランダースも言い合っていたというのに。
*
さてその晩のことである。
気落ちしてなかなか職務に身が入らないランダースのサポートをその日はしまくっていた俺なのだが。
「ねえちょっと、集会所に来てくれない?」
ネスリーは帰ってきた俺にそう言った。
「何?」
「今朝の答えをランダースに告げようと女衆で話し合ったのよね。どーーーーーも、見ていて不安要素しかないし!」
「不安!? ま、まさかネスリーお前も」
「いーえ、貴方は私とこうやってぽんぽん言い合って後腐れが無いからいーの。なんだけどねえ……」
どうやら俺等には見えていないものが女達には見えている様だ。
*
集会所というのは、宿舎の並ぶ敷地の真ん中の広場に立てられた簡素な建物だ。
普通の家より大きく、平時には祭りの際の出し物をそこで見せたり、皆での生活上の話し合いが必要な時にそこに集合する。
有事にはこの宿舎の防衛の際の武器庫にもなる。
――ので、作りは簡単だ。
一段高い舞台と、後は広々とした板張り。
椅子が常に脇に積み上げてあり、何かある時にはそこから銘々取ってくる形だ。
さて俺とネスリーが行くと、既にそこには女衆がずらりと集まっていた。
空いた椅子は女衆の数ほどではない。
ネスリーが俺を呼んだのは、単に友人というだけでなく、若夫婦全般に何か言いたいことがあるからじゃないか、と俺は思った。
そのうち、ふらふらとランダースもやってきた。
「はい主賓がやってきましたね。それじゃ始めますよ」
団長の奥様がぱんぱん、と手を打った。
伯爵夫人という地位にあるのに、実にこの方は気さくだ。
それまで有事の際の武器庫として作られただけで、普段は放り出されているこの建物を集会場にしたのもこの方だ。
「それでは井戸端長よろしくね」
井戸端長。
さすがにその名は初めて聞いた。
これはもう階級無視の年配が勝ちの様である。
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