第2話-新しい風③
「今日はクラス対抗でバスケをやってもらう」
体育館に集まった俺達に告げられた競技は比較的に難易度の高いスポーツだった。ドッチボールとかだったら楽だとか思ってたんだけどな。
「倉本はバスケ出来んの?」
「人並みにはな。涼は?」
「俺? 俺は中学の時はバスケ部だったからそれなりに出来るぜ」
新井に聞かれて隣に座っている涼に話題を流すと、心強い新事実が発覚した。
「結構ガッツリ?」
「まあ、程々にかな」
バスケなあ……、程良くにしか出来ないんだよな。プッシングが完全に禁止なスポーツだから俺の長所も全部死ぬ。今まで積み重ねてきた物がほぼほぼ役に立たない。
「男子集合~」
新井はクラスメイトの男子を呼び寄せた。
「体力に自信あるやつ手を挙げろ~」
そうやって、クラスメイト達を体力に自信がある人達とシュートに自信がある人達、バスケをやった事が無い人達、そもそも全てに自信がない人達で分けた。
「ドリブルだけなら出来そうって人は?」
「あ、ドリブル出来るよってやつらも手を挙げろ~」
俺はドリブルに本当に自信がない。トラベリングとかルールがまどろっこしいから覚えてないってのもある。中学の定期試験でちょっと出て来た時に一夜漬けで入れたのは覚えてる。
やがて、チームが分けられた。俺のチームは新井を含む五人のチームで運動が出来そうな奴は俺と新井くらいだった。
「じゃあ、行ってくるわ」
涼は最初のチームだ。そのチームには彼以外に運動部で動けるのが一人いた。気楽な雰囲気で用意されたバスケットコートに入っていった。
「あ、倉本」
「ん?」
「試合、絶対に負けたくないから下の名前で呼んで良いか? 俺はケンで良い」
「あー、確かに苗字は呼び辛いよな。わかった」
「おーけー、よろしく琉亜」
ケンこと新井健人は何が何でもクラスで全勝したいらしい。ちなみに体育館の反面は女子がバトミントンで使っている。
「うお、すげ」
涼は上に投げられたボールを取ると、速攻で相手陣地に切り込んでいく。きゅっきゅっと足音を鳴らして、さっさとシュートを決めた。
「いや、あれ程々じゃないだろ」
「それは思った」
ケンとそんな事を嘯く程には涼の動きはキレていた。
相手クラスからのスタート。涼に負けまいとクラスメイト達が相手からボールを取ろうと奮闘する。……が、取れずに防衛ラインを突破されてしまう。
「あいつもバスケやってるかやってたかしたんだろうな」
「だな。あいつも結構上手い」
バスケという競技をやってなかったら、あんなに綺麗なドリブルで三人抜きは出来ない。
「やったっ! いけっ!!」
ケンが叫ぶ。運動部の奴が何とか辛うじてバスケ部であろう男からボールをカットしたのだ。すぐに抜かれたばかりの人にパスが回されて、やがて、涼が待っている前線にボールが回される。
これで丁度コートの半面のラインを超えた。
**
流石に一本目みたいにやらせちゃくれねえか。
前方に味方が居ない状態で、パスという手段が使えない状況で、俺は一人靴を鳴らす。
最近は舞に付き合ってもらってたから、一応訛ってないと思いたいけど、っち、やっぱり訛ってやがる。
思うようにターンが利かない。もっと鋭い踏み込みで、もっと極端な角度で昔は曲がれていたのに。マークを振り解けていたのに。
それでも、運動すらやってねえような素人は簡単に突破できる。
相手のチームも俺達もチームも一緒だけど、動けるやつ以外は前に出てこない。そもそも七分しかない試合時間ですら動けないやつが走り回ったらスタミナなんて持つはずがない。
二人、三人と抜いてシュー……
バスケ部らしい男子にブロックショットされるのを避けるために、撃たずにそのままボールをキープした。でも、キープしても動けないんだよな。
「こっちこっち!」
その様子を見てた
「よっと」
その反対側から上がってきた影浦に投げた。その苗字の通り影が薄くて家に帰ってはサブスクで見れるアニメを片っ端から見るのが趣味らしい。まあつまり、運動のうの字すら知らないから、走るのがめっちゃ苦手なはずだ。
俺もアニメが好きだから、あいつとはよく話すけど、いやまあ、だから無理してでも走ってきたんだろうな。
「もう一度寄こせっ!」
あっけに取られた男子をあっさりとマークから外す。影浦が放ったボールは少しズレて俺の前で
「ナイスっ」
低めになったボールを拾うと同時に、俺はゴールにツーハンドでそのまま投げる。さっきはワンハンドだったけど、本試合じゃなけりゃどっちでも決められる。お遊びだとは思ってねえけどな。
「よっしっ!!」
二本目が決まった。
「影浦っ! ナイスサポートっ!!」
「お前動けるんだなっ!!」
「え、ちょっと、動けないって、偶々だよお……」
久しぶりにチームでバスケするけど、このチームの雰囲気もあってクッソ楽しい。
「次も頼りにしてるぜ?」
次も取りに行こうじゃねえか。
**
「よっし」
涼のツーハンドが決まった。思わずガッツポーズをした。
「舞さん?」
「美冬さんと一花さん?」
「さん付けじゃなくて良いから」
そう言えばD組と合同だったのを忘れてた。そりゃ、美冬さんも一花さ……一花も居るよね。
「涼さん、凄いわね」
「だよね。凄いよね」
高校で部活として続けられるだけの上手さは持ってた筈なんだけどね。
「彼、元々バスケ部だったの?」
「うん、そーだよ」
美冬さんの言葉に頷きを返す。その一瞬で涼は一気に相手陣営に切り込んでいく。文字通り目を離せなかった。
「カッコいいわね」
「でしょ? でも、あげないよ?」
「私には琉亜が居るから」
「琉亜は活躍しそう?」
「どうかしらね」
美冬さんは肩を竦めた。割とちゃんと期待してなさそう。確かに彼もこういうので熱くなるような性格はしてない気がする。
「でも、新井が一花に見せつけろーって男子を焚きつけてたから、それなりにうちのクラスの男子陣は燃えてると思うよ」
「え、なにそれ怖い」
一花が“うげぇ”って顔をした。
アイドル様にアピールしようぜって
「そっちは楽しそうよね」
「今の聞いて何処にそう思ったの??」
美冬さんの感想に一花が食いついた。
「涼さんが乗り気になったってことは、そう言う事よ」
「ど、どう言う事なの?」
もし危ない事だったら、涼は絶対にここまで真面目にやってないしね。ダシにするだけして、クラスで盛り上がればぶっちゃけ一花の事なんてどーでも良いんだと思う。
「あ、決まったっ!」
涼の試合が終わった。
**
一試合目が終わり、二試合目も終わった。
「よう、どうだった?」
さっきまで入っていたチームで勝鬨を上げていた涼が戻ってきた。
「上手かった。勝鬨長かったな?」
一試合分は勝鬨をあげていた気がする。
「そんなずっとやってねえよ。影浦達と話してたんだよ。それより、二試合目も勝ったし全勝いけそうじゃね?」
涼はそんな調子の良いことを言う。
「三試合目も勝てそうだしな」
「いや、どうだろうな。最後の試合キツめなんだよな」
「?」
「ほら、見てみろ」
ケンに示された先には、D組の四チーム目が集まっていた。
「あいつら、自分が好きな奴らだけでチーム組んでるから、多分今までとは訳が違うんだよな」
「おいおい、大丈夫なのかそれ」
「まあ、こっちも俺達のチームは琉亜の除いて運動部だから」
え、なんでそこに俺を入れたんだよ。
「体力テストで決めてる」
「お前、馬鹿に振舞ってるけど頭良いよな」
一試合目、二試合目、三試合目とケンは効率良く全員で勝てるようにチームを組んでいた。それってそんなに簡単なことじゃないよな。
「知らなかったのか? 皆で楽しむには頭が必要なんだよ」
「不覚にもカッコいいとか思ったよ」
ダル絡みも多々あるが、俺は
「健人はカッコいいからな」
「言ってくれるじゃねえか」
三試合目の終了のホイッスルが鳴った。ギリギリで三試合目もA組が勝った。
「ケン、行くぞ」
涼と肩を組んで騒いでいたやつに声を掛ける。
「おっし、ぶちかましてくるか」
俺達のチームは、俺、ケン、連、颯、大我の五人だ。俺はケン以外とは教室で本当にちょろっと話す程度だ。
「才女様の彼氏ってお前か? 冴えねえ奴だな」
コートに足を踏み入れると、敵チームの奴がそんなことを言う。
「なんだあいつ」
「気にするなよ」
ケンがイラっとした顔をして、逆に俺がたしなめるという謎な構図が出来上がっていた。文句を言われたのは俺なのにな。
「あいつら絶対ぶっ潰す」
「馬鹿にされたままで良いのかよ!?」
「いや、ムカついてはいるからな?」
チームメイト達がヒートアップして、ついつい俺も彼らの熱に引っ張られそうになる。
「ぜってえボール取ってくる」
「ケン、ふぁいとっ!」
敵チームから一人、こっちからはケンがジャンプボールを行う。
「よっしっ!」
ジャンプボールは彼が制した。ボールはそのまま俺の手元にやってきた。いや、球技そんな得意じゃないんだよな……
すぐに後ろに居た連にパスを回して、俺は一気に敵陣まで上がった。
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