第189話 破壊と吸収

 空間を破壊し疑似的な瞬間移動をすると、魔王の頭上をめがけて踵落としを食らわせる。空間を破壊したことによる爆発と破壊の力を纏った攻撃が同時に魔王に襲い掛かる。


悪食グラトニー


 馬鹿の一つ覚えみたいに口を大きく開き、能力を呑み込んでいく。俺の攻撃を受けながら暴食の魔王は強化されていくため、最初通用していた攻撃もいつの間にか効かなくなっていた。


 それでも俺は攻撃の手を緩めることはない。段々と成長していく魔王に対して常に攻撃を放ち続ける。最初は鈍重な動きしかできなかった暴食の魔王もそれに従ってどんどん俺の動きに付いてこられるようになり、攻撃を躱し反撃してくることが増えてくる。


 その尽くを破壊の力で消し飛ばしているがそれもいずれは回復速度が速まって消し飛ばした次の瞬間に再生して反撃されるようになるんだろうな。


 そんなことを考えながらただただ無心で相手からの攻撃を避けながら攻撃を仕掛けていく。その攻撃の激しさは周囲の森や大地が削られ、枯れ果てていることから十分に察することができる。それを続けているとやがて暴食の魔王に変化が現れる。


 最初は15メートル大の巨人の姿だったが、徐々に体も成長し30メートルほどの大きさになり、横幅も25メートルはあるだろうか? 二足歩行ではなく地面に腕をつき四足歩行の様な格好になる。そして最初は無かった触手が背中の方から無数に生えている。


「でかくなったな」


 ここまで巨大化すれば一か所を破壊したところで大したダメージにはならない。隙は大きくなるが大技で挑んでいくしかない。


破壊の光芒デストラクション


 襲い掛かってくる無数の触手を無視して全てを破壊する黒い光を放つ。その威力は周囲に倒れている人がいた時とは比べ物にならない。極大の黒い閃光は襲い掛かってきた触手ごと暴食の魔王の体の三分の一程度を消し去る。


 しかしそれもすぐに再生していく。どうやらまだまだ奴の吸収力は上回れていないらしいことがその成長していく体でよくわかる。


 俺の攻撃に反撃するように無数の触手が伸びてきて叩きつけてくる。それらを俺は避けていく。触手が叩きつけられた大地と森は凄まじい衝撃と共に砕け散る。これ一本一本でこれほどの力だ。先程の場所で戦っていればどうなったか。やはりこいつを遠くに飛ばしたのは正解だったな。


 そう思って触手を避け続けていたら暴食の魔王の様子が何かおかしいことに気が付く。口を大きく開いたその中に今までとは比べ物にならない程の力を感じ取れたのだ。


悪食の咆哮グラトニーロア


 極大の紫色の光がこちらに向かって飛んでくる。想定していなかったその攻撃に一瞬虚を突かれる。今から回避しても間に合わない。そう思った俺は迎え撃つ覚悟を決め、その場で力を蓄え始める。


破壊の光芒デストラクション!」


 一瞬遅れて放たれた破壊の力は俺に当たる寸前で暴食の魔王の攻撃と激突する。それによって発生した衝撃波は周囲からは何もなくなった荒野を更に削り取っていく。


 威力は俺の方が上。しかし、出量が違う。互いの攻撃が俺と暴食の魔王を呑み込む。


「くっそ、今のは結構食らったな」


 相打ちのような形となった先程の攻防戦でかなり削られた。ただでさえ厄介な敵だからこんなとこで負傷したくなかったんだがな。


 対する暴食の魔王の方は俺と違って最小限の被害で済んでいそうだ。しかし、ここでちょっとした変化に気が付く。再生の速度が少し遅くなっているような気がするのだ。それに先程から体の成長もしていないような気がする。


 つまりは相手の吸収の力も限界に近づいてきているという事だ。


「それが分かっただけでもでかい」


 俺は飛び上がり、暴食の魔王に向かって拳を引く。


破壊の拳デストラクティブ・ハンマー


 打ち出された拳の勢いと共に破壊の力が暴力的にうねり、巨大化した暴食の魔王の体を穿つ。魔王の体の再生が始まる間もなく次々に攻撃を打ち出していく。


 襲い掛かってくる触手も破壊の力で消し飛ばしながら無我夢中で攻撃を叩き込んでいく。吸収力が戻っていない今が倒す絶好の機会だ。


 段々と俺の攻撃で削れていく暴食の魔王の体。四方八方から触手が攻撃してこようと関係ない。やがてその溜めこみ過ぎた力に耐え切れなくなり、魔王の身体は自然と崩壊し始める。


「これで終わりだ。破壊の災禍カタストロフ


 俺の手元から離れていった黒い球体が暴食の魔王へと放たれる。抵抗する素振りすら見せない魔王にその黒い球体が触れた瞬間、黒い爆発が引きおこる。


 その爆発は暴食の魔王を呑み込み、まだまだ無事に残っていた森をも呑み込む。小国であれば丸々呑み込めるほどの規模の大爆発が巻き起こる。


 俺は破壊の力の奔流を自身の破壊の力で打ち消し合いながらその末路を見守る。


 やがて大地が大きくへこみ、クレーターのようになっているその地に降り立ち、俺は驚愕する。


「まだ生きているのか。驚いたな」


 爆発跡地に降り立つと、ボロボロで元の姿すら保てていないもののまだ息をしている暴食の魔王の姿があったのだ。


「参ったな。さっきのでかなり消耗してんだが」


 この一撃で倒しきれると踏んでいたため、暴食の魔王によって加えられた負傷も相まってかなり消耗させられている。これでもし奴がここから復活したら、と思うと正直キツイ。


 そう思っていると突如、後ろからパチパチと拍手のような音が聞こえてくる。


「ハーハッハッハッハ!!!! 素晴らしい! 黒の執行者よ!」


 後ろを振り返るとそこには頭から黒い1対の角が生えた赤髪の男が立っていたのであった。

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