第97話 パーティ

 闘神祭の前日、リア様、ライカ、ガウシア、クリス、セシル会長そして俺の6人は全校交流の会としてパーティが開かれる王国内の会場に出向いていた。


「どう? 似合ってる?」


「いや~、流石リア様です。周りの目を奪うほどにお綺麗でございますよ」


 実際、パーティ会場で黒いドレスに身を包んだリア様の姿を男女問わず二度見する者は多かった。


「私は?」


「うん、お前も可愛らしいと思うぞ」


「可愛らしい?」


 何かがお気に召さなかったようでライカは頬を膨らませる。


「クロノ、ダメだね~。女性の気持ちが分かってない」


 煌びやかな礼服に身を包んだクリスがさっと現れ、ライカの前で片膝を床につける。


「そこの可憐なお嬢様。私と一緒に踊りませんか?」


「まだダンスの時間じゃないけど」


 この王子、顔はいいし、普段の立ち振る舞いも魅力的なのだが、どこかズレているところがある残念君である。今もライカに不思議そうな顔を向けられている。


「クロノさんもそのスーツお似合いですよ」


「ああ、ありがとう。ガウシアもそのドレス似合ってる」


「ありがとうございます」


 緑のドレスに身を包んだ王女様もリア様と同じくらい注目を浴びている。


 周りから見たらこの中に俺みたいな地味な男が混ざっているのが違和感でしかないのだろう。たまに突き刺さるような視線を感じる。


「そう言えば会長が居ないわね」


「先程、知り合いの方に挨拶に行くと仰ってどこかに行かれてましたね」


 まあ、闘神祭が無いにしろ、親睦会はあっただろうから学外に知り合いがいてもおかしくないか。


「ふむ、ならば私も学外の知り合いの下にでも行こうとしようかな」


「す、すみません、殿下。私とご一緒してくれないでしょうか」


「私も! 私もお願いいたします!」


「おおっと、私は意外と知り合いが多かったみたいだね」


 体勢を戻したクリスがそう言って歩きはじめると、周りに他学校の女生徒たちが群がり、あっという間に人の波に流されていってしまう。


 メルディン王立学園の皆は泊りで無くても来られるからこのパーティには来ていないが、他学校の人たちは国境を超えるところもあるので応援の者もパーティに参加しており、人の数が凄い。


 恐らく、今日クリスに再会することはないだろう。


「イケメンは大変ね」


「あなたがそれを言いますか」


 この会場の中で最も注目を浴びているのはあなたとガウシアだというのに。


 今も、男女問わず視線だけで互いに牽制をしているさまが窺える。


 その群衆の中で一人背の高い男がこちらに向かって歩いてくる。


 その男が近くを通ったというだけで周りの女性は頬を赤らめ、話に集中していた者もそのあまりの美形に話を止めてしまう。


 なんだろうと不思議そうに見ていると、リア様だけがその男を見て嫌そうに顔を歪め、俺の背後に隠れる。


「どうされたのですか?」


「ちょっとだけ隠れさせて」


「ふふふ、今更隠れたって無駄さ。君の姿は僕のこの目がいつ何時も逃さないからね」


 確かにそいつの言う通りだと思ったのだろう。見つかってから隠れても意味のないことを悟ったリア様は今度は毅然とした態度で俺の前に立つ。


「何の御用でしょうか?」


「どちら様ですか? リア様」


 コソッと俺が耳打ちをすると、目の前の男は不服そうに眉を顰める。


「僕の前で内緒話とは気に食わんな。まあ、いいさ。婚約者の君に免じて許そう」


 何なのだこの偉そうな男は。典型的な親の七光り坊ちゃんか? それにしても婚約者とはいったい……


「その件は前にお断りをしたはずですが?」


「ふふ、君がそう言ったところで君のとこの国王がそれを許さないと思うけどね。おとなしく従ったらどうだい?」


 この様子だとリア様の婚約者ということか? だが、そんな話は屋敷でも聞いたことが無いぞ。


「そんな横暴が通るとでもお思いですか?」


「通るんじゃない。通すのさ。僕にはそれほどの権力がある」


 まあ、確実にリア様が嫌がっているという事は分かるので俺はサッと二人の間に体を入れる。


「どなたかは存じ上げませんが、ご主人様が嫌がられておりますのでその辺にしておいてもらってもよろしいですか?」


「ん? 何だ貴様は」


 なんだ貴様はとは何だ。さっきからそこにずっといただろうが。


「私はリア様の付き人でございます」


「付き人風情がこの僕に楯突くのかい? 腹立たしいね」


 黒い笑みを浮かべてこちらに歩いてくる金髪の男。このようなタイプは本当に貴族に多いんだなとぼんやりと考えていると、その男の後ろから先程よりも一際大きい歓声が聞こえる。


 そして姿を現したのは黒髪で長身の美男である。


「クレスト、こんなところに居たのか。父上がお呼びだ」


「チッ、運がよかったな貴様。リア、また会いに来るからね」


 そう言うと、クレストと呼ばれた金髪の男はいそいそとどこかへと歩いていく。リア、そう馴れ馴れしく呼ばれたリア様の表情はまるで気持ちの悪い物でも見たかのように口を押えている。


「あの方はアレス殿ですね」


「ガウシアは知ってるの?」


「ええ、あの方はエルフの国でも有名ですから」


 アレスか。聞いたことがあるような無いような。


「アレス・ドゥ・グランミリタール。グランミリタール帝国の第一皇子よ。それとさっきのうざったい奴は彼の双子の弟のクレスト・ドゥ・グランミリタール。ずっと私のことを追い回してくる変態よ」


 そこまで言うとリア様はため息を盛大に吐く。


「そういえば婚約とか言ってましたね。そんなの聞いたことが無かったのですが」


「メルディン王とグランミリタール皇帝との間で勝手に進められたものよ。お父様は断ってくれたんだけどね」


「リア様は嫌なのですか?」


「嫌に決まってるじゃない。私にはもう……」


 恥ずかしそうに顔を背ける。


「とにかくあの人の事は何も気にしなくて大丈夫だから」


 ボソッとつぶやいた言葉に俺は首肯する。


「少し良いか?」


 そうしていると今度はアレス皇子が声をかけてくる。


 またリア様目当てか。そう思い、俺は自然と体をリア様とアレス皇子の間にぐいっと入れこむ。


「何でしょうか?」


 俺が尋ねると、アレス皇子は何故だか俺の体をまじまじと見たのちに一言。


「……気のせいか。いや、やはり大丈夫だ」


 そうしてアレス皇子は踵を返していった。


 兄弟そろって変な奴だな。


 失礼なことを考えていると流れている音楽が止まる。どうやらパーティは終了のようだ。

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