公爵令嬢の地味な付き人は人類を救った五大勢力の内の一つ~勇者の里から追放されたが、魔神の封印に貢献しすぎたので素性を隠します。拾ってくれた公爵家で第二の人生を歩む~

飛鳥カキ

序章 追放

第1話 追放

 険しい山々に囲まれた中に大きな屋敷が建っている。その中では、重鎮たちが当主と一人の少年の一挙一動を見守っている。


「クロノ……貴様には呆れた。まさか能力強度が『0』だとはな。今まで育ててきた分を返してほしいものだ」


 俺の父親であり、この家、エルザード家の当主でもあるシノ・エルザードは能面のように無表情ながらも毒を吐く。


「申し訳ありません。ですが、もう一度測らせていただければ私の本当の力を見せられるはずです!」


 俺が食い下がるように言うと、ここで初めて父が不快に顔を歪ませる。


「その言葉は昨日、何度も聞いた。そして私は貴様が望むようにしてやったというのに貴様は能力測定器を破壊した。最初と合わせて2台もだ。大方、0という数字を見せるのを恥じて壊したのだろう?」


「ご、誤解です! 私は、私はただ……」


「もういい。貴様と話していても不愉快だ。……連れていけ」


「はっ!」


 シノの言葉に従い、二人の屈強な体をしたものが俺の両腕をガシッと掴み、部屋から連れ出す。


 そうして連れてこられたのは独房であった。


「ここでお館さまの裁決を待てとのことだ。逃げるなよ?」


 まだ俺は当主の息子だというのにこの態度である。昨日の能力値測定までは敬語を崩したところは見たことが無かったのに。


「逃げるなと言われてもそんな体力なんて無い……」


 一人残された独房の中で俺はポツリとそう呟く。


 俺の家はエルザード家というこの国で最も権威のある家だ。何でも武力の事なら国王よりも権威があるらしい。何故なら、ここの本家が魔神という悪の親玉を葬った勇者の子孫だかららしい。


 そのため、ここでは能力強度と呼ばれる、能力の強さを数値で表したものが重視されている。能力強度は測定器に表示された瞬間に記録に保存され、全世界における自分の順位を見ることができるのだが、エルザード家の分家の子供たちは次から次へと100位以内という高順位に入っていった。


 そして本家の俺はというと、結果は0。文句なしの最下位だ。しかし、これには理由があった。


 俺の能力『破壊者』は文字どおりあらゆるものを破壊する能力。最初、そんな能力を抱えて測定器に手を伸ばすと、測定器がぶっ壊れてしまったのだ。


 慌てて能力を引っ込め、再度違う測定器で測ったところ今度は0という数字が出てしまった。


 そのせいで一回目の測定器が壊れたのは0という数字が見えた瞬間に俺が壊したのだと言われ、ただでさえ能力強度0ということで軽蔑されたのに更に軽蔑の目が強くなった。


 コツコツと靴が床を鳴らす音が聞こえる。


「よお、元気そうかぁ?クロノさ~ん」


 現れたのは何とも軽薄そうな男、エヴァン・アイザックである。こいつはエルザード家の分家であるアイザック家の人間で、俺と同い年でもある。


 この軽薄そうな見た目からは想像がつかないが、こいつは5人居る同い年の分家の中では低い方ではあるも、世界ランク93位という高順位を叩き出したまぎれもない天才だ。


「何のようだ?」


「何の用だって決まってるじゃないか。いつも偉そうにしてやがったてめえの落ちぶれた姿を嘲笑いに来たんだよ」


「趣味の悪い奴だな」


 偉そうにしていた覚えなんて無いんだがな。


「何とでも言えよ、エルザード家の落ちこぼれさ~ん。ケケケッ、いい気味だぜ」


 愉快そうに高笑いをすると、エヴァンはそのまま立ち去っていく。


 本当に落ちぶれた姿を嘲笑いに来ただけのようだだった。


「そんなに落ちぶれた奴の姿をみて何が楽しいんだ!」


 俺はありったけの思いを込めてガンッと独房の壁に拳を叩きつける。


「あら?そんなことをしたら汚らしい血が飛び散ってしまうじゃないですか」


「今度はお前か。お前も俺のことを笑いに来たのか?」


 エヴァンの次に現れたのは目の部分を布で覆っている紫髪の女性。『千里眼』の能力を持つ、同い年の分家の中では3番目に能力強度が高いセレン・イズールであった。


「笑いに来る? あなたのためにそんな無駄なことはしないですよ。うぬぼれないでください。あなたの幼馴染であるカリンから伝言を預かっているのですよ」


「伝言?」


 カリンというのはカリン・イシュタルと言い、昔からよく遊んでいた俺の幼馴染の女の子である。能力強度は同い年の分家最強で驚異の150万超え。確か30位とかだったかな。


 幼馴染からの伝言ということで俺は少し期待をする。もしかしたら俺の身を案じてくれているのではないかと。しかし、その思いは次の言葉でいとも簡単に砕かれる。


「金輪際私と関わらないで、ですって」


 その言葉は俺の中に残っていた僅かな期待を消し飛ばした。


「本当にあのカリンが言ったのか?」


「はあ、他に誰が居るんですか。伝えることは伝えたので私はもう行きますからね。さようなら、無能さん。二度と私の前に現れないでくださいね?」


 そうしてセレンは用事は済んだとばかりに忙しなく帰っていく。残ったのは俺の中にある悲痛な思いだけであった。


 ――――――


 ――――


 セレンが帰ってから暫くたったころに一人の兵士が独房の前に来る。


「クロノ、出ろ。たった今、貴様はこの里から追放することに決まった。分かったらさっさと荷物をまとめて出ていけ」


 突然の追放宣言。しかし、これは薄々分かっていた事でもあった。俺は特に抗うことも無く、荷物をまとめ里を出ていく。


 カリンのあの言葉を聞いた今はもう、思い残すことは何も無い。


 ♢


 クロノが追放されたその日、世界中ではある出来事に対して衝撃が走っていた。その内容は封印されていた魔神の復活。邪悪なる魔神の軍団が次から次へと人類を蹂躙していくものであった。

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