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「あのぉ……各『ヒーローチーム』から上がってきた報告書を、いくつか見てみたんですが……」

 この御時世に紙に印刷した報告書。

 それにマーカーとボールペンで註釈が書かれている。

 ウチの会社の更に上部組織の俺よりは頭がいい奴(ただし「正義の味方」達より頭がいいとは限らない。御本人達は「俺達は正義の味方より頭が良くて現実主義者だ」と思っているだろうが、多分、それは単なる妄想だ)が分析した結果だった。

 あと、印刷されてる内容は機密情報ではなくて公開情報だ。

『何でしょうか?』

 九〇年代(俺の生まれる前だが)の某アニメみたいに、俺の疑問に答えてくれる相手は「Sound Only」。多分、声も変性処理がされていて、この声を録音しても、声紋分析には使えない……らしい。

 いや、動画サイトなどに上がっている「正義の味方」の活動を記録した動画では、「正義の味方」達の声にはノイズが混っていたり聞きとりにくくなっている。少なくとも「正義の味方」関係者以外が撮影したモノに関しては。

 ただし……俺も、「正義の味方」を生で目撃した事は有るが、生で聞く「正義の味方」の声は、変性処理はされているらしいが、普通に聞こえた。

 ウチの会社の上部組織の分析では……「正義の味方」のマスク内の音声の変性を行なう装置にある機能が存在しているらしい。

 メジャーな音声ファイルや動画ファイルでは「非可逆圧縮」と言われる処理が行なわれている。

 早い話が「人間が観たり聴いたりしても問題ない形で音声や画像の情報の一部を削除する事でデータ量を削減する」と云うモノだ。

 画像ファイルのJPEGでサイズを小さくし過ぎるとノイズのようなモノが出るのもそのせいだ。JPEGは古い規格なので「人間が見ても築きにくい形で画像の情報の一部を削除しデータ量を削減している……が、コンピューターのモニタがブラウン管なのが一般的だった時代に考えられたやり方で「不要なデータを削減」しているので、今の時代では想定外の事も起きる。

 しかし、問題は……メジャーなタイプの音声ファイル・動画ファイルにおける「音声や画像の不要なデータをどう削除するか?」は公開情報だと云う事だ。

 どうやら……「正義の味方」達は、メジャーなタイプの音声ファイル・動画ファイルが生成される際の「音声や画像の不要なデータをどう削除するか?」を分析し、「人間の耳で聞けば普通に聞こえるが、『非可逆圧縮』を行なうとノイズが混ったり聞きとりにくくなるように、人間の声を変性させる」技術を開発したらしい。

 ウチの上部組織も含めて「悪の組織」が負け続けている理由がここに有る。

 明らかに「正義の味方」達に協力している優秀な技術者・科学者が……かなり大量に存在する。なのに、「悪の組織」の方は「『正義の味方』など脳内が御花畑の甘ちゃんで、俺達こそが理性的な現実主義者だ」と云う、脳内が御花畑の甘ちゃん特有の妄想を抱いている。

「何故、報告書では『正義の味方』達は『コードネームプラス所属チーム』で書かれているのでしょうか?」

『身元を隠す為です』

 何でだよ?

 「上」からの指示書を見る限り、「上」は「正義の味方」達の正体を暴く事を優先している。

 「『

「でも……」

『かつて、警察・検察・裁判官などの個人情報が犯罪組織にバレたせいで、刑事司法が崩壊しました』

 ああ……そうだ……。

 ちょうど俺の家族が皆殺しにされた頃だったんで……それどころじゃなくて、イマイチ記憶に残ってないが、警察があるヤクザからの要求を「毅然とハネのけた」せいで(ただし、あまりに無茶苦茶な事件だったので色々と異説あり)、福岡県警のエラいさんの母親がそのヤクザに殺された事が有った筈だ。正確には殺されたのは「福岡県警のエラいさんの母親に加えて、たまたま同じ老人ホームに入居していた無関係な老人と、その老人ホームの職員、それぞれ複数名」だが。

 例の「大阪派」の政治家と同じ事を考える奴は昔から居るのは「常識」で……その「常識」を知らない馬鹿のフリをしてる俺の方が馬鹿なのだ。

 助けてくれ。

 上からの命令とは言え、馬鹿のフリをし続けると、本当に馬鹿になりかねない。

「あ……あの……でも、仮に……『正義の味方』の誰かが、自分の身元をバラすような真似を……SNSなんかでやったなら……」

『大丈夫です』

「何がですか?」

『その場合でも、全滅するのは当該チームだけで済みます』

「へっ?」

。あるチームの所属者の個人情報がバレても芋蔓式に他チームの個人情報を得るのは不可能ではないにせよ困難です。新興チームの場合は、戦闘要員と後方支援の非戦闘員は互いに互いの身元を知らない場合が有ります』

 おい、待て。

「あの……そんな状態で……どうやって『組織』として機能してるんですか?」

『ああ……彼らの事を知らない方は、そこから勘違いされているのですね』

「何がですか?」

『あくまで喩えですが……?』

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