Dystopia Now!!/「正義の味方」監査委員に選ばれてしまった「悪の組織」の末端構成員ですが……

@HasumiChouji

序章

しんどい系

「あ……あの、十三回忌は去年ですよ」

 その土曜日に、親父とお袋、兄貴夫婦、兄貴の子供達がまとめて入ってる納骨堂が有る寺に行って、住職に法事をやる場合の費用を相談した。

 ひょっとしたら、法事を理由に仕事を休めるかも知れない……そんな一縷の希望を抱いていたのだ。

 けど、住職が記録を調べて、まず言った一言がそれだった。

「え……っと……そうでしたっけ?」

「十三回忌って言いますけど、十二年目の命日です」

「あ……そうだったんですか……」

 就職して一人暮しを始めて2〜3年目、俺の家族は皆殺しにされた。

 しかし……警察からその事件の説明を何度受けても良く判らなかった。

 実家の防犯カメラの映像からして……犯人は独立系ヒーロー……いわゆる「正義の味方」達の組織に属さずに「正義の味方」活動を行なっている者……だった「クリムゾン・サンシャイン」本人か、そのコスプレをした何者かだったらしい。

 殺され方は……あまりに酷い代物だった……。犯人は、血も涙もない異常者なのは確実だ。その証拠に、犯人はについて、頭をフル回転させた、としか思えない状況だったのだ。

 流石に兄貴夫婦の年端もいかない子供達は一撃で楽に死なせたらしかったが、殺された事には代りは無い。

 その数日後に……いや、今でも、俺の家族が殺されて数日後に、第一発見者の1人だった当時の久留米市長の息子がクリムゾン・サンシャインのコスプレをして市役所で起こした虐殺事件との関連については良く判らないし……ネット上でも諸説有る。

 親父は久留米市議会の最大会派のリーダー格だったが……次の市議会選挙でその会派は壊滅。

 更なる問題は、俺の勤め先が……親父のコネで入った今時めずらしい理不尽企業だった事だ。

 政治家になれる可能性が無くなった俺は、勤め先から「その他大勢」として扱われる事になった。

 なお、俺の会社で「その他大勢」として扱われるとは「奴隷」と云う意味だ。

 しかも、後ろ盾の有る幹部候補だったのが、あれよあれよと云う間に「奴隷」だ。

 寺を出て、バスに乗って、西鉄久留米駅前まで着いた所で携帯電話ブンコPhoneに上司から着信。

 言うまでもなく、俺の位置情報は勤め先に把握されている。

『おい、次の電車に乗って会社まで来い。金曜までに終える予定の仕事が終ってないだろ』

「あ……あの……残業代は諦めますので……せめて……健康診断に……」

『はぁ? 馬鹿かお前は?』

「い……いや……でも……3ヶ月連続で残業時間が九〇時間を……」

『あのな、お前、そんな甘い事を言ってるから、その齢で係長にも成れないんだよ』

 正確には、コネ入社だったお蔭で……親父が死ぬ半年ほど前に課長補佐になれてたが……「将来、政治家になれる可能性はほぼ0」になった時点で平に降格された。

「わかりました……」

 たすけてくれ……せめて……昼飯ぐらい……。

 しかし……公的機関に駆け込む訳にはいかない。

 ウチの会社は裏でロクデモない事を色々とやっており……それには俺も関わっている。

 ウチの会社を潰そうとすれば……俺も手錠に腰縄で……ああ……どこの警察機構けいさつの御世話になるのだろうか?

 その時、携帯電話ブンコPhoneに通知。

「ん?」

『公的機関からの重要書類を送付予定です。受取方法を指定して下さい。なお、自宅で受け取る場合でも本人証明が可能な書類が必要になります』

 Meaveメッセージアプリには、そう表示されていたが……ま……待て……何だこりゃ?


 夜中の3時過ぎに、郵便局の二四時間窓口で、その書類を受け取った。

「な……なんだ……なんなんだよ……これ……?」

 俺は昔の出来の悪いマンガみたいに思った事を口に出してしまった。

 でも、本当に、そんな馬鹿みたいな真似をせずにはいられない馬鹿馬鹿しい事態だ。

『貴方は公正な抽選により九州7県・特殊武装法人監査委員に選ばれました。貴方が監査委員としての業務を行なわれる際は公費より給与が出ます。貴方の勤務先が、貴方が監査委員としての業務を行う際に公休として扱わなかった場合、貴方の勤務先は罪に問われます。貴方には守秘義務が有り……』

 特殊武装法人とは俗に言う「正義の味方」「御当地ヒーロー」の事。

 監査委員とは、「正義の味方」「御当地ヒーロー」どもがやった事に問題ないかチェックしろ、と云う事だろう。

 しかし……。

 いや……何と言えば良いか……。

 ホントに待ってくれよ……一体全体……「、「

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