青色の下で・・・Third season

オレッち

東海大会

第1話 東海大会へ

 聖陵学院高等学校。

 静岡市内といっても中心部よりは北側へ離れており小高い山ん中枢に位置している。

 制服に身を包んだ生徒らが学校へと登校する中、校舎には大きめな垂れ幕が貼ってある。


『聖陵野球部、東海大会出場おめでとう!』


 大きく書かれた文字を登校する生徒たちが見上げる。

 そんな中、同じように垂れ幕を見上げてニンマリと笑顔を見せる生徒がいた。


「東海大会……」


 その生徒の名は横山俊哉だ。


「おうトシ」


「あ、竹下おはよう」


「おっす。おー、でっかい垂れ幕だなぁ」


「凄いよねぇ」


 後ろから声をかけてきたのは竹下隆彦。

 俊哉と同じ野球部で正捕手を務める二年生だ。


「しかし。東海大会に出れたんだよな」


「うん。夢じゃないよ?」


「選抜出るには最低でも決勝進出が鍵だ。」


「その通り 決勝に出れればほぼ確定 でも油断してたら途中で落ちるよね」


「だなぁ」


 聖陵学院野球部として初となる東海大会への出場。

 その記録を俊哉や竹下を初めとした野球部員らが見事決めてのけたのだ。


「東海大会は今年何処で開催だっけ?」


「此処だよ 静岡」


 東海大会は静岡、三重、愛知、岐阜の四県で開催される。

 開催会場はこの四県で持ち回りとなっており、今回は静岡での開催だ。


「来週から開幕だぜトシ」


「うん」


「県大会の様な状態は勘弁してくれよ?」


「あはは 勿論だよ 頑張る」


 竹下の言葉に苦笑いを見せながら話す俊哉。

 静岡県大会では俊哉は全くと言っていいほど絶不調に陥っていた。

 本人も周りも今大会での俊哉の復活は絶望的と感じていた時、1つの光が彼に差し込んだ。


「あ、俊哉さん」


「司ちゃん」


 ちょうど後ろからやってきた言葉に俊哉の表情がパッと笑顔になる。

 その弾ける笑顔の先には司の姿があった。


「あの、その俊哉さん 調子はどうでしょうか?」


「あ、いや うん、絶好調……かな?」


 互いに頰を赤らめながら言葉のやり取りをする俊哉と司。

 そんな2人を交互に見ていた竹下は、やれやれといった表情で肩を竦める。


「初々しいなぁおい まぁ良いけどさ」


 笑いながら話す竹下に2人は恥ずかしそうにしながらも顔を見合わせる。

 この司という光が、俊哉を見事に照らし闇から解放をしてくれた。

 授業の時間が迫ってきており俊哉たちは慌てて教室へと向かおうとする。

 そんな中、司が俊哉を呼び止める。


「俊哉さん」


「な、なに?」


「東海大会は、何処でやるんですか?」


「今年は確か、静岡だよ?」


「そ、そうなんですね?」


 東海大会は静岡、三重、愛知、岐阜の四県で行われる大会だ。

 勝ち進んでいき優秀な成績を収めることができれば春に開催される選抜大会への出場権を得ることが出来る大事な大会だ。

 そして開催地も年ごとに持ち回りとなっており、今年は静岡県での開催となっている。


「私、応援してます!頑張ってください!」


「あ……ありがとう!頑張るよ!」


 司の声援に俊哉が満遍の笑みを浮かべながら返事をすると、俊哉は小走りに教室へと入っていく。

 その後ろ姿を司は、優しく微笑みながら見守るのであった。


(どうか、俊哉さんが楽しく野球ができます様に……。)


 そう願う司。


 時間が進み一週間後。

 草薙球場にていよいよ東海大会が始まった。

 東海四県から上位3チームづつ参加した12校が選抜の座をかけて戦いを繰り広げる。


 そして聖陵学院は大会二日目の第二試合目での登場。

 対戦する相手は岐阜県3位で勝ち上がってきた岐阜第三高等学校。

 ここ数年ベスト16の壁を破れていなかったものの、この秋の大会では順調に勝ち進み東海大会への切符を手にいれてきた力をつけたチームだ。


 しかし、聖陵学院の。

 また俊哉の勢いは止まらない。


カキィィン……


 3回表の聖陵学院の攻撃は一死二塁のチャンス。

 試合会場となった沼津愛鷹球場に快音が響き渡ると打球は左中間を真っ二つにやぶる痛烈な当たりとなる。


「2ついける!!」


 ベンチから声が飛び交う中、一塁を回る俊哉は快速を飛ばし二塁へ悠々と到達した。


「ナイバッチ!」


「ナイバッチ!トシ!!」


 二塁上でベンチからの言葉にグッと右腕を高く掲げる俊哉。


「今日これで二打席連続の二塁打か」


「んでタイムリーにもなったし トシの打撃完全復活だな」


 ベンチで俊哉の打撃をマジマジと見つめながら話をする竹下と山本。

 県大会が嘘の様に絶好調を維持している俊哉に安堵する。

 その俊哉の打棒の勢いそのままにチームも5回までに7得点を叩き出す打撃力の強さを見せる。

 そして守備では先発をし5回まで無失点の秀樹はもちろんのこと、継投をした鈴木、長尾も無失点リレーで投げきり初戦を7−0の7回コールドゲームで勝利を収めたのである。


 その勢いは二試合目にも……


カキィィン……


「お。」


「おぉ、あれは行ったな」


 二試合目の相手は愛知県2位の豊川商業高校。

 投手力が売りのチームで愛知県大会での失点はわずか5点と参加チームの中では最小だ。

 だが、この日快音を響かせたのは明輝弘のバットだった。


「……よし」


 ライトスタンドに吸い込まれていく打球を確認すると一塁方向へ走っていく明輝弘。

 インコースへの厳し目に投じたストレートを完璧に弾き返した結果である。


「ナイバッチ」


「おう」


 ホームを先に踏み出迎えた俊哉とハイタッチを交わす明輝弘。

 呆然と立ち尽くすマウンド上のピッチャーの後方にあるバックスクリーンには6−0のスコアが表示されていた。


「あら、相手の失点 県大会の一試合で記録更新ですわね」


「瑠奈さん それ言ったらダメなヤツだよ」


 スコアをつけている瑠奈の言葉に苦笑いを見せる俊哉。

 その俊哉はこの日も二塁打2本を放つなど好調を維持している。


「俊哉さんも維持できてますわね」


「あはは お陰さまで」


「ホント、県大会ではどうなるかと思いましたわ?」


「ホントだよねぇ」


 ケラケラと笑いながら話す俊哉だが、当時は笑えないほどであった事はベンチにいる選手全員が分かっていた。

 だが、彼は見事復活して帰ってきたのだ。


「東海大会、頼みますわよ?」


「うん もちろん」


 ニコッと笑顔を見せながら瑠奈の言葉に答える俊哉。


 そしてこの日も聖陵学院は勝利を収め、三回戦へと駒を進めるのであった。


 東海大会開幕。


 次回へ続く。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る