第13話 最城大学 Ⅵ

 どれ程の時間が経っただろうか。

 不意に、達紀が声を上げた。


「嘘だろ……? おい、これかなりヤバいんじゃないか?」


 律希と紗奈がPCに駆け寄り、達紀の後ろから画面を見る。


 ──東京駅で23人死傷。犯人は現在逃走中。


「この事件が歴史通りじゃ無いって言ってるの?」


 律希が聞くと、達紀と松永はうなずいた。


「こんな大きい事件聞いた事が無い」


「……23人って」


 紗奈は思わず呟く。


「これは……優斗君たちを襲った犯人がやった事なんですか?」


 しかし、律希は首を振った。


「多分違う。こんな事してもデメリットしか無いのは、彼奴なら分かってると思う」


「じゃあ……」


「間接的マイナス改変」


 律希は何かに思い至ったようだった。


「だから究明チームも対策部も見つけられなかったんだ。……まずいな」


 何かを考え込む律希に、紗奈は聞く。


「間接的マイナス改変って……?」


「川野は、バタフライエフェクトって知ってる?」


 律希がPCから目を離さずに言った。


「例えば蝶の羽ばたきみたいに、一見些細な出来事が、因果関係の繰り返しの果てに歴史や世界を大きく変える事を指す言葉なんだけど」


 達紀が、


「……風が吹けば桶屋が儲かる的な感じ?」


 と聞いたので、律希は「それに似てる」と答えた。


「例えば、2015の警察が、時空犯を不審者と認識して気を取られていたとする。もしかしたら、そのせいで彼の目には、本当は気付けたはずの事件の可能性が入らなかったのかもしれない。

 だから、本来は彼の活躍で防げた事件が、起きてしまった……とか」


「犯人が何もしてなくても、間接的にマイナス改変が起きる事もある……って事ですか?」


 紗奈の問いに、律希は答えなかった。でも、その無言が問いを肯定している。


「でも、それくらいでこんな事件が……」


 何も関係の無い23人が、この時代の人間のせいで凄惨な事件に遭っている。

 

 ──そんな事が、あっていいわけが無い。

 

 ぎゅっと手を握りしめた紗奈に、律希は落ち着いた声で言った。


「この事件は、まだ無かった事に出来る。僕らが修正出来れば」


 それが不安定でも、律希の言葉はかなりの安心をくれる。


「……絶対、修正しないと」


 紗奈が呟くと律希は少し俯いて息をついた。


「よし、帰ろう。究明チームと対策部に教えないといけないから」


 律希が言うと、達紀と松永が、不安げにしながら、


「頑張れよー」


「また何か有れば、どんな事でもしますから」


 と声をかける。

 紗奈はそんな2人の言葉に感謝して、小さく礼をする。


「ありがとうございました」


 律希も小さく頭を下げて、2人は少々慌ただしく最城大学を後にした。

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