第2話 時間警察修正部Ⅱ
和弥が泣き言を言いたくなるのも当然、といえるかもしれないこの状況。
パソコンはフリーズしたまま、律希が発する無言の圧力によって和弥はもう一言も話さない。
息苦しいほどの静けさが、いつまでも続くように思われた時、パソコンの画面がパッと切り替わった。
「……修正完了」
画面に表示された言葉を律希が読み上げる。一瞬、その意味を理解するのに時間が空いた。
「……えっ、マジすか?」
和弥が恐る恐る聞き返す。律希は表情を解いて頷いた。
「えっ、嘘! やったー!」
和弥が両手を上げて叫び、律希は喜ぶ気力もなく、力を抜いて机に倒れ伏す。
「中山部長に言いに行かないと! あっ、香織にも? 篠木さんにもメッセージ送んなきゃじゃん! 後、一ノ先輩、紗奈ちゃんに送っといて下さいよ」
和弥が早口でまくし立てるが、律希は反応しない。
「ちょっ、一ノ先輩? ……あっ、シャットダウンされたのか」
およそ67時間、律希はまとまった睡眠をほとんど取れていない。修正が終わってほっとしたせいで、眠ってしまったようだった。
大きめの修正の度に、そうなってしまう律希を、部長の
「……ま、先輩のパフォーマンスは旧型じゃないっすけどね」
和弥は今日の修正作業を思い出して呟いた。何時間も極限の集中力を保って、冷静に仕事をこなす律希は、秘かに和弥の憧れだった。だがもちろん、憧れているだけで、そうなろうと努力する気は彼にはない。
その時、自動ドアが開く音がして、部署の中では最年少の後輩、
「すみません! 一時間で戻る予定だったんですけど、アラーム鳴らなくて……」
「おっ、紗奈ちゃんいいところに来た! ちょうど今修正、終わったんだよ」
必ず72時間以内に仕事を終えなければならない修正部では、休憩は交代で取る。戻って来た後輩に良い知らせが出来ることを嬉しく思いつつ和弥がのんびり言うと、紗奈の表情がパッと輝いた。
「本当ですか!? ソフトの最終設定は一ノ瀬さんが?」
紗奈は机に伏せて動かない律希を見て聞いた。
「いや、」と和弥は自慢げに答える。
「今回は俺。本当は全く自信なかったんだけど、一ノ先輩が『大丈夫だから実装しな』って言うからさー」
「それで成功したんですよか? さすが和弥先輩!」
「まあ、一ノ先輩がちょっとしたミスを直してくれたおかげだけどね。俺一人じゃまだ出来ないよ」
和弥がひらりと手を振って謙遜すると、紗奈は、それでもすごいです、と明るく笑う。
「じゃあ、修正が終わったこと、中山さんと篠木さんにも知らせなきゃですね。それじゃあ私、中山さん探してきます。多分対策部に居ると思うので」
「そうなん? じゃあお願いする。俺は香織と篠木さんにメッセージ送っておくね」
和弥がそう言うと、紗奈が直ぐに部屋を出て行く。再び静かになった部屋でメッセージを送りながら、和弥は手を上にあげて背伸びをした。
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