修正部 72時間
花風ひなかのん
第1話 序
2018年8月25日午後9時55分
公園の街灯は壊れていた。普段は木陰を作り恩恵を与えてくれるはずの木々も、月明かりを遮るだけで、その下の闇はいっそう深くなっている。
その闇の中に、家出をして来た男の子が一人、座り込んでいた。遠目から見て気付くことの出来る人間はいそうもないほど、彼の姿は闇に溶け込んでいる。
同じ時、滑り台の脇に一人の男が立っていた。
いつ、どこから現れたのかも分からないその男は、その位置からは暗闇しか見えないはずの木の根本を、真っ直ぐに見据えていた。
男の子が、その男の視線に気付いた。知らない男の視線を自分が引きつけてしまっている理由が分からない。そんな不気味さに、男の子は思わず逃げ出そうとして木の下を出た。
すると、男は真っ直ぐにこちらに走ってきた。
「……な、何ですか?」
男の子は震える声で聞いた。
「お前は、
「はっ!? えっ、何でそんな……」
突然自分の名を呼ばれ、優斗はうろたえた。
「えーっと、そうですけど。……まさか、お父さんに言われて?」
一つ思い当たった理由を問う。
しかし、男は優斗を見つめたまま何も言わなかった。その表情は優斗からは窺えない。ただ、気味が悪かった。
ゆらりと男が動く。優斗が戸惑っていると、男は何かを手に持った。
月明かりを反射し、一瞬だけそれが輝く。背筋が凍りつくような銀色の輝きは、明らかに人を殺傷することの出来る刃のものだ。
優斗はとっさに後ろに後ずさったが、すぐに木の幹にぶつかる。根につまづき、倒れ込んだ優斗の背後で、男がナイフを振り上げる気配がした。
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