第13話:剣士アリシア 7

 二人は広い訓練場の中央に陣取って相対している。

 アーノルドが大剣を手にしているのに対して、シエナは細く長い直剣を構えた。


「――マジで団長とシエナが模擬戦をするのか?」

「――さすがに団長が勝つだろうけど、シエナも負けてないからなぁ」

「――私は女性として、シエナを応援するわよ!」


 誰が勝つのか、誰を応援するのか、そんな声がアリシアの耳に聞こえてくる。

 そんな中、審判役を買って出た自警団員が二人の間で片手を上げてから双方に確認を取る。


「団長、シエナ。準備はよろしいですか?」

「私は問題ない」

「私もです!」

「わかりました。それでは模擬戦――始め!」


 開始と同時に飛び込んでいったのは――シエナだ。

 一直線に駆け出したシエナは、アーノルドの間合いに入る直前で直角に進路を変更、死角に入ろうと背後を狙う。

 そうはさせまいとアーノルドはその場で片足を軸に体を回転させて常にシエナを正面に捉える。

 今はまだギリギリアリシアでも動きが見える速度だったが、このままでは埒が明かないと判断したシエナは更に速度を上げていく。


「……うわぁ、見えないよ」


 シエナが踏み込んだ場所の地面から砂埃が舞い上がり、辛うじてあそこを通ったのだろうという推測を立てつつ、アリシアは模擬戦に視線を注ぐ。


「なんだ、攻撃してこないのか?」

「もう少しですから、待っててくれませんか?」

「仕方がないな、一度だけだぞ」

「……余裕なんですね!」


 移動を繰り返しながらの会話だったが、二人はしっかりと聞き取っていた。

 まだまだ余裕がある、そんな様子が見て取れるものの、実を言えばシエナは完全に攻めあぐねている。

 どこに移動しようとも正面に捉えられ、攻め込もうにもアーノルドが放つ威圧感に押し返されてしまう。


「……くっ! それなら、攻撃から隙を作り出してみせるわ!」

「その覚悟は良し! だが――隙を作り出せるかな?」


 シエナが出せる最高速度に到達した途端、彼女は一直線にアーノルドへ迫っていく。

 直剣が鋭く振り抜かれると、そこへ大剣がぶつけられて激しい金属音が響き渡る。

 武器の重量、二人の腕力、それらを加味すると間違いなくシエナが弾き飛ばされるだろうとアリシアは考えていた。

 だが、シエナは大剣から伝わる衝撃を完全に受け流すだけではなく、自らの力に変換して連撃を繰り出していく。

 アーノルドも動きを止めることはなく、直剣を弾き飛ばしたその動きのまま体を捻り、連撃の一撃をさらに弾き飛ばしてしまう。

 二人の攻防はしばらく続いた。

 衝撃を力に変えて連撃を繰り出すシエナと、自らの動きを止めることなく迎撃を続けるアーノルド。

 アリシアからすれば二人の攻防は一生続くのではないか、決着はつかないのではないかと思えてならなかったが、戦況は一気に変わった。


「……くっ!」

「衝撃を受け切れなくなったな?」


 衝撃を受け流し続けていたシエナの両腕が限界を迎えたのだ。

 受け流しているとはいえダメージがないわけではない。

 ダメージを回復させるだけの時間があれば話は別だが、シエナは休むことなく連撃を続けている。

 迎撃を続けているアーノルドも条件は同じだが、一撃の重さでは間違いなくシエナの方がダメージは大きい。

 故に、持久戦となれば絶対的にアーノルドへ軍配が上がってしまう。


「それでは――終わりにしようか!」

「まだ、負けませんよ!」


 迎撃だけを続けていたアーノルドが攻勢に転じていく。

 苛烈な攻撃を見せていたシエナだったが、しなやかな動き、鋭い攻撃は徐々に鳴りを潜めていき、最後には大きく直剣を弾き返されてしまった。


「きゃあっ!?」

「ふんっ!」


 気合いの声と共に振り抜かれた大剣は、シエナの首手前で寸止めされていた。


「……はは、参りました」

「腕を上げたじゃないか、シエナ」

「えぇ~? 完敗した相手にその言葉は、さすがに惨めですって~」

「何を言うか。私を相手に五分も打ち合えたのはお前が初めてだよ」

「……時間を数える余裕もあったんですか、そうですか」


 褒めたつもりのアーノルドだったが、何故かシエナは大きく肩を落としてしまう。

 その様子に首を傾げたアーノルドを見て、周りで見ていた自警団員はため息をつくのだった。

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