第3話 ごちそう、いっぱい
「お~、ここも全然変わってないねぇ。久々に外に出ると気持ちよく感じるのは、この姿になったからなのかねぇ」
「黒竜様、そう悠長にもしてはいられませんよ。先ほども申し上げましたとおり、今世界は人と魔がせめぎ合う欲望の渦となっています。かつての戦乙女の栄光や権威はガタガタといってもいいでしょう」
「う~ん、信じがたいな。星雲の戦乙女は人類から選ばれた存在だというのに……その顔を見る限り本当のようだね」
「時代は変わったのです。今では各国にひとり戦乙女が存在し、魔物と戦っています」
「戦乙女も量産品の時代か。世も末だね~」
「ですが力を取り戻すには絶好のチャンスですよ。ところで、お姿を取り戻されるとのことですが、どのように?」
「……今にわかるさ」
しばらく歩くと森林を抜ける。
向こう側の平野が見渡せる場所までつくと、そこでは戦争が勃発していた。
人と人。
鎧同士がぶつかり合い、刃と刃が激しく火花を散らす。
絶え間なく放出される魔術支援攻撃により、戦場はさらに朱に染まっていった。
「なるほど、戦争ですか。肩慣らしに人間を捻り潰すということですね。人間たちもビックリするでしょう。いきなり現れた黒竜様にボコボコ、に……────?」
すぐ隣から感じる高魔力反応。
黒竜は掌をかざし、周囲の空間が軋みを上げるほどに濃密な魔力を練り上げる。
「え、黒竜、様?」
刹那の内に放たれたのは、光の帯を伸ばしながら飛翔する魔力弾。
戦場のど真ん中に直撃した直後。
音のない爆発、キーンとした耳鳴りと周囲をなぎ倒すほどの爆風が戦場とその周囲の環境を襲った。
「わ、わ、わぁああああ!!」
爆風に吹っ飛ばされて後方へと転げていくジークリンデ。
そしてものともせずにその場雄々しくに立つ黒竜。
おさまったころには巨大な爆煙が空高く立ち上っていた。
「は、は、……はは。すご、い。これが、黒竜様の力」
前方に広がるのは巨大なクレーター、焼けた大地に、風に乗ってかすかに聞こえる人々のうめき声。
黒煙でチラリと見えたが、両陣営の魔術師が魔力防壁を張っていたのか、その中であわただしくしている。
「さすがです黒竜様! あの一撃で両陣営合わせても8割以上の損害を出しています。これならば……」
「いや、全然ダメだよリンデ君!」
「え、あれでですか?」
「リンデ君、悲しいお知らせだ。ワタシの力はどうやら9割以上削がれているらしい。しかもこの身体のコントロールも上手くできてない。薄々わかっていたけれど、やっぱりヘコむなぁ」
首を横に振ってみせる黒竜。
言っていることと現実がまるで嚙み合っていないようにも思えるが、本人からすればあまりにも不出来らしい。
とはいえ、そこは世界を破壊する力を持った竜。
視野を広げて見れば、確かに世界を破壊するにはまだ威力が足りないかもしれない。
それに世界には戦乙女だけではない、凄まじい力を持った強者たちがいる。
あの程度に浮かれていた自分を恥じるジークリンデだった。
「まぁいい。お目当てのものはゲットできた」
「お目当て? ……あ!」
ジークリンデの視線が空へと移る。
戦場、だった場所から黒竜のほうへと飛んでくる無数の魂。
「さぁ、いただこうか!」
両腕を広げると、魂たちは黒煙に吸い取られていくように瞬く間に消えていった。
まるで食事でもするかのようにガボガボと音をたてながら、最後のひとつになるまで魂を平らげていく。
「ふぅ、最初としてはこんなものか。だがどれもこれも不味いな。魂の質が落ちている。昔はもっと美味い魂が食べれたんだけどなぁ」
「魂を?」
「より上質な魂は今のワタシをさらにパワーアップさせる。さぁリンデ君。ともに探そう! 世界を破壊する前の、ちょっとしたグルメ旅行とでも思えばいい。フーッハッハッハッハッ」
「は、はい! お供いたします!」
ジークリンデが立ち上がろうとしたとき、ふと上空から気配を感じた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます