第二話 右片麻痺
「……」
気がつくと知らない天井があった。
とは言っても特に驚きとかは無く
「あぁ、病院に連れてこられたのか」と
すんなり現状を受け入れていた。
むしろ横に母親と兄貴がいる事に驚いていた。
一人暮らしだから連絡先知らない筈なのに…
病院側がスマホとか覗いたのだろうか。
折角の日曜日なのに家族に申し訳ないな…と
自分自身の事よりそこに意識が行っていたのを
よく憶えている。
話を聞けば、予想通り
俺は脳出血にやられていた。
左被殻出血で出血量は30mlオーバー。
開頭手術寸前の状態だったがとりあえず
様子見となったらしい。
手術するとデメリットも多いと聞く。
とりあえずその点についてはホッとした。
「…あっ」
俺の右半身がおかしい事に気づいた。
もちろん力が入らないのもあるが、
それより重大な異変があった。
“右半身が無い”と感じている事だ。
先生曰く、出血した場所の問題で
「運動麻痺はリハビリでどうにかなるが
感覚については正直厳しい」らしい。
右半身の感覚喪失は例えるなら
歯医者での麻酔注射を右半身全体に
たっぷり打たれた感じに非常に近い。
歯医者で麻酔を打たれた時に想像してほしい。
感覚鈍麻や感覚消失について理解出来るだろう。
驚いたのは、手足は勿論の事、
頭の先、口の中、まさかの亀頭まで
キレイに左右で感覚が全く違う事だ。
正直笑うしかなかった。
また、表面の皮膚感覚だけではなく
深部感覚もやられているらしく、
とても奇妙な体験をする。
例えば、右腕を動かす事自体は
弱々しいながらなんとか出来るものの、
腕を動かしている実感が殆ど無いのだ。
例えるなら脳波で動くロボットアーム。
何で動くんだこいつという違和感。
それらの事実を突きつけられたが、
これからどうなってしまうんだ…
という気持ちや不安よりも先に
何だこれは?という好奇心が優っていた。
それは脳をやられた事による
思考や感情への影響が大きかったのを
後日理解する事になるが、その時の俺は
未知な事に対する楽しさすら感じていたのである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます