二十話 弟子入り

 アリアに王都を追放されてから、寝ずに何日も走ってた私は、気付けばボースハイト王国と戦争中のアルプトラウム帝国内に入ってたみたい。


「ほええぇぇ!? ここアルプトラウム帝国内なの!?」


「そうだよ。ヒメナは王国民ってことだよね?」


 だからさっきポワンは真顔になったんだ!!

 二人は帝国民で王国と戦争中だから……私殺されちゃう!?


「……うん。ボースハイト王国のアンファングって街の孤児院にいたんだけど……戦争で、右手と一緒に無くなっちゃった……」


 帝国の四帝の一人のアッシュのせいで……。

 そう言いたかったけど、帝国民の人がどう受け取るかが分からないから、迂闊なことは言えないや……。


「帝国軍がアンファングを堕としたのは半年前じゃなかったかの? それまでお主はどうしてたのじゃ?」


「王都で盗みとかして、皆で生きてた……」


「皆? でもヒメナは一人だよね?」


「皆は王都に残って……私は王都を追放されたんだ……」


 私はポワンとルグレに王都での出来事を話した。

 アリアや皆のこと。

 それにロランとあったこと。


 二人は帝国民みたいだから、帝国を悪く思っていない風に伝えるためにも慎重に。


「……そんな目に……!?」


 私の話を聞いて、ルグレは凄く驚いていた。

 確かに、よくよく考えれば凄い目にあってるもん。

 驚いても無理ないや。


「……くそっ……王国騎士団がそんなことをしたのは、帝国が追い詰めているからだ……やっぱり王国と戦争なんてするべきじゃなかったんだ!! 俺が――」


「ルグレ!!」


 私の話を聞いて、何でか自問自答をし始めたルグレを制すように怒鳴るポワン。

 二人共……どうしちゃったんだろう?


「だから駄目なのじゃよ、お主は」


 ポワンの殺気にも近い怒気。

 山の中の鳥が鳴きながら飛び、私とルグレは思わずたじろいでしまう。


 ルグレはポワンに怒られてへこんじゃった。

 何で怒ったのか良く分からないけど、そんなに怒らなくたっていいのに。


「――して、小娘」


 ……ん?

 いや、小娘ってまさか私のこと!?


「私はヒメナって名前があるし、ポワンだって小娘じゃんか!!」


「阿呆! ワシは生き過ぎて自分の年齢なんぞ覚えとらんが、数百歳は超えとるわ!!」


 なーに言ってんだか、多分ちょっと年上くらいの年齢じゃん。

 嘘も大概にして欲しいよ。


「して、お主はこれからどうする気なのじゃ?」


「どうするも何も……」


 孤児院からも王都からも追い出されて、行く当てなんかないもん……私には。


「よし、なら弟子になれ!!」


「ほぇ?」

「え!?」


 私が間の抜けた声を出したと同時に、へこんでたルグレが驚き、顔を上げる。

 弟子になれって……どういうこと?


「お主は己の身すらも守れず、ただただ壊されて、奪われてばかりで悔しくないのか? このままじゃお主は奪われてばかりじゃぞ、何一つ守れずの」


 確かに……ポワンの言う通りだ。


 アッシュやカニバル、ロラン程の強い人間に狙われたことはきっと不幸なんだろうけど、私は自分の身すら守れなかった。

 エミリー先生も、ララも、メラニーのことも……。


「……アリア……」


 そしてアリアのことも守れず、アリアは両目を失ってしまった。

 私が弱いせいで。


 なのに私は、アリアに王都から追放されて、自暴自棄みたいになって……。


「言うてみよ、小娘!! お主はどうしたいのじゃ!?」


 今のままじゃ駄目だ。

 アリアの側にいても、アリアを守ることなんてできやしない。


 欲しい――力が。

 自分の想いや、皆を守るための力が。


『強くなれ、ヒメナ。アリアだけは何に代えても守るんだ』


 エミリー先生にそう言われたからじゃない。

 私は――。



「私は、強くなってアリアを守りたい!!」



 私がアリアを守りたいんだ!!

 アリアに足手纏いって思われないくらい強くなって、アリアの元に戻ってやる!!



「だから私を、弟子にして下さい!!」


 私は全力で頭を下げてお願いをした。


「「えぇ!?」」


 ――ルグレに対して。


 ルグレは強いし優しそうだから、私の理想像だ。

 私はルグレみたいになりたい。


「阿呆! お主はワシの弟子になるのじゃーっ!!」


 そういえばポワンがルグレの師匠だったんだ。

 忘れてたや。

 てへっ。

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