十四話 狂戦士の歌

 ……メラニーは……嫌だったの……。

 ……孤児院を出るのも……王都に来るのも……。


 ……だって何かが変わるのって……怖いから……新しく何かするって……先が見えなくて凄く怖いから……。


 ……なのに皆は……ドンドン前に行くの……。

 ……メラニーの気持ちを置いて……。


 ……メラニーは……傷つくのが嫌なのに……。

 ……傷つくくらいなら……前に進みたくないのに……。


 ……だって……メラニーは自分が……。



*****



「死ねっ!! キザ野郎!!」


 ブレアが物騒なことを言いながら、ロランの顔に向かって飛び蹴りを放つ。


 ロランは円盾を装備した左手で、ブレアの飛び蹴りを放った足を容易に掴み、ブレアの後ろに続いていた私に向けて、ブレアを投げ飛ばしてきた。


「どわぁ!?」

「ほぇっ!?」


 投げられたブレアは私に直撃する。

 ブレア一緒に倒れ込んだ私達の真横を、エマとルーナが闘気を纏いながら走っていく。


「面倒だけど――」


「逃げれないなら……やるしかなさそうね!!」


 二人は息を合わせて左右から攻撃する。

 エマは右からどこからともなく取り出したナイフを手に、ルーナは左から掌底で。


「ふふっ」


 笑うロランのレイピアを持つ右腕が消える。

 ――否。カニバルの時同様、私達の目では追えない程の速さで動いた。


「……っ……!?」

「たっ……!!」


 ロランのレイピアは二人の攻撃しようとしていた手を貫き、痛みから二人は怯む。

 痛みから手放したエマのナイフはどこかへと吹っ飛んでいった。


「エマ……ルーナ!!」


 アリアが二人を心配する中、私とブレアは喧嘩をしながら体制を立て直し、再びロランに挑もうとする。


「ちょっと、ブレア!! 邪魔!!」


「邪魔なのはお前だ、バーカ!!」


 だけど、ロランとの力の差は歴然だ……!!

 このままじゃ絶対勝てない……アリアが連れて行かれちゃう!!


「アリア、歌え!! お前が歌えば、勝ち目があるかもしんねーっ!!」


 ブレアもロランには勝てないという考えは、同じだったようだ。

 だけど――私は私達がロランを足止めしている内にアリアだけ逃がすかを迷い、ブレアは闘うためにアリアに歌わそうとするという考えの違いがあった。


「でも……!!」


 アリアは少し躊躇する。

 きっとブレアが求めてる歌は、アリアが一番嫌いな歌だ。


「あの一番強いヤツだ!! 頭がバーンってなる!! 闘気使えるヤツ全員にかけろ!!」


 アリアは躊躇していたものの、自分のために騎士団長という強力な敵と闘っている私達のために、腹式呼吸で息を大きく吸い込む。

 同時に大気からマナを大量に吸い込み、歌う準備をした。


 来る……あの歌だ!!


【狂戦士の歌】


 アリアが歌い始めたと同時に、私達のマナと身体能力が増幅する。

 筋肉がビキビキと悲鳴を上げ、私とブレアとエマとルーナの四人から恐怖心や躊躇といった闘うために不必要なものは全て排除されて、ひたすら殺意や闘争心だけに支配されていく。


 ロランは……あいつは敵……!!

 敵は……倒す……殺す!!


 【狂戦士の歌】――歌うのが好きなアリアが、一番嫌いな歌。


 この歌は、歌の対象となった者のマナや身体能力を大きく強化し、対象の思考をただの獲物に襲い掛かる獣のような単調なモノへと変え、文字通り理性を捨てた狂戦士へと変貌させる。


「……ほうっ!」


 ロランは私達の様子を見て驚き、とても嬉しそうに笑った。

 それが何を意味するのかは分からないし、どうだってもいい。


 私達はもう、闘うためだけの狂戦士なのだから。


「「「がああぁぁ!!」」」


 私とブレアとエマとルーナの四人は闘気を大きく纏い、お腹を空かせた獣のようにロランに襲い掛かる。


 そんな私達をロランはあしらう様に、レイピアで高速で正確な突きを放った。

 最適解された突きは私達の太ももや二の腕を貫き、痛みで行動を制限しようとする。


「「「ああああぁぁ!!」」」


 貫かれた体に痛みはある。

 でも、ロランに襲い掛かる攻撃を一切止めない。


 ロランは踊るように華麗に私達の攻撃をいなし、さらにレイピアで私達を突いて来るも、それでも私達は怯まなかった。


「なるほど、面白いな」


 痛みを加えられても、一切怯みも躊躇もない私達を見てロランは笑う。

 当然だ、闘うためだけの歌なんだから。


「「「がああぁぁ!!」」」


 アリアはどんどん傷ついていく私達を見て、苦しそうに歌う。

 綺麗な歌声とは反比例するように、私達は歯を剝き出しにしてロランを襲い続けた。


 ロランは満足気な顔で私達四人の猛攻をかわしながら――。


「これならどうかな?」


 左手で指を鳴らす。


「魔技【紫電】」


 不可避の閃光。

 ロランの鳴らした左手の指元が紫色の雷で光り、私達四人の体を繋いでいく。


「「「がああぁぁ!?」」」


 私達の体に電流が流れ、猛烈な痛みと共に痺れてしまう。

 痛みと痺れで体の自由を失った私達は、煙を上げてその場に倒れた。


「皆っ!!」


 アリアが叫んだことで、【狂戦士の歌】が止む。


「ぐ……ぎ……っ!!」


「体が……」


 【狂戦士の歌】が止まったことで理性が戻って来るも、私達は体が痺れて起き上がれずにいた。


「僕の魔法は【電気】だよ。痺れるだろう?」


 自身の魔法を説明するロランの顔は、どこか自慢気だ。

 きっと自分の魔法が誇らしいのだろう。


 倒れたまま、上手く立てずにいる私達四人。

 ロランはレイピアを手に、無防備な私達にゆっくりと近づいて来た――。

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