ディナータイム・ガールズトーク

 美宇は美味しいレストランをよく知っている。そして私たちはとっても気が合う。お洒落なディナーの後にファミレスでおしゃべりなんてできちゃうくらいに。


「彼氏と別れて私と結婚しない? 」


 とちょっと本気で言ってみたら


「生活も性欲も絡まないからあたし達の友情は最高なのよ」


 なんて粋な言葉でかわされた。生活はけっこう絡んでる気がするんだけどな、お給料とかお給料とかお給料とか、お世話になっているという意味で。


「最近彼氏とはどうなの? 」


 女二人、長話をしているとそういう話がしたいこともある。私は美宇にそれとなく(?)水を向けた。


「それがさ〜」


 美宇の表情が暗い。


「え? 何なんかあったの? 」


「…………順調! 」


「なんだよ〜もう」


 我が親友は親公認の彼氏がいる。交際三年目だが、順調なようで何よりだ。だがそれゆえの悩みもあるようで……。


「バレた時が怖いな〜」


 美宇はため息を吐く。


「バレるも何も、宇宙ランはみんなのアイドル、それをプロデュースする美宇は恋もするしトイレも行く一般人って自分で言ってたじゃない」


 美宇のバーチャル体、宇宙ランは銀盾も獲った実力Vtuberである。裏の仕事が多すぎて露出が減っているものの、virtualaの人気筆頭である。


「あたしはそう思ってるけどね? 縁起でもないけど暴露系にバラされないとも限らないし、バレてから演者とバーチャルは別物で……って言うのも言い訳がましいというか……。いっそ自分から言うか〜って何度も思ってんだけど燃えそうでね」


「まあ燃えそうではあるよね。暴露系は前例があるし」


 美宇が無言で頷く。


 感情交差点の消えた三人目がなぜ消えたか。それは暴露系Vtuberミス・アノニマスとの繋がりと、別件で逮捕というわりとヘビーな理由だったのだ。その件でもともとのマネージャーが辞めてしまい、ニートだった私に御鉢が回ってきたのである。感情交差点についてはデビュー前にリークが相次ぎ、三人目は契約解除にせざるをえなかった。


「あれは怖かったよ……」


 私も美宇と同じ気持ちだ。だからこそ私がマネージャーになれたのでなんとも言えないが。


「でもさ、バレたらバレたでその時に考えればいいじゃん。私もいるし。頼りになるかはわからないけど」


「そうだね」


美宇の顔に笑顔が戻る。


「ありがとう、ひかる」


「いえいえ、どういたしまして」


 美宇にはいつも元気づけられている。私の方こそ感謝しかない。だから私は彼女にとって良い相談相手でありたいと思っている。


「ところで、ひかるはいい人いないの? 」


「う〜ん。今のところはいないかなぁ。limeに友達登録されてるの、学生時代のグループと家族のぞいたら大輝とみっくんぐらいだよ? 」


「手近すぎるなあ」


「手近って」


 まあでも実際問題、イケメンVtuberのマネが同年代の女ってどうなんだろう。代打だからしょうがないんだけど、ガチ恋発狂もんでは……と思わなくもない。


 美宇が悪い顔になった。そういう顔もかわいいから美人ってお得だなぁ。大輝のせいで感覚がバグるけど、私の周りは美男美女が多い。今さら自分の容姿にどうこう思わないけど、ちょっと自信なくすよな……。


「んで? 」


「んでって何」


「ひかる的に二人はアリなの、ナシなの? 」


「美宇、言ってることが悪い意味でおじさんくさいよ」


「ぜ〜ったい二人には言わないから! 」


「……仕事関係はナシでしょ。フツーに」


 我ながらつまんないこと言ってるな〜とは思うが、アイドル売りかどうかは微妙とはいえネット活動者とマネージャーの恋愛はナシでしょ、とファン目線で思う。私の好きな女Vtuberが実はイケメンのマネージャーとラブラブですとか言われたらとりあえず横になるもん。ブサイクだったらツブヤイターのフォロワーゼロ人の鍵垢でキレ散らかす。


「え〜。じゃあ、運営じゃなくてファンだったとしたら、ハクトとクロノどっち推し? 現実要素いっさいがっさい無視して、ツブヤイターと配信の内容しか知らなかったら。なんなら顔だけでもいい」


「……ちょっと考えさせて」


「おっ乗り気だねぇ」


「絶っっっ対に二人には言わないでよ? あと美宇もどっち推しか考えて」


「おけまる」


 真剣に考えること約五分。私たちの出した答えは……。


「はい、あたしから言ってもいいですか? 」


「どうぞ美宇氏」


「まずあたし、二次元限定ですがショタコンなんですよ。あと腐女子」


「存じております」


「まあ色々考えましたが見た目からしてハクト推しで本人ブロックしてるでしょうな。んで本人ブロックしてないアカで死ぬほど歌枠の感想垂れ流す」


 ブロックしてナニするか話さないあたりに現実のハクトに対する配慮を感じる。というかそこまで妄想したらオワリという美宇の行持を感じる。我が親友はイラストも漫画も描けるつよつよ腐女子であり、ナマモノを本人に見せたら斬首教の教祖である。口ではああいうが、Vtuberのエロ絵見れない人だし。私も積極的には見ないけど。


「それではどうぞひかる氏」


「いや私も考えたんですが、私見た目は正直二人とも好きっちゃ好きだけど、ゴリゴリの大優勝だと思ってるけど、ヘキにドンピシャ刺さるわけじゃないんですよ」


「あ〜片目隠れスキーだもんね、ひかる」


「うんうん。二次元限定だけどね」


「そんでそんで? 」


「た〜〜〜ぶん配信内容とキャラ的にクロノ推し。こう、粗野で口調荒めのキャラのが好きだからさ。クロノ推しからのユニット推しになってそう」


「わかる〜〜〜! ひかるならそういうと思った! 」


 私と美宇は、とても本人には聞かせられない話で大いに盛り上がったのだった。


 そんな話も盛り上がれるから、私達の友情は最高なのだ。



✳︎✳︎✳︎

作者が体調不良になっていた兼ね合いで本日より更新が毎週土日20時となります。次回の更新は22日の20時です。申し訳ありません。ストック貯まりしだい毎日更新に戻します。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る