蒼川ハクトデビュー配信

「おはようございます。みなさん初めまして! 蒼川ハクトです! 」


 ハクトの配信が始まった。大輝の地声からは想像のつかないゴリゴリのアニメ声。舞台で鍛えた滑舌は配信越しでも聞き取りやすい。


「音量大丈夫ですか? 」


ハクトの呼びかけにコメント欄が反応する。


ランたそ激推し「大丈夫」

miroro「だいじょぶだよ〜」

にんにん丸「BGM大きいです」


「あ、BGM大きいですか? 今調整します。え〜っと、あ〜っと。え、ボクの声小さくなった? え、あのコレいじったらいいはず……えっと」


 黙らないようにしているのが裏目に出ているのか、えっとを連発しながらBGMを調整する。さすがに緊張してるみたいだ。私は別室にいるけど、あんまり苦戦するようだったら助けに入ろうかな……と思っている間に調節できたみたいだ。ちなみにランたそとは、弊事務所の代表である宇宙ランのことだろう。


 現在のVtuberの主流であるいわゆる『御三家』ほどではないが、箱バフといわれる事務所の他メンバー推しがチャンネル登録をしてくれる現象は存在するようで、ハクトもクロノもチャンネル登録者千人を突破している。Vtuber飽和時代ともいわれる現代においてはかなり健闘しているのではないだろうか。まあ御三家所属だと、初配信時点で登録者十万人とか全然あるのだが……。


「改めまして、virtuala一期生、ユニット『感情交差点』所属の蒼川ハクトです。よろしくお願いします! あ、挨拶は時間関係なく『おはようございます』でお願いします。配信の始まりは一日の始まりだと思って気を引き締めていきたいので。あと芸能人みたいでちょっとカッコイイでしょ?」


 パチンとウインクを決める。大輝には配信中は眼鏡を外してコンタクトにするよういってある。表情のトラッキングもうまくいっているようだ。


miroro「かわいい」

詩月サラ「挨拶こだわり勢?」


「じゃあ自己紹介に移らせていただきます」


 事前に用意してもらったスライドに画面が切り替わる。まだコメントを気にする余裕はないみたいだ。


「え〜、まず名前は蒼川ハクトです」


詩月サラ「名乗るの三回目だよ笑」

にんにん丸「落ち着けwwwwww 」


「で、種族が半人半魔。同期兼ユニットメンバーの赤城クロノと一緒です。だいぶ見た目違いますけど、まあ魔族といっても色々いますので。赤城さんとは事務所を通じて知り合った感じです。半分魔族ですけど、生まれも育ちもバーチャル日本です」


 この辺りの設定は後々ボロが出ないように設定してある。変にクロノと幼なじみ設定とか大親友とか、モ○っぽい見た目にあわせて山育ちとかにすると、ぽろっと矛盾すること言いやすいからだ。


「特技……かはわかりませんが、ジャズダンスとタップダンスを習ってました。歌うことも好きです」


ランたそ激推し「3D待機」

miroro「歌枠楽しみ」


「あ、コメントでおっしゃっている方いますけど、明日の夜に歌枠があります。お楽しみに」


 もろもろ許諾とったので準備はバッチリだ。


「好きな食べ物はクリームソーダです。近頃純喫茶流行っててちょっと凝ったやつあるじゃないですか。あれが好きです。ファミレスの舌が緑になるメロンソーダも好きですけどね。基本的に甘党です。嫌いな食べ物は辛いもの全般ですね。嫌いっていうか食べれないので」


にんにん丸「クリームソーダは飲み物じゃ」

miroro「純喫茶うちも好き」

ランたそ激推し「これはペヤ○グフラグ」


 早くも特定のリスナーにコメントが偏りがちであるものの、スパムや荒らしはいない。モデレーターとして頑張るぞ! と息巻いていたが、幸いにも活躍の場はないようだ。あまり歓迎されていない男ユニットとはいえ、事務所箱推しの民度はいいようだ。同時接続数もまあ……悪くない。


「あとでツブヤイターにまとめますけど、タグは#蒼川ハクト、配信タグは#ハクト配信中、ファンアートは#ハクト画廊でお願いします。ファンアートはサムネイルや動画などで使わせていただくことがございます。それで、ファンネームなんですけど、三つ候補があるのでアンケートとります」


チャット欄にアンケート機能を使って三つの候補が表示される。

①蒼の民

②ハクト応援隊

③飼い主


miroro「飼い主⁈ 」

にんにん丸「おい③www」

ランたそ激推し「ネタを投下する配信者の鑑」

詩月サラ「飼い主は草」


「五分の間に投票お願いします」


 全身立ち絵(ママが撮ってくれた写真)の紹介もろもろをし、トラブルもなくハクトの初配信は終わった。ちなみにファンネームは飼い主になった。事前に相談済みだが、お前はそれでいいのか……。事務所の方針としては彼自身の自由だから、まあいいのだが。


 ちなみに投票に五分も割いたのは失策だった。時間が余ってスクショタイムにしたのは英断だったけど。


「ご清聴ありがとうございました。ご機嫌よう〜」

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