38 その時

 その時、徳川准に説明できる感情はなかった。

 仲間のために犠牲になるつもりもなかったし、盾になって皆を守る美談にも興味なかった。リーダーとしての責任感もなく、勇気でもない。

 三年四組のみんなが好きだった。

 最悪のクラスの筈の三年四組が、彼の中で変わっていった。

 この二ヶ月共に暮らしたからだ。彼等の表面だけではなく、違う部分を准は知った。

 源白夜は時に誰よりも的確に物事を判断する。平深紅は実は誰よりも仲間思いだ。小西歌は人が傷つくのを放っておかない。真田亜由美子は本当に誰よりも慈愛に満ちている。その他の仲間達もそれぞれいいところ悪いところがあり、『最悪』でしかなかった印象はいつの間にか覆っていた。

 彼等が好きだ。彼等を死なせたくない。

 木村、笹野、野々村、嶋、平……これ以上の犠牲を出してはならない。

 黒咲だって……そう彼等だってきっといいところがある。ただ知らないだけだ。

 だから。だから、徳川准は咄嗟に彼等の盾となった。

 ……三年四組は僕が守る!

 御者席から飛び降り黒いローブとフードの人物の前に出る。手に握っているメイスを彼が投げつけるのと、黒ローブの魔法の完成、最後のサイクロプスの頭を力角が粉砕するのはほぼ同時だった。

 膨れあがった黒い電撃の矢が准の胸部を貫き、彼のメイスは黒いローブの人物の右肩に当たる。

 誰もの時間が、その瞬間に止まった。

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