第8話 絶対服従幼稚園
タクミが、おばあさんにお守りを返した次の日。幼稚園では給食が終わり、自由遊びの時間がやってきた。
「おい、それ俺に貸せ!そっちのおもちゃも、俺が使う!」
「あっ…それ、私が…。」
教室の一角では、大きな体のショウタが、大きな声と大きな態度で、気弱な園児からおもちゃを奪い取っていた。
「ショウタくん、ダメだよ!そんなことしちゃダメ!」
ショウタに負けない大きな声でそう言ったのは、タクミだった。もちろん、そのズボンのポケットには、あのお守りは入っていない。
「うるさい!俺が遊びたいんだよ!」
「でも、持って行っちゃダメだよ!今は他の人が遊んでたじゃないか!順番は守らなきゃ!」
「うるさいうるさい!」
聞く耳を持たない様子のショウタに、タクミは声色を優しくして、ゆっくりと語り掛けた。
「…どうして、いつも他の人が遊んでるおもちゃを取っていくの?」
「ふん!そんなの、誰かが遊んでるのを見ると、俺も遊びたくなるからに決まってるだろ!」
「…誰かが遊んでるのを見たら、ショウタくんも同じおもちゃで遊びたくなるの?」
「だから、そう言ってるだろ!」
「それなら…それなら、一緒に遊ぼうよ。」
「…えっ?」
「ショウタくん、この救急車のおもちゃが好きなんでしょ?僕も、このおもちゃがすっごく好きなんだ!だから、一緒に救急車ごっこして遊ぼうよ!」
「…一緒に…。」
「うん!一緒に遊んだら、きっと楽しいと思うんだけど…どうかな?」
「…。」
思いもよらない提案に、ショウタは黙り込み、何かを考えているようだ。
「…いいよ。」
「…ホント?ホントに、一緒に遊んでくれるの?」
「うん…救急車ごっこするなら、このおもちゃいらないから、返してくる。」
「うん!」
ショウタは、奪い取ったおもちゃをミクに差し出すと、バツが悪そうに何かをつぶやき、タクミのもとへと戻って来た。
「言っとくけど、今日は俺が救急車使うからな。タクミは消防車な。」
「うん、いいよ。でも、明日は僕にも救急車使わせてね。」
「…うん。」
その日の教室には、楽しそうに救急車と消防車で遊ぶ、二人の楽しそうな声が響いていた。
「ねぇ、タクミくん。ちょっと聞きたいことがあるんだけど…。」
自由遊びの時間が終わってすぐ、そう声を掛けてきたのは、ミクだった。
「うん、なぁに?」
「あのね…さっきはありがとうね。それとね、どうしたら、タクミくんみたいにショウタくんと仲良く遊べるかなって…。」
「ああ、それなら…明日、三人で遊ぼうよ!」
「…いいのかな…?」
「大丈夫!ショウタくん、とっても面白いんだよ!」
それを聞いたミクは、安心したようにパァッと笑った。
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