第6話 絶対服従幼稚園

タクミの日常に、二つの日課ができた。


一つは、横暴な態度を見せるショウタを、分かりやすい言葉で諭すこと。そしてもう一つは、タクミとショウタとのやり取りを見て、その秘密を聞きにやって来るミクを、言葉巧みに誤魔化すことだ。もちろん、二人がタクミの思い通りに動くのは、常にポケットに入っているお守りの効果に他ならない。


そんな毎日を過ごす中で、お守りの効果について、新しいことが分かってきた。どうやら、お守りによって「絶対服従」状態になっている間の記憶は、うまい具合に改変されるらしい。

つまり、ショウタもミクも、「絶対服従中の記憶が丸ごと消える」のではなく、「タクミの言うことを聞いた」という記憶だけが抜け落ちるため、自身の行動や記憶に疑問を持つことはないようだ。


そのため、ミクは毎日、まるで初めて話しかけるかのように、タクミに声を掛けて来るのだ。そしてその度に、タクミは同じように答えるのだった。


「ねぇ、タクミくん。ちょっと聞きたいことがあるんだけど…。」

「…ごめんね、ミクちゃん。僕とショウタくんのことは気にしないで、いつも通り遊んでてね。」

「…うん、分かった。」



この事実は、タクミの心を大きく揺さぶった。


「(ショウタくんもミクちゃんも、僕が『ゼッタイフクジュウ』させてることは覚えてないみたいだ…怪しまれることはないから、それは良いんだけど…でも、だからと言って、毎日毎日、僕の好きなようにやってていいのかな…。)」


 タクミは、次第に罪悪感に押しつぶされそうになっていった。





「…どうしたの?タクミ。幼稚園で、なにか嫌なことでもあったの?」


 幼稚園から帰ってすぐのこと。その暗い表情に気付いたのは、タクミの母親だった。


「ううん…別に…なんでもないよ…。」

「…本当に?」

「…うん、本当に大丈夫。」


 タクミはそう答えるが、明らかに何かを考え込んでいる様子の息子に、母親は心配でたまらないといった風に、優しく声を掛け続けた。


「そう…でもね、お母さん、心配なのよ。この前まで、あんなに楽しそうに幼稚園に行ってたのに…。」

「大丈夫なの!だから、もう何も言わないで!」


 タクミの強い言葉に、母親は一瞬動きを止め、それからゆっくりと口を開いた。


「…うん、分かった。」

「…!」


 タクミは、何も言わずに台所へと歩いていく母親の後ろ姿を見ながら、言葉を失った。そして、ブルブルと震える右手をズボンのポケットに突っ込む。そこには、いつも通りあのお守りが入っていた。


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