第2話 絶対服従幼稚園
「アハハハハ!」
「今度はあの滑り台で遊ぼうよ!」
よく晴れた日の午後。この日は年長クラス全員で、近くの公園に遊びに来ていた。幼稚園の園庭にはない遊具がたくさんあるため、園児たちのお気に入りの場所だ。
「…。」
タクミは、楽しそうに遊びまわる園児たちの輪から外れ、ひとり公園のベンチに座っていた。時折、心配した先生が声を掛けにくるものの、今日はどうしても、楽しく遊ぶ気分にはなれなかった。
「…おやおや、ボクは遊ばないのかい?」
一人で過ごしているタクミに、そう声をかけてきたのは、白髪頭のおばあさんだった。おばあさんは、ゆっくりとした足取りで近づくと、よいしょ、と声を出しながら、隣のベンチに腰掛ける。
「…遊ばない。」
タクミがそう返すと、おばあさんは優しく微笑みながら、穏やかな口調で語りかけた。
「そうかい。まぁ、遊びたくない時もあるよねぇ。…何か嫌なことでもあったのかい?」
「…ショウタくんが、おもちゃをとるの。」
「ショウタくん…同じクラスのお友だちかい?ボクのおもちゃをとっちゃうの?」
「うん、そう。僕が遊んでたのに、いつも救急車とか、持っていくの。ダメだよって言っても、聞いてくれないの。」
「そうかいそうかい。それは悔しいねぇ。ボクは頑張って、『ダメだ』って言ってるのにねぇ…それは嫌だねぇ…。」
「うん…そうなの…。」
タクミは、今にも泣きだしそう、といった表情で、地面を見つめている。その様子を見ていたおばあさんは、何かを思いついたように、小さなリュックサックから、何かを取り出した。そして何かをつぶやく、タクミに向けて差し出した。
「はい。これ、ボクにあげるよ。」
「…?なぁに?これ。」
「これはね、『魔法のお守り』なんだ。このお守りにお祈りしながら、誰かに向ってしゃべると、その相手を『絶対服従』させられるのさ。」
「ゼッタイ…フク…ジュウ?」
「どんなことでも、相手がボクの言うことを聞くってことさ。」
「どんなことでも…じゃあ、このお守りを使えば、ショウタくんがおもちゃをとらない…っってこと?」
「ああ、そうとも。そのお友だちが、ボクのおもちゃをとろうとした時に、お祈りしながらいうのさ。『今は僕が遊んでるんだから、このおもちゃを持って行っちゃダメだよ!』ってね。すると、お友達はボクの言うことを聞いてくれるはずだよ。」
「…ホントにそんなことできるの?」
「ああ、本当だとも。ただし、気をつけなきゃいけないことが、二つあるんだ。」
「気をつけること?なぁに?」
「一つ目は、『何をさせるか、ちゃんと細かく説明しなきゃいけない』ってことだよ。ただ『やめて!』と言うだけじゃ、何をやめればいいのか分からないからね。そして二つ目は、このお守りを使って悪さをしないってこと。とっても強い力だから、決して悪いことに使ってはならないのさ。…分かったかい?」
「ええと…ちゃんと説明するのと…悪いことに使わないの…うん、分かったよ!」
「ふふふ、それじゃあ、頑張ってね。」
「うん!ありがとう、おばあさん!」
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