第30話 より一層可愛らしく見えてくる

「なんだそんな事か」

「………………………………そ、そんな事……ですって……。 絶対に潰しますっ」

「ん? 何か言ったか?」

「いえ、何も……」

「ふーん、あっそう。 でも奴隷だと言いたい事もそうやってぼそぼそとご主人様に聞こえない程度の声でしか喋れない内容もあるし、何なら俺が君を奴隷から解放してあげようか? その代わり俺の冒険者クランに入ってもらう形になるけど、君さえよければどうかな?」

「…………お断りします」

「成程、その最初の沈黙が答えって訳ね。 オーケーオーケー。 それじゃぁ、今は恐らく命令されて全力で戦わないといけないみたいだけど全て俺に任せてくれ。 絶対に君を助け出してあげるよ」


 耳に魔力を集中させて闘技場の中央へ行った二人の会話を盗み聞きしているのだが、流石にこれはルール違反であろう。


 その事を、怒鳴ってしまいそうになるのを必死に堪えながらギルドマスターに報告する。


「申し訳ない。 俺も二人の会話は聞いていたのだが流石にあの内容は弁解の仕様が無い。 こちらとしても一度目ならばまだしも流石に二度目となればこれ以上はアイツを庇いきれない。 また、彼女の冒険者登録に関して今回の模擬戦の結果に関わらずランクEから登録をさせていただきます……後はウェストガフ様の判断に任せますのでギルドへの報復などに関しては寛大な処置をお考えいただければと」


 そしてさすがのギルドマスターも庇いきれないらしく、アイツの首を差し出すので許してほしいとお父様に提案する。


「そうだな、どうするかはローレンスに決めてもらおう。 それで良いか? ローレンス」

「はいっ! お父様っ!!」


 そんな会話をしていた時、試合開始の甲高い笛の音が鳴り響く。


 まず仕掛けたのはフレイムで、相手の元へと一直線で駆けて行くのが見える。


 そして、障害物も何もない場所で一直線に駆けて来るフレイムを格好の的であると思った相手はフレイム目掛けて遠距離魔術を行使しようとしたのだろうが、その時にはフレイムは翼を使って低空飛行をしていたらしく相手の懐まで一気に距離を詰めており、そのままの勢いで相手の鳩尾を蹴り飛ばしている姿が見える。


 そのフレイムの姿を見て俺は『普段のフレイムと違って荒々しいな』とは思うのだが、恐らく緊張から荒くなってしまっているのだろう。 


 俺の期待に応えたいという想いから来た緊張感だと思うと、なんだか緊張しているフレイムがより一層可愛らしく見えてくるではないか。


 この模擬戦が終わったら勝とうが負けようがめいいっぱい労ってあげようと思う。


 しかしながら、あのスピードから繰り出されるドラゴノイドであるフレイムの蹴りがもろ相手にヒットしたように見えたのだが、彼は大丈夫なのだろうか? 低く鈍い、人が蹴られた時に出してはいけないような音が聞こえた為少しばかり心配になって来る。

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