第2話 昼休み
「それで、消えた『AIR-IN』を探してほしいという依頼かい? 教室の中にあるのは確実なのだから、掃除の時間にでも見つかるさ」
昼休み。僕はとなりの教室5年1組に来ていた。
「違うよ。そっちはすぐに見つかったんだ。それで中休みの試合は市川くんの優勝ってことで決着はついた」
目の前に座って文庫本を読んでいた
「では何が問題なんだい?」
「次の5分休み、つまり3時間目と4時間目の間の休みだけど、そこで市川くんが、『これは俺のMONOじゃない』って騒ぎ始めたんだ」
「ふぅん」
「僕らには何が違うのだかわからなかったんだけど、彼が言うには、手触りや重さが試合前と変わっているらしい」
「そんな主観的なことを言われてもね。『勘違いじゃないの?』と言わざるを得ない」
「客観的な証拠としては、バーコード下の数字が違うんだって」
バーコードの数字なんて僕は気にしたことがなかったから、彼がそれを暗記していることにドン引きだった。
「そいつはおかしいね」
「そうでしょ?」
同意を得られてうれしい。
「つまり彼は、自分の『MONO』が何者かによって入れ替えられたと主張しているわけだ」
「そうなんだ。市川くんはその『MONO』を使い始めた6月から、たしかに無敗を貫いている。最強の消しゴムを奪い取ろうという者の犯行だって疑い始めて、今5年2組はとってもぎくしゃくしている」
「彼の主張が正しいとすると、すり替えて最強の消しゴムを得ようとした容疑者は消しバト選手たちということになるね?」
「うん……」
『AIR-IN』使いの
『まとまるくん』使いの
『レーダー』使いの
『カドケシ』使いの
以上の四人と、あとは審判の僕も入っているのかもしれなかった。全員市川くんの消しゴムに手が届く距離にいた。
「ところで、市川くんのその『MONO』は、なぜそんなに強いんだろう?」
五反田くんのごもっともな質問。それは僕だって知りたい。
「市川くん自身が言うには、偶然の産物なんだそうだよ。削れ具合がちょうどよくて、滑りすぎず滑らなすぎず。彼の『MONOコレクション』の中でも唯一無二の存在だって……」
「ちょっと待って。『MONOコレクション』って何?」
「市川くんは、消しバトを極めるためにありとあらゆるサイズの『MONO』を収集しているんだ。彼のお道具箱は『MONO』でいっぱいさ」
「へぇ……」
今度は五反田くんが引いている。
「まぁ偶然の産物だからこそ、躍起になって探しているんだ。二度同じものは作れないからね」
「その『MONO』コレクションの中から、いかにして最強の消しゴムを見つけたのかな?」
五反田くん……もしかしたら消しバトに興味津々なのだろうか。昼休みにも本を読んでいて、あまり周りと群れないタイプだと思っていたのだけれど。
「ある日の授業中、コレクションの中から一つ、消しゴムが転がり落ちてしまったらしい。彼は落としたことにも気が付かなかったようなんだけど、前の席の前田くんが拾って届けてくれた。市川くんは『こんな消しゴム使ってたっけ』と思いながらも、なんとなく次の消しバト試合に使ってみた。すると、なんだかとても使いやすい。軽やかな身のこなしで優勝。以来負け知らず。『これは運命の出会いだ』と、思ったんだとさ」
「出会いもまた偶然というわけか」
そろそろ昼休み終了の時刻が迫ってきた。
「それで、引き受けてくれるかい?
まわりの小学5年生男子よりもちょっと大人っぽい五反田くん。彼は5分休みのうちに難事件を解決する探偵として、この小学校ではちょっとした有名人だ。
「構わないけど……今回は高くつくかもね。それでは次の5分休みに」
昼休み終了のチャイム。ここからは掃除の時間だ。
「……あ、そうそう」
自分の持ち場へ向かおうとする僕を、五反田くんが呼び止める。
「一応確認しておくけど、5年2組の今日の3時間目は図画工作だったかな?」
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