第21話


 時計を見ると、呼ぶには少し遅い時間だ。

 もしかしたらもう寝ているかもしれない。

 でも今言わないとカエさんが辛い思いをしていては申し訳ないと思った俺は一か八かでスイッチを押す事に。


 カチッ。


「アニさん‥‥?」


 カエさんはパジャマ姿で俺の布団にいた。


「就寝中でしたか?」


「ベットに入って眠ろうとしていたとこでした」


「すみません」


「謝らないで下さい。実を言うとアニさんの事を考えていたんです」


「俺の事ですか?」


「はい。隣にアニさんが居たらなぁって。だから私の思いが届いたのかと思いました」


「カエさん‥‥」


 よかった。別に怒ったりはしてなさそうだ。


「アニさんは何してたんですか?」


「あ、俺は少し用事で出かけてて、さっき帰ったんです。今日は色々あったせいかすごく疲れてしまって」


「そうだったんですね。それなのにスイッチを?」


「はい、疲れているからこそカエさんの顔が見たくなったんですよ」


 って何言ってるんだ俺。


「嬉しいです。アニさんの心に少しでも役に立てるなんて」


「いや、急に呼び出してすみません」


「いいって言ってるじゃないですか。それより横になって下さい」


「えっ、‥‥えっと」


「ふふっ。変な事はしませんから」


「あっ、はい」


 俺はカエさんに言われた通り横になった。


「うつ伏せでお願いします」


「はい」


 すると、カエさんは俺の腰に跨ってきた。


「カ、カエさん?」


「リラックスして下さい。マッサージしますよ」


「あ、ありがとうございます」


 変な事はしないと言いつつも少し期待をしていた俺は大馬鹿者だ。


「わぁ、すごい凝ってますね」


 カエさんは慣れた手つきで揉みほぐしてくれている。

 気持ちいい。


「カエさんお上手ですね」


「ありがとうございます」



 俺はすっかりリラックスしていつの間にか眠ってしまっていた。


 ん〜、と伸びをして、起きあがろうとするとカエさんが俺の横で寝ている。


 そっか、カエさんも寝る前って言ってたし疲れてたんだな。

 それなのに俺を癒してくれてなんて優しい人なんだろう。


 カエさんの顔をじっくり見れるチャンスだと思った俺は何事もなかったかのようにまた転び、カエさんの顔をまじまじと見ていた。


 ふっ、可愛い。

 自然に頬が緩んでしまう。


 しばらく見つめていると、いきなりカエさんの目がパチっと開いた。


「アニさん‥‥」


「は、はい」


「キス‥‥して」


 顔の距離は近いまま。

 カエさんの目は真剣に見えた。


 そうだ、俺はカエさんに気持ちを伝えようとしてスイッチを押したんだ。

 ここで拒否するのは男じゃない。


「本当にいいんですか?」


「‥‥はい」


 カエさんはそう言うと目をゆっくり閉じた。


 そして、俺は意を決してカエさんの唇に触れた。

 

 何度も。


 俺は段々と気持ちが昂っていき、キスも激しくなる。


「んっ//」


 カエさんの声を聞いた俺はついに我慢出来なくなり、聞いた。


「カエさん、俺が初めてをもらってもいいですか?」


「‥‥はい。アニさんがいいです」


「カエさん、好きです」


「私も‥‥好きです」


 俺はカエさんを抱き寄せ、体を密着させる。

 こんなにも温もりを感じるのが幸せだとは思わなかった。


 部屋には俺の鼻息だけが響き渡る。


 そして服の中に手を忍ばせ、カエさんの細いウエストを撫でるように上へと手を滑らせる。

 カエさんはどんな顔をしてるんだろうと何気なく顔を覗いた俺は手を止めた。


 そこには目をギュッと瞑り歯を食いしばっているような表情があった。

 それを見た俺は我に帰る。


 違う。


「カエさん、ごめん」


「どうしたんですか」


 カエさんは少しホッとしたような、でも残念そうな複雑な顔をしていた。


 そして、あれだけ誘惑していたのもカエさんなりに頑張っていたのだと思うととてつもなく愛おしく、そして守ってあげたいと心から思った。


 例え国の試験に使われていようとも俺はカエさんの気持ちを尊重する。

 そう決めた。


 そして伝える事にした。


「カエさん、少しお話しませんか?」

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